英雄の追撃
昼食は鳥肉と香草のスープを作った。
材料や調理器具などは、アマと隠れ里で集めたものが万宝袋に入っている。
森の匂い、木漏れ日、のどかな食事だ。
まあ、追っ手がかかってなければだけれど。
「キ国まではあとどのくらいかな?」
スセリがおいしそうにスープを飲みながら答える。
「今夜までには着くのかもしれません」
「うお、早いな」
徒歩で一週間だけど、俺たちの移動速度が異常なので、一日で着いちゃうみたいだ。
休憩が少ないせいもあるだろう。
スセリってほんとタフだ。
ふう、たっぷり食べてちょっと休憩。
冷たいお茶を出してあげると、コクコクと小さくのどを鳴らして飲んでいる。
やばい、めっちゃかわいい。
「そういえばさ」
「???」
ついでに気になっていることを聞いてみることにした。
「戦闘って得意なの?」
英雄イタケルと配下に追われている現状、そのうち追いつかれて戦闘になる可能性が高い。
そのときのためにも、スセリの実力を把握しておく必要がある。
共闘か、守るのか、逃がすのか?
それを判断するためには、スセリの戦闘力を見極めなければならない。
「わたしは戦闘は苦手です」
「そっか」
まあ、そうだよな。
ある意味、納得だし、そのほうがかわいらしい気もして、ちょっとホッとしてしまった。
「でも、、、」
「ん?でも?」
スセリがなにかを言おうとしたとき、それは突然に飛来した。
空気が振動する。
俺が頭を後ろに引くと、俺の頭があった場所をなにかが通り過ぎた。
爆裂音、その何かが地面を吹き飛ばした。
「矢だと!?」
ありえない威力だが、それはたしかに矢だ。
「兄です!」
スセリが真剣な表情になった。
「オオナムチくん、さすがだ!僕の初撃を避けられるなんて。感動したよ!」
遠くからイタケルの声がした。
これが英雄イタケルの弓矢か。
「キミが僕の妹をおかしくしてしまった。言うなればキミは魔王だね。僕は英雄として姫を救い出さなければならない」
なにを言ってるんだこの男は・・・
まだ姿は見えない。
スセリはいやそうに顔をしかめた。
「ああなってしまった兄は止まりません。気をつけてください」
スサノオ大王とともに海人族を制し、ワ国を築いた真の英雄イタケル。
その実力は、とてつもないようだ。
「オオナムチくん、これは避けられるかな?」
「なっ!?!」
声がする方向とはまったく違う場所から矢が飛来した。
しかも三本同時にだ!
万宝袋からタワーシールドを出し、左からの矢を弾く。
弾かれた矢は、そのまま森の木々を粉砕した!
すさまじい衝撃に身体が押されるが、右手に構えたバスタードソードで、右からの矢を叩き落とす。
右手がしびれる。
矢なんていう威力じゃない。
まるで大砲の砲弾のようだ。
「まったくオオナムチくんには驚かされる。さすが妹をたぶらかすだけのことはあるね。さて、どんどんいかせてもらうよ!」
「おい!待て!ちょ!」
まったく問答無用だ。
驚異的な数の矢があらゆる角度から飛んでくる。
弾く弾く弾く! 叩く叩く叩く!
どんな仕掛けなんだ?
あらゆる方向、それも俺の死角から、数え切れないほどの矢が飛んでくる。
後ろのスセリに当たらないようにしながら、飛来する矢をさばいていく。
矢が途切れた!
「こんにちは!」
いきなり俺の目の前にイタケルがいた!
突いてきたナイフを盾で受ける。
「なにっ!?」
盾を貫通しやがった。
鋼鉄のタワーシールドは厚さ10センチもあるんだぜ?
おいおい、デタラメはやめてくれよ英雄。
そして、それだけでは止まらない。
盾ごと俺の身体は押し込まれ、ふっとばされて背後の大木にぶち当たった。
衝撃と圧迫で息ができない。
盾を貫いたナイフが、俺の胸に迫る。
「がはっ!」
力を振り絞って、盾を捨てて横に飛ぶ。
「スセリ、キミは見ておきなさい」
イタケルの魔力が膨れ上がった。
「おにいちゃん!」
スセリのまわりに、突然に木が生えた。
まるで木の牢獄だ。
スセリが閉じ込められた。
「僕はこの国に木をもたらした神なんだ。森で僕と戦ってはいけないよ」
英雄イタケル・・・おそるべし。
「さて、魔王退治だね」
冷酷なほほえみが俺を見据えた。
俺はバスタードソードを構えなおした。




