テマ山の任務と方針
第四章になりました。
説明回です。
「やっぱヨドエの米はうまいな」
俺はヨドエの修練場の食堂でメシを食っている。
テーブルにはルウとミナがいる。
そして、対面にはムル教官が座っていて、一生懸命になにかを話してる。
でも俺はあまり聞いていない。
だって今は、この米のうまさに酔いしれていたいんだ。
「ムイチ、聞いてるのか?」
「んあ?水がいいから米がうまいって話ですか?」
「まったく違う。次の指示が届いてるって話だ」
俺たちはイナバから帰ったばかりなんだけど、サルダヒコ元帥からすでに次の指示が届いていたらしい。
ちょっと人使い荒いんじゃないかな?
まさか、ブラック企業?
なんかもう退職しちゃおっかな。
でも、あの人こわいしな。
「テマ山周辺で魔物の被害が増えている。その調査と魔物の駆除が次の任務だ」
「テマ山?」
「ここから一日歩いたところにテマ山という山がある。そのテマ山のふもとに発展した都市がテマで、ここホウキ国で一番大きな都市だ」
ああ、わかった。
手間山だ。
待てよ?
そういえばあそこも大国主命の神話があったよな。
なんだっけか?
あ、アレだ!
大国主命の再生神話だ!
大国主命が八十神に騙されて、赤く焼いた岩で殺されるけど、生き返るって話だ。
たしか、山の上から赤い猪を追いたてるから、ふもとで待ってて捕まえろと騙されるんだ。
そして、赤い猪に似せて赤く焼いた岩を落とされて、それを捕まえようとして殺されちゃう話だ!
大ヤケドで身体はバラバラにされて死ぬとか、かなり猟奇的な殺され方だった気がする。
神様が騙されて殺されるって、そんなんアリかと驚いた覚えがあるわ。
八十神の動機は、ヤカミ姫が大国主命を選んだことに嫉妬して殺したというものだ。
八十神っていうと、ここにいる野郎どものだれかだな。
たしかにこいつらならやりかねない。
イナバでは実際に俺に襲いかかってきたし、動機も一致している。
むしろ、俺の対面に座ってる髪の短い男なんて、もっともあやしい感じだよな。
「なんだムイチ?俺の顔になにかついてるか?」
いかんいかん。
ムル教官への不信感が顔に出てしまった。
探偵はクールじゃないといけない。
まあ、探偵じゃないんだけどね。
そうそう、この神話なんだけど、現代では再生神話として人気があった。
神様である大国主命が殺されて生き返るってのが、再生や復活の奇跡ってことでドラマティックなわけだ。
その大国主命役が今の俺かもしれないわけだが、俺の場合は生き返ることができるとは限らない。
俺は回復魔法をちょっとかじってるわけだが、死者の蘇生ってのはかなり難易度が高いと感じている。
俺ならばいつかできると思うが、現時点ではできないし、自分を自分で蘇生するのはさらにむずかしいだろう。
回復魔法が使える者すら珍しいというこの世界で、俺が殺された場面に蘇生魔法が使える人が居合わせるなんて、あまりにできすぎた話じゃないだろうか?
そうだ!一応聞いてみよう。
「あのさ。ルウって蘇生魔法使える?」
「え?そんなの無理に決まってますよ」
「ミナは・・・聞くまでもないな」
やはり、そんなうまい話があるわけない。
そして、思い出した。
大国主命を蘇生するのは、母神と二人の女神だ。
この世界に俺の母はいないし、むしろ現代ですら母がいなかった。
つまり、この神話の内容が間違っている可能性が、さらに高くなったってことだ。
むしろ、俺が殺されて誰かが入れ替わるとか、そういうのが真実であって、それが現代では生き返ったと伝わっている可能性もある。
俺が現代で知った神話知識なんてのは、今から2000年以上も人から人へ伝わってからの話なわけだから、正確に伝わっていない可能性のほうが高いだろう。
まあ、俺が殺されて実際に生き返るという可能性も0ではない。
でも、その可能性は低いわけだから、まずは殺されないように気をつけたいと思う。
そうだ方針を決めよう。
任務を受けて、テマ山に行くのは避けられない。
俺にできることは・・・
まずは、八十神に騙されないように気をつけること。
そして、赤く焼かれた岩に注意すること。
まあ、こんなところか。
とりあえず気をつけて、がんばってみるしかないな。




