表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大国主になった厨二 古事記世界でチート無双  作者: かぐけん&亜美会長
第七章 海人族とイト国の女王編
94/167

ガイムさんの過去

 武器屋に入ると店主のガイムさんがいた。


「ガイムさん、こんにちは!」


「おお、坊主か。もう新しい武器を買いにきたのか?」


「いえ、近くに来たので寄ってみたんです」


「なんだぁおい! ひやかしか?」


 そこでスセリとヤカミが店に入ってきた。

 それを見たガイムさんの顔色があきらかに変わった。


「おい、坊主ちょっと来い」


 背中を押されて店の奥まで連れていかれた。


「おい、どういうことだ?」


 ガイムさんはとてもあわてている。

 スセリとヤカミの美しさに驚いたのだろうか?


「なにがですか?」


「坊主が連れてきたのあれイナバの姫さんじゃねーか? おい、どうなってる?」


 ガイムさんは、ヤカミの顔を知っていたようだ。

 テレビも雑誌も無いこの時代で顔がわかるってことは、見たことがあるということか。

 まあ、ヤカミは有名だし、イナバ国はヤカミのショーを見たい観光客で成り立っている観光立国みたいだから、そういうのを見たことがあるのだろうか?


「いや、どうというか、いっしょに旅をしてまして・・・」


「ハァ? 姫さんと旅ってなに言ってんだおまえ? しかし、おまえに誘拐するような胆力見えねえしな」


「なにをしてるんですか?」


 ヤカミが奥までやってきた。


「いや」


 ガイムさんが焦って後ずさり、顔を隠しているようだ。


「あれ? ガイム?」


「ち、違う」


「ガイムね。なぜ嘘をついているのです」


 ヤカミがガイムさんの顔をのぞきこむと、ガイムさんは渋々とうなずいてそれを認めた。


「え? 知り合いなの?」


「ガイムはイナバ国の騎士団長でした。3年前に国境付近でハリマ国との小競り合いがあり、そのときに足を負傷して退団し、それから逃亡して行方知れずになっていたのです」


「おいおい、姫さんよ。逃亡はねえだろう? こちとら退団してから国を出たんだからよ」


「あなたの退団は正式には認められていませんよ。退団届けを部下に預けて、そのまま出国したのでしょう?」


「もう戦えねえんだ。俺が城にいる意味はないだろう? なにせ俺は平民出だし戦うことくらいしかできねえからな」


「あなたほどの武功なら、いくらでも官職がありました」


「性にあわねえんだよ」


 どうやらガイムさんはイナバ国の騎士団長だったらしい。

 それならヤカミの顔を知っているはずだ。


 ケガをして退団し、ここに店を開いたようだ。


「で、姫さんはなんでこんなところにいるんだ?」


「主人についてきたのです」


「主人?」


「我が主人、オオナムチ様です」


 ヤカミが頬を染めて笑みを浮かべ、俺の腕にからんできた。


「な!?」


 ガイムさんがあからさまに驚いている。

 言葉を失うとはこのことか?


「わたしが正妻ですよ」


 スセリが逆の腕にからんできた。


「せ、正妻?」


 ガイムさんの目が飛び出そうなくらい開いている。

 口も顎がはずれそうな勢いだ。


「ワ国スサノオ大王が息女、ワカスセリヒメノミコトと申します」


「スセリ姫ぇ!?」


 ガイムさんが驚いて転びかけた。


「坊主? どういうことだ?」


「スセリとヤカミを娶ることになりました」


「な? え? え?」


「オオナムチ様は我を娶り次期ワ国大王となられるお方なのです」


 スセリが告げると、ガイムさんは口をパクパクさせた。

 そして、放心状態で歩き出して店の入り口を閉めた。


「今日はもう閉店だ。とりあえず奥で茶を出す」


 奥の部屋のテーブルにつくと、ガイムさんが紅茶のようなものを淹れて来た。


「ガイムはイナバ国最強の騎士として近隣(きんりん)に知れ渡る戦士だったのです」


「よせよ姫さん、今じゃただの武器屋だ」


「あなたがいなくなって国は混乱したのですよ」


「折れた剣に出番はないんだよ。俺がいては後任もやりにくいだろうしな」


「小競り合いではなかったのでしょう?」


 スセリが唐突に告げた。


「ん? なにがだ?」


「ハリマ国は本格的侵攻として軍を率いて攻めてきたはずです」


「なぜそんなことが言える?」


 ガイムさんの表情が厳しくなった。

 ヤカミはきょとんとした顔をしている。


「ハリマ国の使者より、スサノオ大王への通達が来ていたからです。イナバ国へ侵攻するが、戦勝の暁にはイナバ国の西半分を差し出すので、イナバへの侵攻を許可してほしいというものです」


「そうだったの?」


 ヤカミがスセリをにらんだ。


「父はとくに返答もしないで傍観(ぼうかん)していたようですが、ほどなくしてイナバ国侵攻失敗の報告が届いていました。ガイムさんが侵攻を防いだのですね?」


 ガイムさんはしばらく考え込んでいたが、やがてタバコに火をつけた。

 吐き出された煙が、空中に白い模様を作る。


「あいつは強かった」


「あいつ?」


「ハリマ国大王のヒボコだ。国境の砦で侵攻してきた軍勢を迎え撃った俺たちは優勢だった。戦の趨勢(すうせい)は決まり、俺は勝鬨(かちどき)をあげようとした。そのときだ」


 ガイムさんがふぅっと煙を吐き出した。


「戦場を割ってあいつが一騎駆けしてきた。黒い馬に黒い甲冑、兜には牛の角みたいなのがついてたな。あいつは俺の部下の陣形を一直線に切り裂いて、そのまま砦に向かってきたんだ。ただの一騎でだぞ?」


 ヒボコ?

 アメノヒボコか?

 古事記では天之日矛(あめのひぼこ)、日本書記などでは天日槍(あめのひぼこ)とされる新羅(しらぎ)から渡来した王子とされている。

 まだ調べていないので確実ではないが、新羅という国ができるのはもっと先のことだと思うのだが、名前が同じということは同じ可能性が高い。


「あいつは砦の環濠(かんごう)を飛び越えて、俺の前に立った。そして、将兵を失って占領できないから此度の遠征はやめる、しかし、次の戦の種をまいておこうと言って、俺に斬りかかってきたんだ」


 砦に単騎で飛び込み、司令官であるガイムさんの前に立ったのか、すごい胆力と武力なんだな。

 ヒボコ、なんとか会わずに済ませたいものだが、おそらく俺とヒボコは相対することになるだろう。

 だって、神話では、大国主命と天之日矛(あめのひぼこ)ってガチガチにやりあうライバルとして語られているんだよな。

 はあ、憂鬱(ゆううつ)だ。


「やつは強かった。俺を助けに入ろうとした部下が斬り飛ばされるから、自然と俺とやつの一騎打ちになった。40合は斬りあっただろうか、俺は膝の腱を斬られた。勝負は決したと覚悟を決めたが、やつは背中を向けて環濠(かんごう)を飛び越えて去っていったんだ」


「なぜ止めを刺さずに?」


「ああ、俺もそう思って聞いた。なぜ止めを刺さないのかとな。やつは振り返って言った。我の強さと恐怖を語る者が必要だと、次の戦の種をまくってのは、兵に恐怖心を植え付けておくことだったんだな」


 ガイムさんは汗びっしょりになっていた。

 その時のことを思い出したのだろう。


「だから俺は去った。俺はあの男に負けた。そして恐怖したんだ。俺はもうあいつとは戦えねえ。そんなやつが軍の中枢にいたら、勝てるはずなんてないだろう? イナバ国に俺の居場所はなくなったんだ。だから去った。イナバを守るためには折れた剣ではダメなんだ」


 ガイムさんは自重気味にそう言った。


「小競り合いだと聞いていましたが・・・」


 ヤカミも驚いている。


「情報操作ってやつだな。都合悪い事実は隠されたのさ。おい、茶が冷めるぞ。うちにある一番高価なやつなんだからな。しっかり味わって早く飲め」


「あ、はい」


「アマにはなにしにきたんだ?」


「アマ国王への挨拶ですね。それと隠れ里、いや、今は村なのかな。俺が滞在していた村に挨拶に行きます」


「そうか、しかし坊主が次期大王なあ。はじめて見たときにただ者じゃないとは思ったが、なにがどうなってそうなったんだ?」


「いやまあ、俺もよくわかりません」


「アマを出る前にもう一度寄れ。土産を用意しておいてやる」


「え? そんな悪いですよ」


「姫さんもいるからな。俺もイナバ国に食わせてもらってた恩がある。恩返しをさせろ」


「わかりました」


 ガイムさんは、なんとか落ち着いたようで、俺たちを送り出してくれた。


 ちょうどよい時間になったので、俺たちはアマ王城に向かうことにした。

ブックマークや評価、ありがとうございます。

とても励みになっています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ