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巨人族との呑みくらべ

 夕刻になりイビシ攻略のための軍議がはじまった。

 参加者は、俺、スセリ、ミナ、ムル教官、そして2000の兵を指揮する軍団長の二人だ。


 モウグとムウラという兄弟で、それぞれが1000人を指揮する千人将(せんにんしょう)という役職らしい。濃いヒゲの大男がモウグ、ヒゲのないほうがムウラだが、あまり顔は似ていない。


 農民の出らしいが、その武勇でめきめきと頭角を現しているそうだ。


「イビシはイズモ国東部の奥深い山中にあり、川と絶壁(ぜっぺき)によって砦のようになっている。一度に大勢で攻め入ることはできないが、さて、どう攻める?」


 ムル教官が軍議を仕切ってくれている。


「それがしが先陣を斬らせてもらおう!」


 モウグが立ち上がって叫んだ。

 怒りを含んだ顔で、俺を(にら)みつけている。

 ムウラも腕組みをしながら(うなず)いている。


「大将、どうする?」


 ムル教官が俺に問いかけると、全員の視線が俺を向いた。


「構いませんが条件があります」


「なにい!?」


 モウグが机を叩いて身を乗り出した。

 ムウラも目を見開いて俺を見る。

 もうこれは典型的な脳筋兄弟です。


「俺たち四人も先陣に加わります。指揮権(しきけん)はモウグ殿に任せますがどうですか?」


「構わん! 出発は早朝とする」


 モウグはすぐにも戦場に駆け出しそうな勢いだ。


「では、軍議を終わる」


 ムル教官が号令をかけて軍議が終わった。


 俺たちは夕食のために食堂に向かった。


「なんか怒ってましたね」


「戦場叩き上げの武将たちだからな。パッと出のおまえが気に入らないんだろう」


 ムル教官の案内で席に座る。


 将官以上の者が利用できる食堂には、50人くらいが、がやがやとにぎやかに食事をしていた。


 ミナは俺の隣に座っていて、スセリは自分の部屋に帰っていていない。


「まあ、食おう」


 テーブルには山鳥の肉と野菜を炒めたものが運ばれてきた。

 黒いソースが香ばしい匂いをさせている。


「うお、うまい」


 身の()まった山鳥の肉は、歯ごたえがよく、噛むたびに口の中に旨味の濃い肉汁があふれ出してくる。それが香ばしいソースとからまって、なんともいえないおいしさだ。


「米もうまい!」


 湯気が立つ炊きたてのごはんを掻きこむ。

 いやあ、この料理はごはんが進むぜ!


「次期大王殿!」


「さ、山王(さんのう)将軍!?」


 ムル教官が慌てて立ち上がった。


 うお! スサノオ大王よりでけえ!?


 テーブルの横に立つ声の主は、もうこれは巨人だ。

 胸の厚さが2メートルくらいある。

 手も足も、なにもかもが太くて分厚い。


「よい、掛けよ」


 座るように(うなが)された。

 巨体に似合わない落ち着いた声で表情も柔和(にゅうわ)だが、圧倒的な巨躯(きょく)の放つ迫力は凄まじい。


「ムイチ、ホウキ国守護の山王将軍、大山咋命(おおやまくいのみこと)様だ」


 ムル教官が緊張している。

 これはかなり偉い人ってことか?


 現代神話での大山咋(おおやまくい)というと、スサノオ大王の子である大年神(おおとしがみ)の子、つまりスサノオ大王の孫に当たる神で、山に杭を打つ神、すなわち山の所有者の神として、比叡山(ひえいざん)日吉大社などで信仰されている神だ。


 そして、俺が生まれ育った霊峰伯耆大山(れいほうほうきだいせん)も、大山咋(おおやまくい)神を祀っていたはずだ。


「酒を馳走させてもらおう」


 山王将軍は、テーブルの上に大きな酒杯を置いた。

 花瓶みたいなサイズだ。

 これを俺に飲めってか?


「あい」


 ミナが横から酒杯を奪って、ごくりと一気に飲み干した。


「なっ?」


 幼児のような身体のどこにこんな酒が入るのだろう?


「よい呑みっぷりだ」


 山王将軍は、にこりと笑ってミナの対面に腰を下ろすと、自分も手に持つ酒杯の酒を一気に飲み干した。


 そして、ミナの酒杯になみなみと酒を注ぐ。


「あい」


 ミナはまた一気に飲み干した。


 山王将軍の横に酒樽が置かれた。


 ミナと山王将軍が交互に酒杯を飲み干していく。


 ひとつ目の樽が無くなる頃には、テーブルのまわりを見物の人垣が囲んでいた。


「小さいの、おぬしやるのう」


「あい」


 巨人のような山王将軍と、幼女のミナは対照的だ。


 酒樽が三つ、四つと積まれていく。


 ムル教官は気持ち悪そうな顔をしている。

 まあ、たしかに見ているこっちが酔いそうな量だ。


 いやこれどうなってんの?


 いくらなんでもおかしいだろうw


「そうか、おぬしタケミナカタか?」


「あい」


「大きくなったのう」


「あい」


 6つ目の酒樽が空になると、もう城内の酒が無いとのことだった。


 二人ともおそろしい強さだ。

 酒が強いにもほどがある。


 まあ、山王将軍の巨体からは想像できることだが、幼女のミナが酒が強いのはイミフすぎて悩む。


「明日の遠征の成果、楽しみにしておるぞ!」


「はい」


 山王将軍はそう言って俺の肩を叩いたが、はっきり言ってめちゃくちゃ痛え。

 一般人なら骨が砕けてるんじゃないだろうか。


 まあ、やはり俺は注目されているようだ。

 当たり前のことだが、気を引き締めていこう。


 俺たちは食堂を出て、明日に備えてそれぞれの部屋で眠りについた。

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