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第六話 俺ってチートだったらしい

 村に帰ると、巨大カニを見た村人たちは、それはもう驚いていた。

 キクムさんとルウは、村のみんなに状況を説明するとのことだが、俺は洞窟にいる婆さんのところに直行することになった。


「滝の近くで大きなカニを倒しました。付近を捜索して、できたばかりだという巣と遺体を見つけました。キクムさんが言うには、もう危険はないとのことです」


 俺が報告すると、婆さんはじっと考え込むように目を閉じた。


 しばしの沈黙。


 寝てるんじゃないかと疑いはじめたころ、婆さんがおもむろに口を開いた。


「そうかい。では、お礼の話をしようかね」


 婆さんは、背後の祭壇(さいだん)の扉を開いた。

 中には大きな鏡があった。

 鏡は、天井の穴から差し込む光を反射して、まばゆい金色に輝いて暗い洞窟の中を明るく照らした。


「鏡?」


「月の形代(かたしろ)じゃよ。まずは、おぬしへのツクヨミ様の祝福を見てやろう」


 婆さんは鏡を見つめて、なにやらぶつぶつと呪文のようなものを唱えている。

 いや、これは祝詞(のりと)かな。


「なんと!?」


 突然、婆さんが叫びながら、すごい勢いで振り向いた。

 目と口を大きく開けた顔は、軽くホラーだ。

 不覚にもビクッとしてしまった。


「おぬしはなんじゃ?」


「え? なんじゃとは?」


「5つも祝福がついておる!!」


 婆さんはツクヨミ様の巫女(みこ)として、人の能力を見ることができるらしい。


 ツクヨミ様の祝福とは、神から与えられる特殊な能力とのこと。

 婆さんは今まで一人だけ見たことがあって、あとは言い伝えとして数人いたという話があるだけで、ものすごく珍しいものらしい。


 そして、俺の祝福を見たのだが、5つもついているのはありえないことらしい。


 婆さんは、その祝福をひとつずつ説明してくれた。


1、翻訳

 言葉や文字の意味を俺の知っている言葉に変換してくれる。

 ニュアンスや感情なども含めて変換されるが、嘘をついているのを見破ったりすることはできないらしい。

 俺が言葉が通じると思っていたのは、この翻訳の力だったようだ。

 たしかによく見ると婆さんの口の動きと、聞こえてくる言葉が違ってるような気がする。


2、生命

 生命力が向上する。

 体力やスタミナ、筋力や瞬発力、敏捷性などの身体能力がアップする。

 病気や毒に強くなり、回復力も上がる。


3、精神

 精神力が向上する。

 意思が強くなり、継続力や持続力も強くなる。

 呪いや呪文などへの耐性が上がる。


4、叡智(えいち)

 知力が向上する。

 理解力、分析力、計算速度、記憶力が上がり、技術習得などの成長が早くなる。

 また、過去に得た知識を活性化させて思い出すことができる。

 たとえばすでに忘れているはずの、小さい頃に読んだ本の内容なんかを思い出して知識として活用できる。


5、万宝袋(まんぽうぶくろ)

 異空間収納。

 念じるだけでなんでも出し入れできる。

 ただし生き物は入れることができない。


 婆さんの力では、これくらいのことしかわからないが、たとえば体力がどれくらい上がるかなんてのも、細かく定められているらしい。


 なんかいろいろ補正で強化されてるみたいだし、病気や毒に強くなってるってのはいいな。

 安心してなんでも食べられる。

 この世界では衛生的に不安なところがあるし、ゲテモノっぽいものも食わないといけないだろうから、これは地味にありがたい。


 それと、万宝袋ってのはとんでもなく便利だ。

 意識するだけでモノを出し入れできる。

 後でいろいろと実験してみることにしよう。


 そして、俺の能力値だが、とんでもないものだった。


大波武一(おおなみむいち)》14歳


   現在値/最大値


HP 3400/3400

MP 2600/2600


 HPは生命力で、死者の状態が0らしい。

 MPは魔力で、魔法を使うと減っていく。

 それぞれが時間経過で回復するし、特殊な薬などで回復することもできるようだ。


 ちなみに村の勇士でHP10くらい。

 俺の3400というのは、村の勇士340人ぶんだということだ。


 よくわからんし実感が無いが、まあ小さい頃からジジイにしごかれてきたから、一般人よりは強いのは納得できる。

 

「おぬしの力は破格のものじゃ。しかし、強すぎる力はよいことばかりではない。むしろ不幸を呼ぶことが多いのじゃ。みだりに力を使わずに隠すほうがよい」


 これはなんとなくわかる。

 俺も学校では力を隠していた。


 ジジイに鍛えられて育った俺の体力は異常で、怖がられたり利用しようとする奴が現れたり、ろくなことにならないからだ。

 ジジイは強さを隠していなかったが、若い頃は強いやつと戦いたいというやつらがひっきりなしにやってきて、とても楽しかったと笑っていた。

 俺はジジイのような戦闘民族の気持ちはわからないし、ただひたすら自分の強さを隠そうと思ったのを思い出した。


「見られるのを隠すことはできるんですか?」


「見せたくないと強く念じれば、見えなくすることができるようじゃが、何年も修行する必要がある」


「ちょっと見てもらえますか?」


 俺は見せたくないと念じてみた。


「おぉ、見えん。見えんぞ」


 できたらしい。


 ってことは、ひょっとして・・・


 あ、見えた。


《うるる》 118歳


 現在値/最大値


HP 84/86

MP 940/1200


 うお!婆さんつええ!!


 村の勇士より、よっぽど強いじゃねーか。


 っていうか、婆さんの名前がうるるかよ!?


 かわいすぎるww


 これは知りたくなかった。


「み、見たのか?」


「うるる・・・」


「ありえん・・」


 婆さんは目を見開いて絶句した。


 婆さんは自分の能力を見せないようにしているのだが、俺はそれを無効化して見たらしい。

 婆さんは何十年も女神ツクヨミに祈り、厳しい修行の末に見ることができるようになったらしく、いきなりできた俺のことをうらめしそうに見ている。


「見られた者は見られたことがわかる。それによって見ることができるということがわかってしまう。それもまたよくないことを引き寄せる。じゃからわしもこうして隠れ住んでおる。この隠れ里はわしを隠すための里だったんじゃ」


 これもわかる気がする。

 覗かれて気持ちよくないのもわかるし、たとえば敵対した者に自分の生命力を知られるのは致命的だ。


 これは、使いどころをよく考えないといけないな。

 まあ、俺の場合は強いやつは雰囲気で大体わかるから、なるべく他人に対して使うのはやめよう。

 トラブルに巻き込まれる要因は、なるべく少なくしたいからだ。


「今日はちょっと疲れた。マレビトよ。明日の朝にまた来い」


「婆様、ありがとうございました」


 俺は礼を言って村に戻った。

タイトルを「お願いうるる先生」にしようかと思ったけどやめました。

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