天鳥船の宝物庫
気がつくと、岩でできた部屋にいた。
俺とスセリとカワイキュンの三人だ。
ミナとハッチの姿は見えない。
マップを表示すると真っ黒だが、天鳥船最下層と表示されている。
スサノオ大王に転移させられたようだ。
ミナが心配だが、まずは状況を確認しよう。
「俺のせいで、町が・・・すいません」
俺はカワイキュンに謝った。
俺のせいで町がひとつ焼かれて灰燼と帰した。
どれだけの人が犠牲になったのだろう・・・
カワイキュンの店も焼けてしまった。
「オオナムチさん、それは違います」
スセリが凛とした声で答えた。
「え?」
「町はすでに死魔であるムカデたちに制圧されていて、人はいませんでした。父はそれを焼き払ったのです。オオナムチさんのせいではありません」
「そうね。わたしもそれでお店をかたづけに来ていたのよ。そしたらミナちゃんとハッチちゃんと出会ったの。そしたら鳴鏑の矢が飛んでくるのが見えて、ハッチちゃんは追いかけていったのよ」
そうか、たしかに町はムカデ砦のあった月山から近い。
町が襲われて、人々は逃げ出した後だったのだろう。
つまり、ムカデ退治のために町を焼き払ったということか。
「ってことは、スサノオ大王は俺を焼き殺そうとしていたわけじゃなかったとか?」
「いえ、父はオオナムチさんと町のどちらも焼き払おうとしていたみたいです」
「うっく・・・」
スセリがあっさりと非情な現実を告げた。
面倒なものはなんでも焼き払うって、いかにも覇王って感じで厨二的にはイカスけど、自分がターゲットでは洒落にならないっての。
「さて、いい男のところを目指しましょうか。ちょっと勝手が変わってるみたいだけどこっちよ」
カワイキュンは見知った場所を散歩するかのように歩き出した。
「ダメです!」
そしてさりげなく俺にセクハラをしようとして、スセリに手を叩かれていた。
マップを見ると、地図は黒くて道がわからないが、ミナが緑の点で表示されている。
表示が移動しているから、歩いているのだろうか。
ハッチは表示されていない。
別階層とか、そんな感じなのだろうか。
「ミナはあっちにいる気がします」
「じゃあ倉庫区画のほうかしら?」
カワイキュンは先頭をすたすたと歩いていく。
「ここに来たことがあるんですか?」
「ん? そうね。来たことがあるというか、この船を造ったのがわたしたちなのよね」
「ええーーっ!?」
カワイキュンはただ者ではないと感じていたが、本当にすごい人っぽい。
こんな巨大な城が建ってる山のような空中要塞が空に浮いて、そして移動するなんて、もはやわけがわからないテクノロジーなんだけど、それを『造った』ってどういうことなんだ?
「造ったとは?」
「わたしたちの一族は、高天原のありとあらゆるモノを造る技術集団なのよ。わたしはもう引退したんだけど、この船はその頃に造ったものなのよね。まあ、随分と変わっちゃってるから、その後に何度も改修されてるみたいだけどね」
すごすぎてちょっと意味がわかんない。
「どうやって飛んでるんですか?」
「そのあたりは秘密なのよ。技術がわたしたち一族の生命線なの。わたしも元頭領だから、そこはおしえてあげられないのよね。でも、オオナムチちゃんの気持ち次第では、おしえてあげてもいいのよ」
カワイキュンが大きくウインクをする。
別の意味で背筋が凍りそうだ。
まあ、技術集団が技術を大切にするのはわかる。
興味は尽きないが、これ以上聞くのはやめよう。
「い、いえ、それは結構です」
スセリが間に入ってカワイキュンのまとわりつく視線から助けてくれた。
整った顔でキリリとにらんでいる。
いや、カワイキュンこわすぎですから。
「師匠!」
前からミナが歩いてきた。
「本当にいたわね。オオナムチちゃんは最上位の気配察知でも持ってるのかしら」
カワイキュンがびっくりしている。
「ミナ、大丈夫か? ケガとかないか?」
「あい」
ミナは胸を張りながら答えた。
幼女としてつつましい胸は平らでかわいい。
あ、俺にそういう趣味はないから、あくまで子どもとしてのかわいさだ。
犯罪者とか言わないでほしい。
そして、カワイキュンの先導でしばらく歩くと、見るからに頑丈そうな扉に突き当たった。
高さ2メートルの円形の扉には、おそろしい怪物の顔が彫刻されている。
鍵と思われる部分には、たくさんのボタンやレバーがついていて、すごく厳重に施錠されているようだ。
「ここは?」
「最下層の宝物庫よ。せっかくここまで来たのだから、ちょっとお土産がほしいわね」
「スサノオ大王の宝物庫ですか? それって泥棒では?」
カワイキュンの大胆な提案だが、相手が悪いのではないだろうか・・・
「やめたほうがいいのでは? 鍵だって掛かってますしスサノオ大王が怒るんじゃないかなって・・・」
「大丈夫よ! 天津麻羅の頭領として最高の職人だったわたしよ。このくらいの鍵を開けることは造作もないことなの。わたしの技術を見せてあげる」
カワイキュンはそう言って扉の鍵部分の前に立ち、指をくねくねと動かした。
「さあ、開けるわよ! 最高の技術をごらんなさい!」
俺もスセリもミナも、緊張して見守る。
天鳥船のような、超絶テクノロジーを創造する集団の元頭領、カワイキュンがその技術を見せてくれるのだ。
カワイキュンのやけに手入れが行き届いた、無骨で太い指が扉の縁を掴んだ。
「フンハー!」
扉が引き剥がされ、変形して飛んでいった。
「力技じゃねーかよ!?」
どこが技術なんだ。
無理やりに腕力で扉を破壊しただけだ。
こんなの鍵の意味なんてないだろ。
「あら、見えない速度でいろいろやったのよ」
あきらかに嘘だ!
カワイキュンおそろしすぎる。
「さあ、入りましょう」
俺たちはスサノオ大王の宝物庫に足を踏み入れた。




