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ここが昔は海だった!?マジか?

「今日も天気がよいですね」


 スセリは俺の隣を機嫌よく歩いている。

 ミナは逆隣をてくてくと歩いている。


 昨日の夕方、俺たちはイズモ国副王がいるというカンドという町に到着した。

 ムルさんとの戦いの後、バトゥンさんやイズモ貴族の人たちは解散してもらい、ムル教官の案内で副王の館に着いたのだ。

 カンドは現代でいうところの島根県出雲市にあたる。


 イズモ国はひとつの王家が統治する国ではなく、東西のふたつの王家が王と副王を交互に(にな)う仕組みだということで、俺たちは今生の副王に挨拶をするため、このカンドを訪れているのだ。

 

 副王の館では応接室に通された。


 しかし、副王は留守だった。


 ムル教官が官吏っぽい人たちと話をしていたが、副王は別の町に出かけていて、政務の関係でしばらくこの屋敷には戻れないらしい。

 なので、俺たちがそちらに出向いて挨拶をすることになったのだ。


 そして、副王の館に一泊して早朝に出発した。


 ムル教官はイズモ貴族である八十神たちに、あらためて俺を大王と認めてもらうように念押しして回るということで、副王のところまでの道案内には青い髪の少女が同行することになった。


「14時24分にはミホに着きます」


 俺たちの前を歩いている少女で、ヤエという名前だ。

 ヤエさんと呼ぼうとしたら、大王になる方なのですから呼び捨てにしてもらいたいと、きつい口調でたしなめられた。


「えらく正確なんだね」


「ええ、我々の歩行速度と距離と道程を考慮した計算結果です。盗賊の出現などのアクシデントがあったとしても、現状の戦力で問題なく対処できると判断できますので、誤差は前後3分以内になるでしょう」


 ヤエは俺よりひとつ下らしいが、いかにも頭がよさそうな顔をしている。

 しかし、文系という感じでもなく、ショートカットの青い髪と、動きやすそうなショートパンツが軽快なイメージも与えてくれる。


 ただし、発言や思考は理路整然としていて、とても知的で論理的だ。

 ある意味、ミナの対極的な感じなのかな。


 カンドからは湿地を歩いて船に乗り、今歩いている島に着いた。

 オートマッピングを確認すると、現代でいうところの島根半島を歩いている。

 この時代には、陸続きにはなっていなくて海に浮かぶ島なんだな。

 あらためて俺がいる世界は古代なんだと認識させられることになった。


「右手の海は王の海です。左手の山の向こう側には大陸を臨むもっと大きな海があります」


 俺が土地勘がないと言うと、ヤエはところどころで解説をしてくれる。

 王の海というのは現代でいう宍道湖(しんじこ)であり、山の向こう側の大きな海が日本海になる。

 俺たちは宍道湖沿いの湿地を、東に向かって歩いているわけだ。


 宍道湖は今は海で、その海面は、陽光を反射してギラギラとまぶしく輝いている。


「王の海は我々に大きな恵みをもたらしています。穏やかな内海は、外洋からの船舶交易の港にちょうどよいのです」


 日本海は波が荒い。

 黒潮と呼ばれる対馬海流は、大陸からやってきて日本海沿いに東北に向かう。

 その海流にまかせて船を出すと、この王の海に辿り着くのだが、ここは穏やかでとてもよい停泊地の港になるらしい。

 イズモ国が強国であり文化が発展する大きな理由が、この王の海沿いに点在する港による外国との交易と、文化や人の流入のようだ。


「しかし、御館様(おやかたさま)はすごいのですね」


 ヤエは、俺が大王になるということで、俺のことを御館様(おやかたさま)と呼んでいる。

 そんな風に呼ばれたことはないし、違和感ありまくりなのだが、まあ慣れるしかないのだろう。


「ん? なにがかな?」


 知的な美少女という俺のまわりにいないタイプのヤエに、どう対応していいのかわからない。なので、言葉が雑になっているのが自分でもわかるのだが、とりあえずどうしようもない。


「出自もはっきりしない身分で、最近この国を訪れたということですが、すでに大王の娘であるスセリ姫様を娶ることが決まり、臣下としてタケミナカタを連れておられます」


「出自は・・・ まあ、説明できないくらい遠い国から来てるからね」


 どう説明していいのかわからないので言葉を濁す。


「ヤエさんはオオナムチさんのすごさがわかるのですね」


 なぜかスセリが上機嫌だ。


「大王の試練も乗り越えて来られたのでしょう? また国主フユギヌにも認められ後継とされていたムルやイズモ貴族たちも従えたという。すごいという言葉があまりに陳腐(ちんぷ)な偉業です」


「ええ、わたしも一目でわかりました。オオナムチ様こそわたしの生涯の伴侶になる方なのだと」


 スセリとヤエが俺を持ち上げまくっていて、こそばゆく恥ずかしい。

 幼い頃からのジジイとの修行の日々では、怒号と罵声を浴びせられていたし、学校ではキモオタとして認定されていたから、褒められることには慣れていないのだ。


「いやまあ成り行きなんだよね」


「成す力が無ければ成りませんから、やはり御館様はすごいということに間違いありませんね」


 整然と褒められ評価される。

 持ち上げておいて盛大に落とす罠じゃないかと疑ったが、そんなことをする意味もないだろう。

 まあ、たしかにこっちの世界に来てからの出来事を考えると偉業とも言える。

 祝福を受けた俺の能力はチートレベルだし、そう考えると我ながらすごいと納得できた。


 昼になり食事と休憩をする。

 万宝袋(まんぽうぶくろ)から弁当を出して食べた。

 ミナはこの弁当が気に入っているようで、もうひとつ欲しがったので出してやった。


 ヤエに万宝袋の収納量を聞かれたので、限界がわからないほど多いと答えるとものすごく驚いていた。


 そして午後も宍道湖沿いを歩いた。


「御館様、着きました」


 時刻を念じると、頭の中に時刻が表示されたが、そこで俺は驚いた。


 14時24分、それはヤエが朝方に予告していた時刻ぴったりだったのだ。


 

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