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富国強兵でいこう

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 道案内のヤエは、副国主(ふくこくしゅ)少名彦(すくなひこ)八重事代主命(やえことしろぬしのみこと)だった。


 古事記神話では、大国主命の御子神で建御名方命(たけみなかたのみこと)の兄神が事代主命で、大国主命とともに国造りをするのが少彦名命(すくなひこなのみこと)だ。


 その事代主命と少彦名命が同一人物で、そして女性だったとは、ちょっと想定外で驚いてしまった。

 ミナと姉妹らしいし、まあ辻褄(tつじつま)が合っているとも言えるのか。


 ヤエの青いショートカットの髪が潮風に揺れている。

 たしかに頭がよさそうというか、実際に言動や行動からも頭の回転が速いのがわかる。


 呆然と見つめていた俺は、ホヒの言葉で我に返った。


「ぼくが空気なんだけど、本題を続けさせてもらっていいかな?」


「あ、すいません。どうぞ」


 しまった! 返答が小物っぽいぞ。

 ホヒは俺の力量を()(はか)っているというのに、ついつい慌てて小市民の部分が出てしまった。

 大王の後継としての自覚が足りないな。

 まあ、降って湧いた話だし、自覚できてるほうがどうかしてるとは思うけどな。


「キミはどんな国造りをするんだい?」


 ホヒは、俺の目をまっすぐに見つめている。


 いやあ、シンプルな質問だけど、こういうのってむずかしいよね。

 はっきり言って考えたことないし。

 さて、叡智(えいち)の祝福さん、お願いだから仕事してくれ!


 すると、返答がすらすらと湧いてきた。


富国強兵(ふこくきょうへい)です」


富国強兵(ふこくきょうへい)?」


「まずは国民全員が腹いっぱい食べられるように食料事情を改善し、外敵の侵略を防ぐための自衛に特化した軍隊を持ちます」


 自衛隊構想は現代日本のパクりだ。


「具体的には?」


「ちょっと下がってもらえますか?」


「ん? ああ」


 俺はホヒやスセリたちに下がってもらった。


 そして、地面に向かって魔力を注ぎこむと、土がでこぼこと盛り上がって形を作った。


「これは?」


 ホヒが興味深そうに見つめている。


「これは・・・ワ国の地図!?」


「さすがヤエ、正解だよ」


 俺は土を盛り上げて、立体的な日本地図を作った。

 ロシアや北方領土、北海道と本州、四国と九州、そして朝鮮半島と大陸の一部を、正確に模したジオラマだ。

 5メートル四方の巨大な立体地図は、山や川などの地形も正確に再現してある。


 叡智の祝福によるオートマッピングの地図を立体化しただけなのだが、みんなすごく驚いていた。


 ヤエは食い入るように地図を見ながら、なにやらぶつぶつとつぶやいている。

 スセリは頬を赤く染めて、うっとりと俺を見つめている。


「これはすごい・・・」


 ホヒはしばらく絶句して、ひたすら地図に見入っていた。


「海の一族の海図を見たことがあるが、これほど精巧なものははじめて見るよ。思兼(おもいかね)の書庫にも、これほどのものはないだろう。これは・・・、海の向こうの大陸まで再現しているのか。キミは大陸に行ったことがあるのかい?」


「いえ、ありません。ですが、この地図が正確なのは保障しますよ。俺たちが今いる場所がここです」


 俺はミホの岬を指差した。


「ここがオウで、ここがカンドです」


 王家の町の位置を指し示すと、ヤエは感心した顔でひとしきりうなっている。


「国造りの手始めは、食料生産を増やします。治水(ちすい)によって河川(かせん)氾濫(はんらん)を防ぎ、用水を引いて田畑を整備します。水田稲作を推奨し、食糧事情を改善して国を富ませるのです」


 ホヒは後ずさって絶句している。


「水田稲作だと!? 高天原(たかまがはら)の技術をなぜ知っている? いや、高天原を(しの)ぐのか? キミは一体何者なんだ?」


「高天原の技術というのは知りません。これは、俺の独自技術ですよ」


 まあ、俺の独自技術だってのは嘘だ。

 叡智の祝福の力を借りて、現代知識を現状に当てはめただけだ。

 まあ、水田稲作は家でもやってたしな。


 この世界に来て各地を巡ったが、まだ本格的な水田稲作が行われていない。

 湿地での栽培か、焼畑による陸稲の栽培にとどまっているのだ。

 だから、水田稲作で食料事情を改善すると言ってみたのだが、どうもホヒにはばっちりはまったようだ。


「いいだろう。これは予想以上だ。兄の見立ては間違っていない。もちろんスセリの慧眼(けいがん)にも感服するよ。キミはたしかに大王の器だ。ボクにはキミが(はか)り知れない。ボクはキミの下に着くことにしよう」


 ホヒはすっかり参ったという様子だ。


「下というか仲間でいいでしょう?」


「いや、能力が対等ではないのだからボクが下だよ。ついてはひとつ臣下としての褒美をもらっていいかな?」


「なんでしょう?」


「この地図をボクにくれないか?」


「いいですよ」


「ありがとう。このまわりの土地もお願いする。この地図の上に屋敷を建てたいんだ」


「ヤエ、いいのかな?」


御館様(おやかたさま)、もちろんです。ここは誰の土地でもありませんし、副国主少名彦(ふくこくしゅすくなひこ)のわたしの権限で許可させていただきます。天冬衣(おやじ)さんには、わたしからも報告しましょう」


「ありがとう。そしたら地図は固めておこう」


 俺はさらに魔力を注ぎこんで、地図と地面を石のように固めてやった。


「王よ。ついてはぼくの配下の3万人と物資を献上させてもらうよ。貴方の国造りの駒として使ってもらいたいんだ。ここに連れてきた職人の職能と物資のリストがある」


「それでは場を移して会議にしましょう。ヤエ、いい場所はあるかな?」


「すぐ近くに役所がありますので、そこで話しましょう」


 場所を移しての会議は白熱した。

 夜になって食事を取りながら、そのまま会議は続いた。

 計画がまとまったのは、夜が明けて空が白みはじめる朝方だった。


 俺たちは少し眠ってからオウの天冬衣(おやじ)さんのところに戻ることにして、ホヒには配下の人員とともに、ここで沙汰を待つように指示をした。


 いやあ、驚くことばかりだったし、いきなり配下が3万人も増えたけど、まあとりあえず今は眠ろう。


 みんな、おやすみなさい。

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