ミホでの遭遇
「着きました。御館様どうぞ!」
ヤエの案内で、副国主が滞在しているというミホに着いた。
潮風と波の音、王の海沿いを歩いて、日本海側の岬に出たようだ。
日本海に目をやった俺は、驚愕で言葉を失っていた。
「船!」
ミナが海を見て言った。
船、そう船だ。船だらけだ。
幡を掲げた1000隻もの船が浮かんでいるのだ。
それも小さな船ではない。
外洋航海ができそうな構造船なのだ。
巨大な船が湾を埋め尽くしている威容に、俺は圧倒されてしまった。
1隻に30人乗っているとしたら3万人いるってことなのか?
「この船は?」
「行けばわかります」
ヤエに促されて船が停泊している港に近づくと、鎧をつけて槍を手にした大勢の兵士が、船から降りてくるところだった。
兵士達が歩み出て列を作る。
そして、銅鑼が打ち鳴らされた。
兵士の列が割れて、中央に道ができる。
その道を、金色の鎧兜を着けた若い男が、悠々(ゆうゆう)と歩き出した。
兜からは金色の長い髪がこぼれている。
鼻筋の通った整った顔立ちは、自信と余裕を感じさせる表情だ。
歩く所作も美しい。
貴族というか、むしろ王族だと感じさせる風体だ。
この男が副国主なのだろうか?
「なっ!?」
ヤエに背中を押された。
「時間ぴったりだったね」
男は人懐っこく笑った。
しゃべると印象が変わるのな。
なんだか随分とくだけているというか・・・、むしろ、軽薄な印象だ。
「キミが荒神の後継かい?」
男は俺を値踏みするような目で見ている。
俺が返答に困っていると、スセリが俺の横に歩み出た。
「オオナムチ様こそ我を娶りワ国大王となられるお方です」
「ほう、じゃじゃ馬をしつけるとは、たしかに逸材のようだ」
「な、なにを言うのです!」
スセリが男をきつく睨む。
男はにやにやといぢわるそうな笑みを浮かべている。
状況がよくわからない。
俺は内心はオロオロしているが、表面上は平静を取り繕っている。
さて、どうしたものか?
「兄からキミの武勇については聞いている。しかし、女人の扱いにも長けているようだね? 素敵な女性を三人もはべらせている。まったく、ぼくとどちらが上だろうね?」
そう言ってヤエにウインクをする。
軽薄だけど様になる。
よほど慣れているのだろう。
コミュ障で妖精な俺には絶対にできない芸当だ。
おや、ミナが大剣に手を掛けている。
「なにをしに来られたのですか兄様?」
スセリが詰め寄った。
「って、え? 兄様??」
「はい、この方は我が兄にして天照大神の第二子、天穂日命様なのです」
「ええっ!? 副国主様じゃないの??」
どういうことだ? 天穂日命って誰だっけ?
イズモ国の副国主じゃないよな。
あ、天照大神の子だから天孫族の天津神だ。
そうだ! 古事記神話で国譲りの勅使として天降るも、大国主命に服従し、三年経っても報告に帰らなかったとされている神だ。
兄から俺の武勇について聞いたって、その兄はオウに現れた天忍穂耳命ってことか。
そうか、天忍穂耳命は、船でこの港からイズモ国に侵入したわけだな。
これで、つながった。
「副国主?」
天穂日命はぽかんとした顔をしている。
「いや、失礼」
俺は咳払いをひとつして続けた。
「天穂日命よ。あなたは天照大神の勅使として、この国を譲るように進言しに来られたのですね?」
俺はできるだけ威厳を出して答えた。
「ホヒでいいよ。うーん、30点かな」
「なんですと!?」
「ぼくと兄はたしかに国譲りの勅使としてこの地に降り立った。しかし、キミと会った兄は、国譲りを延期して、キミの国造りを手伝うようにぼくに言ったんだ」
「なんですと!?」
ああ、ついつい無駄に驚いてしまったが、神話どおりなのか。
なんだかよくわからないけど仲間ゲットって流れなのだろうか?
「だけど、ぼくはキミを量りかねている。兄はキミに何を見たのかな?」
ホヒが目を細めて俺を見つめている。
くっ、値踏みされるっていやな気持ち。
なんて答えればいいのか思い浮かばない。
「まあいいや。そちらの素敵なレディを紹介してもらえるかな?」
ホヒがヤエとミナを見やった。
「二人は兄様が触れてよい方ではありません」
スセリがピシャリと言い切った。
「あいた、スセリはあいかわらずぼくに厳しいね。紹介くらいはしてもらわないとぼくにも立場ってものがあるんだよ」
「仕方ありませんね。こちらはイズモ神族の勇者タケミナカタにまします」
「あい」
スセリの紹介に、ミナが小さな胸を張って答える。
「そして、こちらがヤエ・・・」
道案内役だけど一応、紹介するんだな。
てか、ヤエって道案内役とは思えないくらい堂々としているな。
「八重事代主命にて副国主少名彦にまします」
「なんですと!?」
ちょっと待て!?
ヤエって事代主命なの?
事代主命ってあれだよな。
大国主命の御子神であり、天にあっては地のことを知り、地にあっては天のことをしろしめすという聡明にして予言託宣の神じゃねーか!
っていうか、ひょっとして・・・。
「あの・・・、ひょっとしてヤエとミナって姉妹?」
「そうですよ」
「あい」
「なんですと!?」
ヤエとミナはあっさりと肯定した。
なんと、俺は事代主と建御名方を連れてるわけか。
「あれ? ちょっと待て!? ヤエが副国主?」
「そうですよ」
「道案内の人じゃないの?」
「わたしが副国主の少名彦ですよ」
「事代主で少名彦?」
「事代主は父から継いだ名で、少名彦は副国主としての役職名ですよ」
「だって、副国主は出かけてて道案内だって・・・」
「ああ、御館様の人となりが見たくて嘘ついちゃいました。オシホミミさんがオウに行って、わたしが副国主としてミホでホヒさんと会うことになってたんです。そこに御館様が来られたのでちょうどよかったんですよね」
俺はちょっとびっくりしすぎて、しばし呆然としてしまった。




