焼け野原でのお話
「オオナムチさん、生きていたのですか!?」
スセリは俺に抱きついて泣き出した。
俺が死んだものだと思って泣いていて、こうして俺が生きているのを見て、今度はうれし泣きらしい。
スセリってよく泣くよな。
すごくかわいいんだけど、背後にお父様がおられるのですが・・・
ある意味、天国と地獄が同時にある感じです。
「葦原醜男よ! ネズミの穴ぐらに助けられたか?」
スサノオ大王の声が響く。
この人いちいち声がでかくてこわいんだけど。
空には天鳥船が浮かんでいるが、護衛もなにもいない。
まあ、この人には護衛の必要なんて無いな。
むしろ、この人から俺を守る護衛がほしい。
身体から立ち昇る魔力で、黒いマントが空中に巻き上げられて踊っている。
覇気とか殺気とか、そういうのもう少し自重してもらいたい。
抱きついてきてるスセリを盾にして自分を守る姑息な俺・・・
生きるためにはしかたないのだ!
そこで俺は気づいた。
む、これはまた神話と符号してるのか!?
古事記神話では、スサノオは大国主命に、この矢を取って来いと鳴鏑の矢を放ち、そして野原に火をつける。
焼け死んでしまうと困っている大国主命に、ネズミが地下の穴の存在をおしえて、その穴に入って火から逃れるのだ。
「誰がネズミよ! 淑女に向かって失礼ね!」
カワイキュンがプリプリとスサノオ大王に怒っている。
スサノオ大王に面と向かって怒ることができるなんて、この人はいったい何者なんだ?
天津麻羅って職人団体の頭領だったらしいけど、かなり権力がある団体だったりするのだろうか?
まあ、それにしてもこのおっかないスサノオ大王を前にして、まったく萎縮していないのはすごすぎる。
むしろ、スサノオ大王に熱い視線を送りはじめた。
業界の人特有の、かなりねっとりとした濃い視線だ。
小声で、ウホッいい男・・・とかつぶやいている。
これはスサノオ大王が押されてるんじゃないだろうか?
「な、鳴鏑の矢はどうした?」
スサノオ大王があきらかに話題を変えた。
カワイキュンおそろしすぎる。
あ、そうだ。矢をとってくる試練だったんだ。
神話ではどうなるんだっけ?
あ、ネズミが取ってきてくれるのか。
「おーい! すごいの見つけたぜ!」
ハッチがどこからか矢を持って走ってきた!
「ソレダ!」
俺はすかさずハッチから矢を奪い取り、スサノオ大王に向けて差し出した。
「矢はここに!」
決まった!
部下の手柄は俺のもの、俺の手柄も俺のものだ!
「テメェ・・」
「ヒグッ」
振り向くと、ハッチが怒っていた。
怒っているなんてものじゃない、これは憤怒だ。
神剣アメノムラクモノツルギを両手に構え、全身を硬直させ顔を真っ赤にして、額や首筋に血管を浮き上がらせている。
ちょっと待て!
いくらなんでも怒りすぎだろうハッチ!?
「ゥラアア!!!」
「うおっ!?」
しかし、ハッチが斬りかかったのは、スサノオ大王にだった。
「グバァ」
しかし、ハッチは近づくことすらできず、見えない壁に衝突したかのように弾き飛ばされた。
地面を転がったハッチは、焼けた土を身体中につけながら、四つん這いのまま顔だけをスサノオ大王に向けて、フゥフゥと激しく息を吐いている。
怒りに我を失いながらも、それでも理解させられてしまうくらいに圧倒的な差があるのだ。
「オロチの生き残りか? 根絶やしにしたはずだが?」
「グァアアアアアア!」
ハッチがまた飛びかかって弾き飛ばされる。
スサノオ大王は一歩も動いていないし、指ひとつ動かしていない。
身にまとう闘気のみで、ハッチの膂力による神剣アメノムラクモノツルギの斬撃を弾き飛ばしているのだ。
ハッチは地面にうつぶせに転がっていて、目だけがスサノオ大王を睨みつけている。
見るからにボロボロで、治癒魔法をかけてやりたいが、ハッチとスサノオ大王の因縁を感じさせる空気に、割り込むことができない。
「よかろう! これは愉快だ! 玉座の間での上奏を許そう。昇ってくるがよい!」
スサノオ大王は右手をこちらに向けた。
「む!?」
世界が歪む。
揺れている?
視界が急速に狭くなっていき、そして・・・




