スサノオ大王はデタラメなお方でした
「父が会うとのことです。謁見のために玉座の間へ参りましょう」
「お、おう」
俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。
スセリの後について、部屋を出て通路を進んだ。
聞きたいことはたくさんあったが、話しかけにくい雰囲気だったのでやめた。
神武速須佐之男尊は、日本神話の中でも、もっとも重要な神の一柱だ。
古事記の上巻では、高天原に在るときと、出雲に天降ってからが別神のようになる特徴がある。
高天原では大暴れをして、天照大神が岩戸に隠れる原因となった。
田畑の畦を壊したり、機織小屋に皮を剥いだ馬を投げ込んで、機織女を死なせたりしている。
そして、天照大神が岩戸に隠れて世界が闇に閉ざされた罪により、八百万の神々による裁判を受ける。
その結果、罰として、高天原を追放され、出雲の鳥髪岳に天降るのだ。
ちなみに、この追放の際には、髪を切られ、歯と手足の爪を抜かれるというひどいありさまで、神様なのにかなり酷い目にあっている。
そして、嘆き悲しむアシナヅチとテナヅチの老夫婦に出会い、娘のクシナダ姫を妻にすることを条件に、ヤマタノオロチを退治して英雄となるのだ。
その時に童女だったクシナダ姫を妻にしたことや、ヤマタノオロチに毒酒を飲ませ、酔わせてから討ち取ったことなど、つっこみどころはあるのだが、これは現代の感覚では計れないことだろう。
勝つために全力を尽くすという、その全力の範囲が違うってことだ。
正々堂々と戦って負けることより、どんな手を使おうと、勝利という結果をもたらすことが求められるのだ。
ちなみに、スセリはこのクシナダ姫の娘のはずだ。
しかし、この城の中って道がわかりにくいな。
通路がぐねぐね曲がっている。
俺はオートマッピングがあるからいいけど、普通の人は覚えられないだろうな。
「曲者の侵入などに備えるため、通路がわかりにくくしてあるのです。王族か城仕えの者でないと、王の部屋などにはたどりつけないくらいです」
なるほど、まあ、天空に浮かぶこの城に侵入できる者がいるとも思えないが、備えはどれだけあっても不足はないだろう。
「玉座の間です」
そうこうしているうちに、玉座の間の前に着いた。
やばい、緊張で心臓が飛び出しそうだ。
おい、精神の祝福さん仕事しろ!
今こそ俺に超精神力を!
天井の高い大きな部屋だ。
左側に鎧をつけた武官っぽい人たちが整列していて、右側に文官っぽい人たちが整列している。
そして、部屋の一番奥の玉座には・・・
圧倒的な覇気をまとったスサノオ大王が座っていた。
「オオナムチさん、行きましょう!」
一歩歩くごとに、威圧が増していく。
心臓が痛いし、鳥肌が立ちっぱなしだ。
武官や文官からも、奇異の目や敵視するような目にさらされているのだが、正面のスサノオ大王からの威圧がすごすぎて、それらがまったく気にならない。
いや、気にする余裕がない。
この瞬間だけで、精神耐性が上がっている気がする。
巨大な岩に押し潰されるような感覚だ。
いや、竜巻、暴風雨、嵐や台風か!?
とにかくスサノオ大王が発する威圧は、もはや天災を思わせるスケールなのだ。
玉座の前まで来た。
どう歩いてきたのか、自分が今どんな顔をしているのか、それすらわからない。
三段ほど高いところにある玉座を見上げる。
跪こうとしたときに、スサノオ大王の声が響いた。
「葦原醜男よ! 跪かずともよい!」
激情を音にしたような声とともに、スサノオ大王が立ち上がった。
その威圧に圧されて下がりそうになったが、脂汗を流しながらもなんとか耐えた。
黒い甲冑に全身を包み、兜には牛のような角が生えている。
でかい・・・
3メートル近い身長は、腕も脚も胴回りもすべてが太くてぶ厚い。
全身から魔力が湯気のように立ち昇っている。
黒いマントが魔力で舞い上げられて、空中に大きく広がって波打っているのだ。
これはもうデタラメなお方です。
ステータスはもちろん見えないが、そんなもの見なくても誰にでもわかる。
これこそが規格外です。
ありがとうございました。
サルダヒコ元帥や英雄イタケルもとんでもなかったが、これはもう根本的に違う。
もはや、桁が何個か違うのだ。
いやほんと、ここ数日で世界の広さを感じまくってるわ。
「試練を与えよう!」
え?
いきなりなんでしょうか?
また、人の話を聞かないタイプの方なんでしょうか?
まあ、きっとそうだと思うし納得できるけど。
「この鳴鏑の矢を我が前に持ち返ってみせよ!」
「えっ!?」
いつの間にかスサノオ大王の両手に、真っ黒で精緻な装飾が施された、2メートルはある強弓が引き絞られている。
いつ出した?
いつ構えた?
そして、ためらうことなく放たれた矢は、まっすぐに俺に向かって飛んできたのだった。




