初陣は大暴れ
「おい! 起きろムイチ」
「んあ?」
まどろみから目覚めると、そこにはムル教官がいた。
「うわ、目覚め最悪」
「おいムイチ、せめて口に出すな!」
「てか、こんな朝早くどうしたんですか? 出発はまだでしょう?」
俺はベッドから起き上がりながら、寝癖のついた髪を手で撫でつけた。
「モウグとムウラが2000の兵を連れて夜中のうちに出発したようだ。俺たちは置いていかれたってこったな」
「なんですと!?」
ひしひしと対抗意識は感じていたが、まさか置き去りにされるとは・・・。
まあ、とにかく追いかけよう。
「追いましょう。スセリとミナは?」
「もう下で待ってる」
俺は慌てて準備をして、天鳥船の甲板に降りた。
「おはよう」
「オオナムチさん、おはようございます」
「あい」
スセリは皮の防具の上に白い服をまとい、ミナは赤い着物に紺の袴姿だ。
戦場に向かう服装としてはどうかと思うが、まあこの二人ならば問題はないだろう。
階段を下りて、天鳥船下層の昇降機で、さらに天宮山まで降りた。
「追いかけよう。ムル教官、先導してくれ!」
「ああ、まかせておけ」
ムル教官はおにぎりを食べながら答えた。
「飛ばすぞ」
ムル教官は異空間収納から巨大な斧を取り出して、草木や蔦なんかの障害物を斬り飛ばしながら走る。
近道のため、西のイビシまで山中を駆けるのだ。
「ちょうどイビシで追いつくくらいだな」
モウグとムウラたちは三時間前に出発したようだ。
2000の兵を連れての行軍速度は速くはないだろうし、俺たちはとてつもなく速い。
ムル教官の見立てでは、反乱が起きているというイビシで追いつく予定だ。
起伏に富んだ深い森の中を、草木や枝が飛んでいく。
その切り開かれた道を、俺たちが飛ぶように駆けてゆく。
実力を隠さなくなったムル教官の先導は速い。
さすが天冬衣さんの長子の八十神として、イズモ国王に推されている器だ。
一時間ほど走ると大きな川に突き当たり、この川を遡るとイビシだとのことだった。
「あと20分ほどだ。しかし、一戦はじまってる感じだな。見てみろ。煙が立ち昇っているぜ」
ムル教官が指す方向を見ると、森の向こうに黒い煙がもうもうと立ち昇っている。
「急ぎましょう!」
スセリが速度を上げた。
「おい! これはどうした!?」
イビシに着くと、そこはひどい有様だった。
負傷した兵がそこかしこに倒れている。
「撤退だ!」
モウグが深い傷を負った兵をかついで、こちらに歩いてきた。
「どうした?」
「無理だ。兵が足りない。敵兵は6000はいやがる」
モウグは厳しい表情だが、すでに心が折れているようだ。
「なにがあった?」
「俺とムウラで一当てした。しかし、挟撃されてこのザマだ。もう戦えるものは100も残っちゃいない」
スセリは負傷兵たちを魔法で癒している。
「モウラ、負傷兵たちを集めろ。モウグは敵についておしえろ」
「すまない大将。黄泉の兵をなめていた。炎に包まれた兵は斬っても死なぬ。わしのせいで大将の初陣を負け戦にしちまった」
モウグは巨体の背中を丸め、肩を落としてうなだれている。
さすがに自分の失態の重さを自覚しているのだろう。
「わしの首でモウラを許してやってくれ。すべてはわしの責任だ」
昨夜が嘘のように謙虚だ。
過ちを素直に認められるところは評価できる。
根はいいやつなのだろう。
さて、助けてやるか。
「誰が負けたと言った?」
「え?」
モウグはあっけに取られたような顔をした。
「戦はこれからだ。ついてこい!」
俺はモウラに集めさせた負傷兵に、範囲癒手をかけた。
「傷が治った!?」
一撃で300人ほどの怪我を癒した。
続けて二回ほど範囲癒手をかけると、スセリが癒した兵も含めて1200名ほどが回復した。
残りの重傷者には待機を命じた。
モウグは人命を重視して退却させたようで、戦死した者は100名もいないようだ。
「生命力強化」
スセリがHP強化の補助魔法をかけてくれた。
続けて素早さや筋力も上げてくれる。
川を遡ると狭い渓谷になっていて、その向こうに燃え滾る炎の兵が隊列を作っていた。
身長2メートルはあるだろう炎の兵。
どういう原理かわからないが身体中が燃えている。
「川があるのはラッキーだな」
俺は6000の炎の兵に向けて両手を向けた。
「龍神破滅洪水」
川の水を魔法で吸い上げ、凍る寸前まで冷やして両手から放出した。
呪文はもちろんテキトーだ。
厨二的なイメージで考えたものだが、魔法はイメージが大事なのだ。
魔力さえあれば、できると思ったことはなんでもできるのだ。
「な、なんだこれは!?」
モウグが驚くのも無理もない。
正直、俺もびびっている。
まるで氷の津波が炎の兵たちに襲いかかり飲み込んでいく。
「お次はこれだ!」
俺は万宝袋から、生弓を出した。
天鳥船下層の封印の宝物庫にあった神武具で、無限の矢を生むという長弓だ。
赤黒い長弓を力任せに引き絞ると、光る矢が次々と現れた。
「ザラアアアアア!」
光の矢が数百の軌跡を描いて敵に襲いかかる。
敵に吸い込まれるように全弾が命中。
6000いた敵兵は、すでに1000もいない。
「突撃!」
俺は万宝袋から天地理矛と生太刀を取り出し、先陣を斬って突っ込んだ。
スセリが俺の後ろに続き、左右にはミナとムル教官が展開した。
「そいっ!」
天地理矛の十字の矛先が旋風のように振るわれると、炎の兵が20体ほど消し飛んだ。
「ミナ、ムル教官、散れ!」
「あい」
俺たちは集団の中央まで突っ込んでいて、そこからムル教官とミナは左右に斬り裂いていった。
モウグとムウラはそれぞれが500を率いて、ムル教官とミナの後を追って残敵を掃討している。
ムル教官とミナの後ろに、炎の兵たちが斬り飛ばされていく。
俺は背後にスセリを伴って、まっすぐに軍団を突き破った。
「あーはいはい、降参よ!」
「は?」
そこには茶色いセミロングの髪の女が両手を上げて立っていた。
20代前半くらいだろうか、整った知的な顔立ちをしている。
青いくらいに白い肌、唇には何かを塗っているのか紫に光っている。
妖艶な美女は、少し考え込む仕草を見せた。
女のまわりには、木の垣根が巡らせてある。
「黄泉の穴のほころびがあったから少し拡げてみたんだけど、思った以上にたくさん出てきちゃって困ってたのよ」
「黄泉の穴?」
俺はスセリを見たが、スセリも知らないようで首を振っている。
「死者の国とも言うわね。この世ならざる異界よ。通常はこの世界と繋がっていないんだけど、この地ではそれがほころび緩んでたのよね。興味本位で拡げちゃった」
女はあっけらかんとした顔で笑っている。
「あたしはヒナ、高天原のヒナよ。あなた随分とおかしな気を放ってるわね?」
ヒナと名乗った女性は、そう言って俺をじろじろと見つめている。
「どうしたムイチ」
炎の兵の掃討が終わったようで、ムル教官やミナ、そしてモウグとムウラがやってきた。
「大将、見事な戦でした。残敵は掃討しましたぜ」
モウグがきりっとした顔で報告してきた。
昨夜の対抗意識丸出しの攻撃的な態度が、まるで嘘のような変わりようだ。
「いいわ、どこへでもついていくから連れていきなさい。抵抗はしないから」
女はそう言って垣根を壊して出てきた。
とりあえず女の両手を拘束し、俺たちはスサノオ大王に報告に戻ることなった。
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