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第五話 マレビトの証明

 鳥のさえずる声で目が覚めたが、たぶんまだ早朝だ。

 窓から差している朝特有のやわらかい光と、静謐(せいひつ)な空気がそれをおしえてくれた。

 早く寝たからだろうか、目覚めはスッキリな感じだ。


「起きてたか?」


 身支度をしていると、キクムさんが起こしに来た。


「さっき起きたところです」


 小屋を出てキクムさんの家に向かい、朝食をご馳走になった。

 昨夜のスープの残りとせんべいみたいなものだが、やさしい味がしてとてもおいしい。


「よく眠れたか?」


「ええ、ぐっすりでした」


 キクムさんはいい人だ。

 しかし、食事をご馳走になってばかりで、なんだか悪い気がするな。


「ここはなんてところなんですか?」


「ツクヨミの隠れ里だ。もっとも最近は町に出る若者も増えたし、行商も来るから隠れ里じゃないな」


「町があるんですか?」


「アマは大きな港町だ。船で世界中の品物が集まっている。食べ物や道具、なんでもだ」


「ここは島なんですか?」


「そうだ。オキ島だ。まあ、俺もそれくらいしか知らない」


 オキ島って島根県の隠岐島(おきのしま)だろうか?

 地名は似ているが、こんな村は無いはずだ。

 俺はいったいどこにいるんだろう?


「食べたか? 婆様のところへ行くぞ」


「あ、はい」


 キクムさんの家を出ると、たくさんの村人が集まっていた。

 どうも俺のことが気になるようだ。


「おはようみんな! この若者の名はオオナムチ。マレビトだ。婆様のところへ連れて行く。おまえたちは仕事に戻れ」


 キクムさんの言葉で、みんな散っていったが、昨日の子供たちが手を振ってくれた。

 かわいい。なごむよ。


「キクムさんって偉い人なんですか?」


「ん? まあ一応は村長だな」


「漁師の仕事もしてるんですか?」


「ああ、魚も貝も獲るぞ。でないと生きられないからな」


 うーん、昨日から何度も考えてたけど、ありえないと思って否定してきたことがある。

 ここって古代の日本じゃないだろうか。

 いや、とっても不自然というか、意味わからない状況なわけだけども。

 そうとしか考えられない感じがするのだ。


 考えながら歩いていると、いつの間にか洞窟に着いた。

 奥の広間に行くと婆様がいたが、その隣に少女が立っていた。


「孫のルウだよ。挨拶をおし」


「ルウです。はじめまして」


大波武一(オオナミムイチ)です。ルウさんよろしく」


「ルウと呼んでください」


 ルウは頬を朱に染めて、にっこりと笑った。

 小動物系というかアイドル系のかわいらしい笑顔だ。

 女子耐性と経験値が低い俺には、これはやばい攻撃だ。


 ドキがムネムネ、おっと違う。

 胸がドキドキしやがるが、ぐっとこらえてポーカーフェイスでキメる。

 まあ、おそらく赤面しているしキマってないだろうけど、こういうのは気持ちが重要なんだ。


 見たところ俺と同い年くらいかな。表情や話し方からすると、性格はおっとりした感じに見える。

 白い着物は麻かな。よく似合っている。

 あれ? 足にケガしてるな。


「おや、気づいたかい。この子は今朝、ケガをして帰ってきてね。ちょっと治すから待ってておくれ」


 そう言うと婆さんは、ルウの足首のあたり、血がにじんでいるところに手をかざした。


 すると、婆さんの手がうっすらと光った。

 小さい声でぶつぶつなにかを言っている。


 なにごとかと見ていると、ルウの足のケガがすっと消えていって、やがて完全に消えてしまった。


「なんですと!?」


 思わず声が出た。

 婆さんが使ったのは魔法か?

 なんこれ? なんぞこれ?

 厨二心にビンビンくるこの展開はなんだ!?

 ここは厨二の理想郷である剣と魔法の世界なのか?

 

「癒し手じゃ。誰でもできるわけじゃないが、わしくらいの者はいくらでもおる」


「うそよ。婆様は島でも一番の癒し手よ」


 ルウが即否定した。

 いや、さすがにこれは特別だろう。


 っていうか、癒し手ってなに?

 まずは、そこからわかんないんですけど。

 気功治療のすごいやつって感じかな?

 まあ、雰囲気で言ってみただけで、それもよくわかんないんだけどね。


 まあ、とりあえず婆さんは癒し手が使えると、心のメモに書き込んでおこう。

 だって、マジでびっくりしたし。


「マレビトよ。頼みがあるのじゃ」


「あ、俺ですか!あ、はい」


 おっと、俺はマレビトだったな。

 ついつい反応が遅れてしまった。

 ただでさえコミュ障なのに、見慣れない場所、見慣れない人々、見たこともないものだらけで対応ができない。

 こうなったらもう、なんて呼ばれても返事してやるぜ!

 なぜって聞かれても意味はないけどな。


「ルウは昨日、谷に黒曜石を拾いに行っておったのじゃ」


 婆さんはそう言って、真っ黒に光る石を俺に見せた。

 なんか硬そうな石だ。


「川沿いに山に入ると、奥の谷に黒曜石がたくさんある。ルウは村の者と二人で石を拾っていたのじゃが、その帰りに何かに襲われて、岩陰に隠れて夜を明かし、さっき帰ってきたのじゃ。ルウは別に住んどるから昨日は気づかなんだのじゃ」


「何かとは?」


「わからないの。大きな黒い影で、マゴさんが山のほうに引っ張り込まれて。わたしはあわてて岩の隙間に隠れて、そうしてるうちに暗くなってしまって・・・」


 ルウは(おび)えた顔をしながら、震える声でそう語った。

 まあ、暗い山の中でなにかに襲われたのだから、さぞかし怖かっただろう。

 そんなん俺だってこわいし。


「さっき確認したがマゴはたしかに帰っていない」


 キクムさん、いつの間に確認してたんだろう。

 さすが村長はできる男だ。


「山に人を襲う何かがいるということになりますね。今までにもこういうことがあったんですか?」


 怯える美少女と謎の怪物。

 俺の中の名探偵の血が騒ぐ。


 いや、そんな血流れてないんだけどね。

 ジジイなんてあきらかに脳筋だしな。


「今回がはじめてじゃ。このあたりには、人を襲うようなモノはおらんはずなんじゃが。マゴは山には慣れた勇士じゃし」


「俺が調べてくればいいんですね?」


「んむ。おぬしが一番力があるでな。ついでに黒曜石も取ってきてくれぬか。道案内にルウを連れて行くがよい」


「わかりました」


 俺はジジイに鍛えられてるし、たしかに武力は高いと思う。

 そういやジジイはどうしてんだろ?


「ありがとうよ。もちろんお礼はするよ。帰ってきたら、おぬしの知りたいことをおしえてやろうぞ」


 婆さんはそう言うと、俺の手を握って目を見つめてきた。


「わかりました」


 わかったからもう離してください。

 いい人なんだろうけど、この婆さんってちょっと怖いんだよね。


「それに、お礼とかいらないですよ。村には一宿一飯の恩がありますから」


 ルウが見ていることを確認しながら、優等生っぽいことを言ってみる。

 あ、そういや一食どころか三食食ってるわ。

 まあ、細かいことはいいだろう。


「わたしはどうすれば?」


 キクムさんが婆さんに尋ねた。


「村の勇士と何人かで同行しておくれ」


「マゴの由縁の者に声をかけてみます」


「それでは行きましょう」


 村に戻ると、キクムさんは山に行く準備をはじめた。

 そして、ほどなくしてマゴさんの兄を含めた三人の男が集められた。


「オオナムチは何を使う?」


 武器を出してきて、俺に勧めてくれたが、石斧、こん棒、石の槍と、どれもすごく弱そうww


 キクムさんたちは背中に弓、腰に矢筒をつけている。


「おまえがマレビトか?」


 三人の男のうち一番背が低い男がからんできた。


「そう言われたけれど、自分ではよくわかりません」


 厳しい目つきで俺をにらんでいる男は、背は低いが、よく日焼けしていて引き締まった身体つきをしている。


「強いのか?」


「稽古はしてましたが、強いというのがどのくらいなのかわかりませんね」


 男はめっちゃにらんでくる。

 謙虚な受け答えを心がけてるんだけど、なんでつっかかってくるんだろう。

 いや、これは感じ悪いわ。


「キクム、婆様はなぜこんな小僧に?」


 おいおい、こんな小僧呼ばわりはないだろうが、そんなに年は変わらない感じだし。


「マレビトだからだ。ジレ、不満ならば連れていかんぞ」


 キクムさんが男をにらんだ。

 この感じ悪い男はジレというらしい。


「チッ」


 ジレは悪態をついて背中を向けた。

 よくわからないが、俺に対してあまりいい感情は持っていないようだ。


 武器の選択については、迷ったけれど石の槍を選んだ。

 かなり弱い武器だが、まあ、素手よりはマシだろう。


 全員揃ったので出発した。

 村のはずれから川沿いに歩いて、目的の谷に向かう。

 太陽は高くなってきているが、昼まではまだ二時間くらいあるだろう。


 川のせせらぎの音に癒されるね。


 先頭はキクムさんで次に俺とルウ、残りの三人は後ろをついてきている。


 しばらく行くと、木が高くなってきて森に入った。

 木の匂い、いや、森の匂いがする。


 川沿いは開けているが、そのすぐ横はうっそうとした森で、日の光はあまり差し込まない感じだ。


「あとどのくらいかな?」


「谷までは、まだ結構あります」


 ルウは額に汗をかいていて、顔も赤く上気している。

 一生懸命な感じもかわいいな。


 男たちはさすがに平気そうだし、俺もまだまだなんともない。


 まあ、苦しくても女子の前では、全力で平気なフリをするけどね。

 コミュ障で感情表現が苦手なだけとも言うが、ああ、自分で言ってて悲しくなってきた。

 あそこの木、首を吊るのによさそうな形だな。


「滝の音?」


「ええ、この先に小さな滝があるんです」


 滝のほとりで休憩をすることになった。

 水飛沫(みずしぶき)でなんだか涼しいが、滝ってマイナスイオンが多いんだっけか?

 滝つぼに飛び込みたい衝動に駆られたが、任務の途中だしぐっと我慢だ。


 そして、簡単な作戦会議をした。


 ここからしばらく歩くと、ルウが隠れていた岩陰があるらしい。

 そのあたりを調べてみて、何も見つけられなければ、谷まで行って黒曜石を拾って、また帰り道で調べてみようということになった。


「さあ、出発するか」


 キクムさんが立ち上がった。


 俺も立ち上がってなにげなく振り向いた。

 そう、本当になにげなくだ。


 すると、そこにソレがいたのだ。


「避けろ!」


 俺はそう叫ぶと、ソレに向かって石の槍を投げて、さらに思い切り踏み込んだ。


「なっ!?」


 ジレの背後の森の中から、巨大なハサミが迫っていたのだ。

 ハサミに石の槍が当たって弾いたおかげで、ジレを助けることができた。

 ハサミって・・・巨大なカニ?


 まさしく形はカニなのだが、軽自動車くらいのサイズがあるぞ。

 踏み込んだ俺は、巨大カニの前に立った。


 巨大カニの突き出したふたつの目が俺を見た。


「カニかよ!」


 見た目よりも素早い動きで、凶悪なサイズのハサミが俺を襲うが、落ち着いて両手で弾いて逸らした。


「痛ぅ!」


 さすが甲殻類ってところか、外殻はまるで金属のようだ。これは硬いな。拳は通りそうにない。


「さて、どうするかね?」


 少し距離を置いて観察する。

 俺は素手だ。戦闘開始一秒で武器を失っている。

 ジレを助けるために石の槍を投げちゃったからな。


 巨大カニは、口元からあぶくを出して、触手みたいなのが小刻みに動いている。

 キモイな。なんか口のあたりの造形が、とってもグロいんですけど。


 これはにらみ合いなのだろうか。

 カニの目ってどこ見てるかわかりにくい。


 滝の音と水飛沫で、カニの接近に気づけなかったのは不覚だ。

 こういうときを狙ってくるって、このカニは知能が高いんだろうか?

 いや、頭よさそうには見えないし、きっと偶然なのだろう。


 キクムさんたちが巨大カニに矢を射るが、甲殻に簡単に弾かれた。

 巨大カニはまったく動じていない。矢を脅威に感じていないようだ。


「なによこれ!?」


 ルウの叫びは悲鳴にも似ている。

 俺はなぜかやたらと落ち着いているが、本来はこういう反応が普通なんだろうな。


「でかいカニだな。こういうのよくいるのか?」


 いかん、言葉使いが悪くなってる。

 こういうときって、どうも暴の気が抑えられん。


「いや、はじめて見るな。カニは手の平より小さいはずだ」


 キクムさんは続けて矢を射るが、巨大カニは避けるそぶりすらない。

 ジレは腰を抜かして座り込んでいるし、他の二人は、今にも逃げ出しそうになっている。


 これは怪物だな。

 しかし、ジジイに比べれば圧は低い。


 俺は、足元に落ちているジレの石斧を素早く拾った。

 そして巨大カニに向かって踏み込んだ。


 迫り来る大きなハサミを、姿勢を低くしてくぐるように避ける。

 頭の上を巨大なハサミが通りすぎていく。


「だりゃっ!」


 巨大カニの正面に踏み込み、そのままの勢いで振りかぶって、カニの目の付け根に石斧を叩き込んだ。

 硬いやつにはこうするんだ。

 弱いところを狙うのだ。

 鎧の隙間を通すのと一緒だ。


 硬いやつにももろいところがある。狙いどおりのところへ一撃を入れた。


 しかし、激しい衝撃で石斧が折れた。

 武器が(もろ)すぎてウケルんですけどw


 目の付け根の甲殻は砕けたが、さほどのダメージは無さそうだ。


 また武器を失ってしまった。


 しかし、俺の攻撃(ターン)はまだ終わらない。


 石斧が壊れることは織り込み済みなのだ。

 俺は、折れた柄の部分を持ち替えて、砕けた甲殻の隙間に突きたて、力まかせにカニの体内に打ち込んだ。


「おらああああああ!」


 そして、そのまま腕まで押し込む。

 押し込んだ腕を回して、巨大カニの体内をかきまわした。


 腕を引き抜くと同時に身体を返して、カニの腹に肩をぶつけて吹き飛ばした。


 大波流をなめんじゃねぇぞ!

 無手の技でも世界最強だ!


 カニはひっくり返ってすぐに動きを止めた。


 俺は残心を解いてカニに近寄り、死んでいることを確認した。


「倒しやがった」


 キクムさんはあきれている。


「すごい」


 ルウはキラキラした目でこちらを見ている。


 俺に惚れたか?

 まあ、そんなことありえないのは14年間の人生(くぎょう)でいやというほど学んでいる。


「小僧、いやマレビトよ助かった。さきほどは悪態をついてすまない」


 ジレが近寄ってきて俺に詫びてきた。

 素直に謝る姿勢は、実は悪いやつではないようだ。


「気にしてませんから」


 フ、これが強者の余裕ってやつですよどうですかルウさん?

 と、思ったらルウは全然こっちを見ていなかったくそう。


 その後、付近の山中を捜索すると、カニの巣と思われる水場にマゴの死体があった。


 巣は新しい様子で、キクムさんの見立てでは、最近どこからかやってきたのだろうという。


 それからかなり捜索したが、付近にはもう危険は無いという判断をした。

 時間も遅くなったし、俺たちは、村に報告に戻ることにした。

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