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刺客の正体

 揺れる吊り橋の上を走る。


「こわっ」


 いつ作られたものなのだろうか?

 風雪にさらされた木の板は、かなりの年季を感じさせてくれる。


「落ちるなよムイチ!」


「もちろん!」


 ムル教官が先行して走る。

 罠に気を配りながらだから小走り程度の速度だ。

 対岸の刺客たちには、今のところなんの動きもないようだ。


 吊り橋は見た目よりもしっかりしている。

 たしかに揺れるが、苦になるようなものではない。

 遊園地のアトラクションや、公園の遊具を楽しんでいるような感覚だが、対岸からの殺気が強まってきた。


「そろそろ来るぞ!」


 ムル教官が叫ぶと同時に、矢が飛んでくる。

 風魔法で矢を逸らすと、矢は谷底に落ちていった。


「あと20メートル」


 俺たちは止まらないで疾走する。

 さあ、対岸に着いてからが本番だ。


 振り返ってみたが、スセリとミナのところには敵襲などもないようだ。

 心配そうにこっちを見ている。

 くっ、健気な感じでぐっとくるね。


「あと10メートル」


 飛んでくる矢の本数と勢いは増しているが、風魔法で簡単に防げている。

 刺客たちは魔法攻撃をしてこない。

 魔法を使える者がいないのか、射程距離が足りないのか?

 切り札に温存しているのかもしれないから用心はしておこう。


「罠は無い! ムイチ頼む!」


 ついに橋を渡りきった。


「承知!」


 ムル教官の前に出ると、10人ほどの刺客が俺を取り囲んだ。

 残りはまだ隠れているようだ。


「おまえたちは何者だ?」


 問いかけるが返事は無い。


 黒い布で顔を隠している。

 キミたちは忍者なのかと問い詰めたい気分だ。


 しかし、なぜ俺たちを狙うのだろう?

 刺客たちの身のこなしは、きちんと訓練されているものだし、盗賊や山賊の類ではない。


 俺は万宝袋(まんぽうぶくろ)から取り出した天地理矛(あめつちのことわりのほこ)を左手に構えて、取り囲む刺客たちと対峙している。

 伝説級(レジェンダリ)をはるかに凌ぐ神級武具(ゴッズウェポン)威容(いよう)、黒く光る柄の先の輝く十字の刃に、刺客たちが(ひる)んでいるのがわかる。


 さらに右手に生太刀(いくたち)を構えた。

 天鳥船(あめのとりふね)地下階層で手に入れた、これまた神級武具(ゴッズウェポン)だ。


 左足を前に出して半身で構える。

 天地理矛(あめつちのことわりのほこ)を持つ左手が前に出るので、この場からでも5メートル離れた相手に攻撃できる。


 刺客たちは間合いを測っているのか、10メートルの距離から近づいてこない。

 ただ、ひたすらに機を伺っているという感じだ。

 隙を見せたら攻撃を仕掛けてくるだろう。


「さて、どいつから死にたい?」


 俺の問いかけにも動きは無い。

 さて、どうしたものか。

 隠れている相手もいるので飛び込んでいくのは得策ではないな。


 そうして考えていると、10人ほどの刺客たちが殺気を膨らませて、おもむろに武器を振りかぶった。


「来たか!」


 次の瞬間、刃と刃がぶつかり合う鈍い金属音が響いた。


 俺は生太刀(いくたち)で、背後から(・・・・)の刃を止めた。

 

 前の刺客の刃ではない。


 後ろからの刃だ。


 本当の刺客は後ろにいたのだ。


「まさかこいつを止めるかよ?」


 生太刀に剣を交差させているムル教官がつぶやいた。


「ムル教官・・・なぜ?」


「気づいていたのかムイチ?」


 振り返りざまの天地理矛(あめつちのことわりのほこ)は空を切った。

 俺に背後から斬りかかったムル教官は、後ろに飛んで避けたのだ。


 10人ほどの刺客は襲ってくる様子はない。


「森の中からおかしいと思っていました。最初の爆発は刺客の罠じゃないですよね?」


「そこまで気づいていたか。ああ、あれは俺がやった。その後の森の罠も俺が仕掛けておいたものだ。おまえらは勘がよすぎて一人も仕留められなかったけどな」


 ムル教官が(いびつ)な笑みを浮かべた。


「それもおかしいと思ってました。それで、いつ仕掛けてくるか注意していたんです。勘違いならいいと思ってたんですけどね」


「まったくかなわねぇな。なにもかもなにもかも・・ちくしょお!」


 ムル教官が吐き捨てるように言った。


「なぜ俺を狙ったんです?」


「はン? そいつを俺に聞くのか?」


 ムル教官が俺を睨みつける。


「答えてください」


「俺こそが天冬衣(オヤジ)の長子、八十神(やそがみ)だからだ!」


「なんですと!?」


 そうだったのか。

 たしかにそれですべての辻褄(つじつま)が合う。


 たしかにムル教官はイナバでヤカミ姫に求婚していたし、俺に激しく嫉妬していた。

 そして、テマ山で赤猪と戦う任務を取ってきたのもムル教官だし、神話の八十神(やそがみ)の行動とぴったり合うのだ。


 訓練所の教官であることも、サルダヒコ元帥やスサノオ大王から重用されていることも、なにもかもこれで納得が行く。

 ムル教官こそ、俺とイズモ王の座を争う八十神(やそがみ)だったのだ。


「オオナムチ様!」


「師匠!」


 様子を見てとったスセリとミナが、吊り橋を渡ってきた。


「ミナやめろ!」


 ムル教官に斬りかかろうとしたミナを制止する。


「これは俺の戦いだ。俺がムル教官と決着をつける。手出しはするな」


「あい」


 ムル教官が小さく舌打ちをした。


「どこまでも正々堂々ってか!? 気にくわん!」


 目と眉を吊り上げて怒っている。


「俺も本気を出させてもらうぞ!」


 ムル教官が剣を投げ捨てて踏み込んできた。


「がっ!?」


 巨大な斧だ!

 ムル教官も異空間収納が使えるのか?


 受け止めたが体ごと押される。

 靴底が硬い土を削っていく。

 止められない。

 この俺が5メートルも押された?


「不思議そうな顔をするなムイチ。本気を出すって言っただろ?」


 俺はムル教官をなめていた。

 イナバで戦ったときも、それからの行動も、本気ではなかったのだ。

 むしろ、今この時のために実力を隠していたのだろう。


 上の下どころではない。

 ムル教官は・・・強い。


「しかし俺の斧を止めるたぁな。おまえホントに化け物なのな」


 ムル教官はまるで竜巻のように斧を振るう。

 そして同時に爆発の魔法を撃ってきた。

 斧を避けようとすると、そこに爆発の魔法が置いてある。


 単純な膂力では俺が勝っているだろうが、武器と魔法を組み合わせた立体的な戦闘については、ムル教官に一日の長があるようだ。


「ムル教官もやばいですよ」


「ありがとよ! 褒め言葉として受け取っておくぜ!」


 斧を受け流し爆発を避ける。

 おっと、足元にぬかるみの罠?

 これは水魔法だろうか、いや、これは地味だけど有効だ。

 ぬかるみで踏み込めないと、攻撃も防御も鈍るもんな。

 ムル教官、学ばせてくれるぜホント。


「遠慮しないで死んでいいんだぜ?」


「オオナムチ様は死んではダメです!」


 スセリが横から叫ぶと、ムル教官の怒りゲージがさらに上がったようだ。


「くそくそくそくそくそくそくそくそ!」


 無茶苦茶な斧の連撃。

 それをすべて受け流す。

 巨大な斧を受け流されても、ムル教官は体勢を崩すことがない。

 猛烈な鍛錬(たんれん)賜物(たまもの)だろう。

 常人では振ることすらできないような巨大な斧なのだ。


「なぜ反撃しない!?」


 ムル教官が苛立ちを隠そうともせずに言った。

 たしかに俺は反撃できるのにしていない。

 斧にも魔法にも(から)め手にも慣れた。

 いつでも反撃できるのだが、なぜかそうしたくなかった。


「もうやめてください」


 炎をまとった拳が飛び込んできて、俺とムル教官を分けた。


 意外なところからの声で、この戦闘は終わった。


 10人の刺客たちの中から、俺とムル教官を制止に出てきたのは・・・


 イナバで別れたはずのバトゥンさんだった。

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