疲労回復にはお熱いやつで!
風魔法でブーストしながら全力で走って一時間、俺はミホの岬で港湾工事の指揮を執っているヤエを見つけて声をかけた。
「随分と捗ってるみたいだな」
「御館様、そろそろ来られる頃だと思っていました。今は港の設備の拡張と、仮設の住宅を建てているところです。二週間で今の三倍の港湾機能を実現してみせましょう」
ヤエ・・・できる女すぎる。
さすが副国主にして少名彦。
対処の的確さがパネェ。
青いショートカットの髪が汗で濡れている。
まあ、この日差しではしかたない。
猛烈な夏日で気温が40度近くあるんじゃないだろうか。
上着を脱いでシャツ一枚になっているが、そこで俺はすごいことに気づいてしまった。
胸でかすぎ・・・。
ヤエは着やせするタイプだったようだ。
自己主張の激しい胸は、俺への攻撃力が高すぎると思う。
知的で細身なのに爆乳って・・・。
あの谷間に流れていく汗になりたい。
おっと落ち着け、叡智の思考加速がやばい方向に暴走しそうだ。
叡智っていうよりエッチだな。
で、なんだっけ?
やばい、あまりの衝撃に何を言おうか忘れた。
「御館様の用向きはあれですね?」
ヤエが指差した方向には倉庫があった。
倉庫には、魚や貝が入った樽が山のように積んであった。
そうか、そういえば二万人の食料のこと考えてなかった。
ヤエすげえ。
さすが事代主だ。
できる女すぎる。
「あ、ああ。そうだ。さすがだなヤエ」
精一杯の威厳を込めて言うが、どもってるし声が上ずっている。
しかし、ヤエは気づいていない様子だ。
「ここミホを1万人の基地とするため、食料を最優先に交易をはじめています。また、カンドから種と苗を取り寄せ、耕作もはじめています」
そうだ。
食糧問題は切実だ。
これから冬が来る。
食料の備蓄について早急に考えなければいけない。
「畑を見せてくれ」
「こちらへ」
ヤエの案内で山のほうへ行くと、斜面の木を焼いて畑が作ってあった。
話には聞いたことがある焼畑農法ってやつだけど、実際に見るのははじめてだ。
面積を聞くと、30ヘクタールあるとのことだった。
ヤエは判断も行動も早い。
しかも、やるとなったら大きくやるタイプのようだ。
できる部下すぎて、戸惑ってしまう。
まあ、取り繕っても仕方ないから、等身大の自分でいこう。
「このまま続けてくれ。また来る」
「御意」
俺は倉庫の魚や貝を万宝袋に収納して、ノキの町へと戻ることにした。
◇◇◇◇◇
「早かったのですね」
スセリが出迎えてくれた。
暗くなるにはあと二時間くらいはあるが、長屋も完成しているし、今日の作業は終わりにしよう。
「みんな三日間よくやってくれた。今日の作業は終わりにする。全員を川に集めてくれ」
「川ですか?」
「川だ」
スセリは不思議そうな顔をしている。
俺は川に行くと、大きな石を動かしてプールを作った。
「ここらあたりかな?」
川底を魔法で掘り下げて補強していくと、ほどなくして熱湯が噴出してきた。
「おっと、ビンゴだ!」
そう、温泉を掘り当てたのだ。
とは言っても、まったくもって驚くことではない。
当たり前のことなのだ。
なにせ、叡智の祝福の力で表示されているオートマッピングには、現代の温泉の場所がきちんと表示されているのだ。
ここは島根県安来市広瀬の『鷺の湯温泉』にあたる場所だ。
現代では疲労回復の効能で人気がある温泉なのだ。
そういえば神話では大国主命は少彦名命とともに、日本全国で温泉も開発することになっている。
古代にどうやって温泉を開発したのかと思っていたが、俺はオートマッピングの地図で温泉の場所がわかるし、魔法で掘削できるから簡単に実現できてしまう。
そう考えると、俺の能力や現代知識って、神級のチートと言えなくもないだろう。
俺は現代日本の教育を受け、さらに本や映画なんかで、さまざまな国の歴史を知っている。
つまり、国造りという観点では、この世界での俺はありえない能力者だとも言えるだろう。
ほどなく人々が集まりはじめた。
「温泉で疲れを癒してくれ」
「おおおおおお」
みんな大歓声だ。
スセリが俺の隣にやってきた。
「こんな場所に温泉なんてあったでしょうか?」
「さっき掘ったんだ」
「まあ」
スセリは言葉に詰まってしまった。
余程、驚いたのだろう。
「さすがわたしの主人になられるお方です」
そう言って俺の肩に頭を乗せてきた。
か、かわいすぎる・・・。
だがコミュ障で女性耐性が低い俺にはちょっと荷が重過ぎる。
もうちょっとゆっくり慣らし運転をしてほしい。
俺がスセリに溺れそうになっていると、絶妙なタイミングでミナがやってきた。
「師匠!」
「ちょうどいいところに来た。手伝ってくれるか?」
「あい」
俺はミナと一緒に石を積んで竈を作った。
なんと60個もだ。
ムル教官と英雄イタケルに薪を用意してもらって、火を起こしてもらった。
そして、ミホから持ってきた魚を串に刺して焼いた。
「みんな、温泉とメシを存分に味わってくれ!」
「うおおおおおおおおおお!」
三日間猛烈に働いた後だから、最高の労いになるだろう。
「ムイチ、俺の出番だな!」
「はい、ムル教官」
そしてムル教官が酒樽を割った。
ある意味これも祭りだな。
「明日は休みにする。みんな存分に飲んで騒いでくれ!」
この日の宴は深夜まで続いた。




