キの国のオオヤビコ
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山中を歩いて、夕方には目的の家に着いた。
途中で何度か魔物に遭遇したが、問題なく倒した。
夕食は軽く済ませておいた。
これは、かなり大きな一軒家だ。
スセリはここに来るのは、かなりひさしぶりなのだという。
英雄イタケルの妹、オオヤツ姫とツマツ姫は、末っ子のスセリからすると姉にあたる。
突然に訪ねてきた俺たちに驚きもせず、あたたかく迎え入れてくれた。
応接間に案内される。
「やあ!オオナムチくん、スセリ、早かったね!」
そこには、見知ったイケメンが座っていた。
「なんですと!?」
イタケルだ!!
テーブルに座って、ほがらかにお茶を飲んでいる。
再会が早いというか、予期してないんだけど。
なぜ、ここにいるんだ?
「だって僕の家だからね!」
「あ、そうですね」
よく考えたら、この家の家主はイタケルなんだった。
むしろ、いるのが当たり前なのか。
オオヤツ姫とツマツ姫が驚かなかったのも、イタケルから俺たちが来ることを聞いていたからなのだろう。
しかし、イタケルとは数時間前に死闘を繰り広げたばかりだ。
俺とスセリは警戒して身構えた。
「大丈夫、なにもしないよ。暴れたらこわれるのは僕の家なんだから」
さわやかな笑顔で言ってのけるイタケル。
そう言われるとそうなんだけど、超シスコンはどこでキレるかわからない。
「まあ、とにかく座りたまえ。お茶でも飲もう!」
毒とか入ってないだろうな?
まあ、生命の祝福がある俺は、ほとんどの毒は効かないだろうけど安心はできない。
「大丈夫。毒なんて入っていないよ!妹たちに止められたからね」
「入れようとしたのかよ!?」
やはりこいつはやばい・・・。
「おにいちゃん、おねえちゃん、わたしはオオナムチさんと結婚したいんです!」
スセリが単刀直入に話を切り出した。
「いや、だってスセリはまだ子供だろう?僕はまだ早いと思うな」
イタケルの表情が硬くなった。
笑顔だが目が笑っていない。
「おねえちゃんたちはどうですか?」
スセリが二人の姉に話を振った。
「そうね。素敵な人だと思うわよ」
オオヤツ姫が言った。
「わたしもいいと思うな」
ツマツ姫も同調する。
「おねえちゃんたちは認めてくれましたよ?」
スセリの言葉にイタケルの身体が硬直する。
「ぐぬぬぬぬ・・・」
ぐぬぬぬとか言ってる人、はじめて見たよ。
英雄イタケルが英雄にあるまじき顔をしている。
見開いた目は充血し、下唇を噛んで震えている。
テーブルの下の拳からは、血が流れ落ちている。
「だれがなんと言おうと、わたしはオオナムチさんのお嫁さんになるのです」
スセリが強い言葉で言った。
イタケルはしょんぼりとしながら、俺のほうを向いた。
「オオナムチくん、スセリを娶るということがどういうことかわかってるのかい?」
「いえ、わかっていません」
俺は正直に答えた。
「ワ国大王の系統は末子相続だ。スセリは八男三女の末子、つまり、スセリを娶るということは、ワ国大王である我が父、神武速須佐之男尊の跡を継ぐということなんだ」
むむ、そう聞くと、なんだかとてつもないことのような気がしてきた。
「お父様もお母様もきっと認めてくださいます!」
スセリが必死な表情で言うと、イタケルはあきらめたように目を閉じて首を振った。
「スセリは昔から言い出したら聞かないからな。しかたない・・・」
「許してくださるのでしょうか?」
スセリの表情が、花が開いたように、ぱぁっと明るくなった。
イタケルは、俺のほうを向き直り、厳しい表情になった。
「こうなったら父の試しに従おう。オオナムチくん、父に会いたまえ。父はキミに試練を与えるだろう。その試練を乗り越えられたとき、僕もキミとスセリのことを許そうじゃないか」
「わかりました」
これは神話のとおりだな。
八十神に追われた大国主命は、木の国のオオヤビコに、根の国のスサノオに会うように助言を受ける。
そして、スサノオの試練を受けるのだ。
「イタケルさんってオオヤビコって呼ばれることもあるんですか?」
試しに聞いてみた。
「ああ、それは僕の会社の名前だよ。僕は妹たちと林業と製材の会社をしていてね。これでも国内シェアナンバーワンなんだよ」
「あ、そ、そうなんですね」
つっこみどころが多くてつっこめない。
「今夜はもう遅いから泊まっていきたまえ。もちろんスセリとは別室でね」
「あ、はい」
死闘を繰り広げた英雄の家にお泊り。
なんだかよくわからない展開だが、とにかく休めるときに休もう。
エキサイティングな毎日だぜ!




