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英雄からの試験

 朝になった。


 外が騒がしいので庭に出てみると、イタケルが剣の素振りをしていた。


「オオナムチくん、起きたかい?」


 朝日に照らされるさわやかなイケメン。

 この世の中はとても不公平にできている。


「おはようございます」


「さて、この剣は十握(とつか)の剣だ。使いたまえ」


 イタケルは、手に持っていた剣を俺に投げてきた。

 あわてて受け取る。


「僕との戦いでキミの剣はもう使い物にならないだろう?」


「あ、はい」


 俺の剣のことを気遣(きづか)ってくれたのか。

 英雄イタケル、こうしてみると、けっこういい人なのかも。


「オオナムチさん、おはようございます」


 スセリも家から出てきた。

 銀髪がキラキラと日光を反射している。

 ゆったりとした白のローブが上品だ。

 身体のラインがあまり出ないタイプなのだが、それでもスタイルがいいのはわかる。


「おはよう!スセリ」


 イタケルはそう言って別の剣を手に取った。


「オオナムチくん」


「はい?」


「揃ったみたいだね。稽古をつけてあげよう!三人でかかってきたまえ」


「3人??」


 イタケルが踏み込み、戸惑う俺に向かって剣が迫る。

 その剣が別の剣で止められた。


 ん? 誰が止めた?

 スセリではないし、誰?


 そこにいたのは幼女だった。


「師匠!」


 身体に似合わないサイズの剣を持つ幼女。

 鬼子の異名を持つ俺のたった一人の弟子。


「ミナ!?」


 三人目って、ミナかよ!?


 よし、やってやろうじゃないか!


「スセリ、俺とミナに補助をくれ!」


「はい!生命力強化(オーバーヘルス)!」


 スセリがいくつかの呪文を唱える。

 俺とミナにHP最大値アップと防御力の向上、一定時間ごとの継続回復の補助魔法が掛かった。


「オオナムチくん、準備はいいかい?」


 英雄イタケルは余裕の笑みを浮かべている。


「待っていてくれたのか?」


 獰猛(どうもう)な感情が俺を満たす。

 その笑顔を崩してみせる。


「ミナ、スセリ、いくぞ!」


「あい!」


「はい!」


 俺とミナが左右から斬りかかる。

 イタケルは、ミナの剣を受け流し、俺の剣を弾いてみせた。


「その子の剣は随分(ずいぶん)業物(わざもの)だね。伝説級(レジェンダリ)かい?」


「宝剣ライキリ!」


 ミナが叫びながら斬りかかる。


 む! ミナの剣って名前があったのか!

 知らなかった。


 イタケルは軽くいなしてみせる。


「いや、神話級(ゴッズ)だね。僕の剣では受けるにかなわないようだ。すまないが、受け流させてもらうよ」


 イタケルは涼しい表情だ。

 楽しげにさえ見える。

 スサノオ大王とともに、どれだけの戦場を駆けたのだろうか。

 敵を屠って鍛え上げた(わざ)は、実戦的で強力だ。


 俺も斬りかかっているのだが、すべて弾かれている。

 英雄イタケル、すごいと思っていたが、本当にすごいな。

 こうして平地で対峙してみると、圧倒的な技量差だ。


 俺もミナも手傷を負わされているが、スセリがすぐに回復してくれる。


「ミナは足を!」


「あい!」


 ミナに足を狙ってもらい、俺は上半身を狙う。

 攻撃を上下に分散してみるが、それでも余裕でいなされる。


「狙いは悪くないよ。しかし、オオナムチくんは速いな」


「いやいや、あんたほどじゃないから!」


 いや、ホント、英雄すごいわ!

 俺とミナの斬撃(ざんげき)刺突(しとつ)をこれだけさばくって、神業(かみわざ)どころの話じゃない。


 イタケルの手とか剣とか消えてるもんな。


「さて、じゃあもう一段ギアを上げさせてもらうよ!」


「なんですと!?」


 そこからはもう一方的だった。


 スセリの回復魔法が間に合わなくなってきて、稽古が終わった。


 ツマツ姫さんが冷たい飲み物を持ってきてくれた。

 オオヤツ姫さんは、朝食を作ってくれているらしい。


「キミたちは素晴らしいチームだよ。これなら与えられた試練で死ぬことはそうそうないだろうね」


 絶対ないわけじゃないんですね・・・


「まったく歯が立ちませんでした」


「まあ、経験が違うよ。僕がキミらくらいのときはもっと弱かったと思うよ」


「ホントですか?」


「うん。本当さ」


「どうやって強くなったんですか?」


「子供の頃から父と一緒に行動していたからね。父は無茶をするんだ。父と一緒に行動する場合、弱いと死んじゃうからね。強くなるしかなかったんだよ。異国の戦場、海も渡った。まあ、おかげで鍛えられたよ」


 修羅の国を生きてこられたのですね・・・


「それに僕はワ国でも五指に入る強さなんだ。世界でも十指に入ると思うよ。だから気にすることはない。むしろ僕とこれだけやりあえるのは、本当にすごいことなんだよ」


 イケメンって得ですよね。

 自分で強いとか言っちゃってても、それがいやみに聞こえないんだからずるい。


「それで、君たちにおすすめの戦術なんだけど、オオナムチくんが盾役(タンクとして敵をキープして、ミナちゃんが攻撃役(アタッカー)で、スセリが回復役(ヒーラー)だね」


 現実的で的確なアドバイスだ。

 さすが歴戦の英雄。


「オオナムチくんは、盾で受けるというより、素早さを活かして避けるほうがいいね。そうして避けながら攻撃をすることで、敵を足止めするのがいいだろうね。そのほうが多くの敵を同時に相手できるよ」


 ふむふむ、これも納得できる。


「一人で多数の敵の相手をすることを考えると、範囲攻撃の技を習得したほうがいいね。それと、装備は物理防御力よりも魔法防御力を重視したもので、重量が軽いものにするといい。回避力を優先するんだよ」


 いやあ、この人ってただの超シスコン野郎かと思ってたら違うよ。

 できる超シスコンだよ。

 俺が女子だったら、バレンタインにチョコあげてもいいかなってくらいだよ。

 ああ、この世界にはバレンタインデーはないな。

 もらえない俺にはすばらしいことだ。


「ミナちゃんは剣筋が素直すぎるね。魔物相手ならいいかもしれないが、知能がある相手や人には、もっと死角から攻撃したほうがいい。認識できない状態で受けた攻撃はダメージが大きくなるんだ。ほら、不意打ちのほうが効くだろう?」


 ミナがこくこくとうなずいている。

 やめてくれ! 俺の師匠ポジションが揺らぐ。


「スセリは敵と自分との間にオオナムチくんが来るように動くんだ。オオナムチくんを盾にするんだよ。攻撃されない位置にいることが大事だね。それだけで前衛(ぜんえい)は攻撃に専念できる。なにかを守りながら戦うのって大変だからね」


 俺はこの人に謝らなければいけない。

 稽古をつけてやるって言われたとき、きっと私怨だって思ったんだ。

 だけど、それは違ってた。

 この人は英雄で、スセリの兄なんだ。

 妹を想う純粋な気持ちからの行動なんだよね。


「あ・・あれ?」


 俺は手に持っていたコップを落とした。


 部屋が回る、身体がしびれる。


 と、そのとき俺は気づいてしまった。


 英雄イタケルの手元に、中身が空になった謎の小瓶が落ちてることに。


 そして、俺の飲んでいる冷たい飲み物が、あきらかに変な味がすることに。


「毒!? やっぱ私怨かよ!?」


 英雄がニヤリと笑った。

 ちがう! こいつはいい人なんかじゃねー!

 どうしようもない超シスコンのダメ人間だ!

 前言撤回! こいつに謝ることなんてなにもねえ!


「おにいちゃん!!!」


 俺は意識を失ったが、スセリが毒消しの魔法で必死に治療してくれたらしい。


 気がついたとき、スセリは泣きながらよかったと喜んでいた。


 そして、部屋の床には、元の顔がわからないくらいボコボコにされたイタケルが転がっていた。

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