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覚醒と再会

 わずか四歩の距離で英雄イタケルと向き合う。


 お互いに一歩の踏み込みで殺せる距離だ。


 俺の手にはバスタードソード、イタケルの手にはナイフ。


 見た目には圧倒的に有利に見えるだろうが、はっきり言って生きた心地がしない。

 まるで心臓を掴まれているかのようだ。


 いつでも殺せる、イタケルの目は俺にそう言っている。

 どう殺すか、それを考えているのだ。


 歴戦の英雄は自信に満ち溢れている。

 数多(あまた)の戦場で(つちか)った技と経験が、イタケルには宿っているのだ。


 言葉で探りを入れる。


「来ない・・・のか?」


「・・・・」


 俺の挑発も無言であっさりと受け流す。

 強いのに油断しないとか、ちょっと卑怯(ひきょう)なんじゃないの?


 イタケルは俺をじっと見てつぶやいた。


「考えている」


「え?」


「妹をどうやってだましたんだい?」


「なにもしてないっす」


「キミは膨大な魔力を持っているようだ。魔法でだましたのかい?」


「いや、なにもしてないっすよ」


 話にならない。

 スセリをだましたことが前提のようだ。


「まあ、いいか。キミを倒せば妹にかかった悪い魔法も解けるだろう」


 イタケルが怖い(かお)になった。

 どうやら、厄介な結論を出したらしい。


 空に向かって無数の矢を放つ。

 同時にナイフで突いてきた。


「スセリ、今、助けてあげよう!」


 空からは矢が降りそそぎ、目の前にはナイフが迫る。

 矢の隙間をくぐり、バスタードソードでナイフを受ける。


「おもちゃの剣かな?」


 やばい、バスタードソードを切り返す。

 このナイフは受けられない。

 金属音とともに、ナイフの切っ先がブレードの一部を削り飛ばす。


「この剣って買ったばかりなんすけど!」


 さあ、これはどうだ!?

 至近距離から火魔法をぶっ放す。

 背丈の三倍はある火柱がイタケルを襲う。


 イタケルは弓を振る。


「おっと、危ないな。山火事になるだろう?」


 火魔法が消された。

 なんだその弓は!?おかしいだろ!


 魔法の不意打ちを狙ってたのだが、あっさりと阻止された。


 すぐさま矢が飛んでくる。


 いつ撃った!?

 弓矢って近接武器じゃないよな!?


射盾(いたて)の神の名をなめてもらっちゃ困るよ」


 剣を振れば届く距離から、ひたすらに矢を撃たれる。

 そんなバカな!?

 まるで機銃掃射じゃねーか!


 イタケルは笑っている。


「うおおおおおおおおおおぁ!」


 避けきれない。


 肩に刺さる!

 足に刺さる!

 わき腹に刺さる!

 そこかしこが痛い!

 肉がちぎれ骨が削られる!


 全力で回復魔法を使う。

 ダメだ追いつかない!


 右腕が動かない。

 剣を落とす。

 矢の雨は止まない。


 やばい!

 これはやばい!


「ダメ!させないから!」


 スセリが叫びながら両手をこちらに向けた。


聖なる癒し手(ホーリーリカバリ)生命力の息吹(ブレシングヘルス)


 スセリの両手から出た光の奔流が俺を包み込む。


 傷が盛り上がってふさがる。

 再生した肉が刺さった矢を押し出す。

 失った血が、肉が戻ってくる。


 降り注ぐ矢から受ける傷より、回復速度のほうが速い。


生命力強化(オーバーヘルス)!」


 虹色の光が俺に降り注ぐと、まるで巨人になったかのように力が湧いてきた。

 ステータスを確認してみる。


 HPが150%UPの10,808になっていた!?


 しかも、一定時間ごとに回復する魔法がかかっているようで、矢傷を受けるそばから再生していく。


「わたしは戦闘は苦手です。でも、回復と補助魔法では誰にも負けません!」


 スセリが力強く言い放った。


「うあああああああああああああ!」


 英雄イタケルが叫んだ!


「許さない!絶対に許さない!」


 逆鱗に触れた!?ものすごく怒っている。


「スセリに回復してもらうのは僕だろう?何をしてるんだキミたちは?」


「うるせえええええええ!!」


 突然だ!


 突然あらわれた男がイタケルに斬りかかった。

 轟音とともにイタケルの身体が飛ばされた。


「俺様が参上!」


 両手に剣を持った上半身裸の男が振り返る。

 彫りの深い顔でニカッと笑った。


「ハッチ!?」


 イナバへの行き道で俺のおにぎりを食べた男。

 そう、あのハッチだ!


 イタケルが立ち上がる。

 頭から血を流している。


「キミは誰だ?」


「俺様はハッチ!弟のハッチだよおにいちゃん!」


「なんだと!?」


 驚くイタケルにハッチが斬りかかる。


「嘘だブーーン!!!」


 イタケルがナイフと弓でハッチの二刀を弾き飛ばす。


「神剣アメノムラクモノツルギだと!?キミは何者だ?」


「弟だブーーン!!!」


「なんだと!?」


「嘘だブーーン!!!」


 ハッチは連続で斬りかかる。

 あいかわらずなんて自由な男なんだ。

 俺もスセリもあっけに取られている。


「厄介だな。妹の前でこれはよくない。出直させてもらう」


 イタケルは身を翻すと、一瞬で森の中に消えた。


 とりあえず最大の危機は去った。


 しかし、ハッチという謎が目の前に立っていた。

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