巨獣 VS 師弟
20メートル超の怪物が吼えた。
俺が気配を察知できる範囲の外から、つまり山の上から飛び降りてきたようだ。
口から吐いた炎は、強大な魔力の顕現だろうか。
一撃で100人以上が焼け焦げて炭になった。
地面が燃えている。
赤くてゴツゴツした皮膚、外側に向けて反り返った四本の牙。
筋肉で盛り上がった肩に、力を溜めこんでいる足。
さきほど俺たちが倒した猪の魔物の親玉か!?
獰猛に赤く燃えるような目と激しい息遣いは、眷属を殺された怒りからなのか?
「○ッコトヌシ様!?」
「ムイチちがう!レッドギガントボアだ!」
ムル教官が慌てて訂正する。
ほう、なんか強そうな名前だな。
神話で俺を殺したという赤猪はこいつか?
そうだとしても、ここで神話を変えてやる!
レッドギガントボアが首を振って炎を吐いた。
さらに20人ほど殺られたようだ。
「みんな逃げろ!俺が止める!」
俺はタワーシールドを構えて、レッドギガントボアに突撃する。
20メートル超の巨体が勢いをつけて迫り来る。
俺は四肢を踏ん張り、タワーシールドの前面に氷の魔法による結界を展開する。
レッドギガントボアと俺が衝突した。
電車が正面衝突したかのような衝撃と轟音で、俺の足が地面にめり込むが、土魔法で地面を補強して踏ん張った。
レッドギガントボアが炎を吐いた。
氷の魔法の結界とぶつかって、水蒸気の煙が立ち込める。
よし、なんとか相殺できる。
「ミナは待て!」
俺の背後で鬼の形相のミナを制止する。
レッドギガントボアが首を振って暴れる。
その規格外の重量によって、足元は穴だらけになっている。
四本の牙が交互に俺に襲い掛かるが、すべて盾で弾き返す。
右の牙を折ってやった。
かなり弱ってきたようだ。
よし!そろそろ終わらせてやろう。
「ミナ!おまえの剣に氷の刃をつけてやる!こいつの眉間に突き立ててやれ!」
ミナの剣が2メートルほどの氷の刃をまとった。
「承知!」
鬼の貌で口角を釣り上げたミナが、レッドギガントボアの突進を止めている俺の背を蹴って飛び上がった。
ミナの剣がレッドギガントボアの目と目の間、眉間に深々と突き刺さる。
断末魔の叫びが山にこだまして、レッドギガントボアは倒れた。
「ミナ、よくやった」
頭を撫でてやると、ミナはうれしそうにしていた。
犠牲者は140人だった。
ムル教官や総司令官のおっさんは、むしろレッドギガントボアが暴れてこの被害なら少ないほうだと言っていた。
テマの町が壊滅したとしても、おかしくないほどの災害級の魔獣なのだ。
レッドギガントボアや猪の魔物の死体は、町に運ばれて調査され、肉や牙や骨などは競売にかけられるのだそうだ。
その販売額を今回の任務に参加した者たちで分配するのだが、活躍度によって金額が決定されるので、俺とミナはかなり多くなりそうだとのこと。
とりあえずテマ山の魔物の脅威は無くなったということで、俺たちはミホさんの屋敷に戻ることになった。
◇◇◇◇◇
屋敷に戻ると、ミホさんが出てきた。
「ムイチさん、服がボロボロじゃないの?」
そう言われて見てみると、激戦で服がところどころ破れていた。
「ちょうどいいわ。そういうの得意な娘たちが来てるのよ」
キサガイ姫とウムギ姫というイズモの姫で、モノを直すのが得意らしい。
俺は破れた衣服なんかを直してもらった。
「って、そうか!!」
思い出した!
再生神話で、殺された大国主命を蘇らせた女神の名前が、キサガイ姫とウムギ姫だ!
俺がボロボロになって死ぬんじゃなくて、ボロボロになったのは服か!
そして服を再生してもらったってことか!
まあ、本当にそうなのかはわからないが、今日のところはそういうことにしておこう。
そして、安心してぐっすり眠りたい。
さすがにちょっと疲れたからね。




