第二十六話 チート級女神様に石化攻撃を受けました
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参加者とスタッフ含めて2400名超の、すさまじい婚活パーティーがはじまった。
開幕の乾杯では、歓声で王城が揺れた。
イナバ国王の一人娘、ヤカミヒメの名を冠する婚活パーティーだ。
まあ、俺は厨房で、ひたすら皿を洗ってるから関係ないんだけどね!
なぜ、ミナやルウでさえパーティーに参加しているのに、俺が参加していないのか、不思議に思っている人もいるだろう。
お互いに求め合う、着飾った美しい紳士と淑女。
洒落た会話、豪華な料理、優雅な音楽やダンス。
この日を何ヶ月も待ちわびた人も多いと聞いた。
イナバという強国の美姫に求婚できるという、華やかな社交の場。
この入場券はプラチナチケットとして高騰し、財産を投げ出した者さえいるという。
そう、誰もが憧れる最上級のパーティーなのだ。
で、それに俺が出ないのはなぜかって?
そう、俺がコミュ障だからだ!
彼女いない暦が年齢と一致していて、日々これ絶賛記録更新中の俺には、婚活パーティーなど負け戦でしかない。
女子とろくに話したことがないし、どうしていいかもわからない。
そういえば、昨夜は女子に吊るされて、棒でトラウマを叩きこまれた。
あいつらはかわいいけど、俺には毒物でしかないんだ。
目に毒だし、気の毒な結果しか生まない。
俺には男女交際のスキルが無い。
たとえば武器も防具も持たないで、戦士がひしめく戦場に出たいやつがいるのか?
負けるの確定の戦争なんて、誰だって行きたくはないだろう?
少なくとも俺は行かない。
妖精には妖精の生き方がある。
俺は魔法使いになって、賢者を目指せる器なのだ。
むしろ大賢者として、伝説にだってなれるかもしれない。
いっそ、魔王になれちゃうか?
あ、なんか死にたくなってきたので話題を変えよう。
で、俺が働いている厨房だけど、ここは楽園ですよ!
だって、豪華な料理をつまみ喰いできるんだぜ!
俺の身体能力は飛びぬけているし、素早さもチートだ。
この能力を駆使すれば、まわりのやつらに気づかれることなく、つまみ喰いをすることなど容易だ。
しかも、俺レベルになると、皿洗いの仕事を完璧にこなしながらも、隙をついてつまみ喰いをすることすらできる。
なんと、さっきは料理長に仕事ぶりを褒められて、ここで働かないかと誘われてしまった。
つまみ喰いしまくってるのにだ。
少し悪い気もするね。
でも、人の役に立つっていいもんだな。
認めてもらえるって、とてもうれしいことだ。
しかし、さすがにこれだけつまみ喰いすると、おなかいっぱいになってきたな。
30人前くらいは軽く食ってる。
俺って育ち盛りだもんな。
さすがに料理人たちも、料理の減り方がおかしいことに、感づきはじめているようだね。
あ、すごいこと思いついた。
万宝袋に料理を入れればいいじゃん。
そうすれば後でおなかがすいたときに食べられるし。
俺はリミッターの外れた立派な犯罪者の思考だった。
踏み越えてはいけない一線を、スキップで軽やかに飛び越そうとしていたが、射るような視線に気づいて、ギリギリのところで踏みとどまった。
「ムイチくん、なにしてるの?」
調理場の入り口に、ルウが立っていた。
「な、なななな、なにもなん」
焦りすぎだろ俺。
なにもなんってなんだよ・・・
俺のキョドりっぷりに、ルウがあやしんで顔をしかめた。
「違うって!」
なにが違うのかは説明できないが、そう言ってルウのほうに踏み出した俺は、そこで石像のように固まってしまった。
ルウの後ろに女神様がいたからだ。
そこだけもはや空気すら違う感じ。
背景に薔薇園の幻覚が見える。
匂い立つような美しさ。
てか、実際にいい匂いがするし。
「ヤカミちゃんがムイチくんに会いたいって言うから、連れてきちゃいました」
ルウがにっこり笑った。
これがヤカミヒメ様!?
女子の目を見られない俺が、目を離せなくなるってどういうことだ?
おいおい、ちょっと待て!
これはもう美姫なんてレベルじゃねーだろ!
期待してはいけないなんて言ったの誰だよ!
そいつは死刑だ極刑だ!
ああ、いけね、言ったの俺だよ。
減刑をお願いしますよ!
え?なに?
ルウってこのお美しい方と、お知り合いなの?
時間が止まりっぱなしですよ。
いや待て、この方って、人間界とは次元が違う方だろう?
オーラがすごくってやばいよ。
「キミがムイチくん?」
やべえ、女神がしゃべった。
声まで美しい。
いやなんぞこれ!
ある意味、俺よりチートなんじゃね?
存在と行動のすべてに、魅了の追加効果がついてる感じですよ。
そういえば俺って、ツクヨミ様っていう本物の女神様と会ってるんだった。
しかし、目の前のヤカミヒメ様のほうが神々しいってのは、これはもうどういうことなんでしょうか!?
「ヤカミちゃんがきれいだから、ムイチくん固まってしまってるみたいです」
ルウが代わりに説明してくれた。
さすがルウ。
さすが巫女。
俺の心を読んだのかな?
違うか、見ればわかることか?
とにかく、海で助けて連れてきてよかったぜ。
てか、このままだと石になってしまいそうだ。
ヤカミヒメ様って、なんかそういうスキル持ちなんじゃね?
これは俺には抵抗できないよ。
「これからショーがあるんだよ。ヤカミちゃんもわたしも出るから、ムイチくん見に来てよ!」
「え?でも仕事があるし」
「料理長にはもう許可もらってるよ。ヤカミちゃんに逆らえる人って、この国にはいないんだからね」
「え?そうなん?」
「そうだよ。大ホールでもうすぐはじまるから、絶対に来てよね!」
「あ、ああ、わかった」
ルウとヤカミヒメ様は、ショーの準備に戻っていった。
余韻で呆然としていたら、料理長に早く行ってこいと叱られた。
俺は小走りで、大ホールへと向かった。
三章クライマックスに向かいます!