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第十六話 はじまりの終わりは神々たちの邂逅

第一章クライマックスです。

 約束の日がやってきた。


 アマからの往復を考えると、やつらは午前中に来るだろうと予測していたので、俺たちは急いで準備をはじめた。


「それはそこに置いて!」


 キクムさんがテキパキと指示を飛ばしている。


 燻製などの処理された肉や、動物の毛皮、黒曜石などもろもろを万宝袋(まんぽうぶくろ)から出して、交渉場所の東屋(あずまや)に並べていく。


 交渉はキクムさんが主として対応するが、俺とミナは護衛として同行することになっている。

 ルウも癒し手が使えるので、少し下がったところで控えることになった。

 村人たちは柵の中からなら見ていてもよいということになり、ほぼ全員が集まっている。


 準備ができて一時間ほどした頃、ついにやつらが姿を現した。


「なんだあの軍勢は・・・?」


 キクムさんが驚いている。


「大丈夫です。これから交渉ですから落ち着いてください」


 俺は平然としてそう言ってみせたが、内心は焦っていた。


 軍勢は俺の予想よりはるかに多かった。


 武装した兵士が100名以上で、大きな盾と槍を手にして行進してきたのだ。

 税を徴収に来るというより、戦争に向かう尖兵にしか見えない。


 軍勢が俺たちの前に整列すると、列の中からタキチが出てきた。

 ふんぞり返ってキクムさんの前に立った。


「税は揃えられたか?」


 あいかわらず横柄な態度だ。

 皮肉っぽい口調は、どうせ税を揃えるのは無理だと考えていて、一応聞いてみただけという感じだ。

 唇が(あざけ)るように歪んでいる。


 わずか一言、一瞬でこれだけの不快感を与えてくれるのは、ある意味で才能ではないだろうか。

 今にも飛びかかりそうなミナを制する。


 キクムさんが一歩前に出て、落ち着いた声で言った。


「そこに揃えてある」


「そうだろう。揃わなかっただろう。って・・・、えっ!?」


 タキチが声を裏返して驚いた。


「嘘をつくな! 揃うはずがないだろう! 検分させてもらう」


 役人っぽい男たちが3人ほど出てきて、タキチと一緒に東屋(あずまや)の品物を(あらた)めはじめた。

 慌てた顔で品物を調べている。


「存分に調べられたか? どうだ? きっちりとあるだろう?」


 キクムさんは余裕の表情だ。


「こ、こんなはずは・・・」


 タキチが顔を歪めて真っ赤になって怒っている。

 そんなタキチに対してキクムさんが言った。


「それよりタキチ、いや、使者殿、納税の見返りについて説明を受けたい」


 タキチがうんうんとうなっていると、役人の一人が歩み出て丁寧に説明してくれた。


 今後は隠れ里はアマに属する村になり、有事の際にはワ国軍から保護されること、アマからの道路の拡張、アマへ入る際の納税の撤廃、また段階的に文化レベルと生活向上のための支援が受けられるという。


 なるほど、これだけのことをするならば、たしかに膨大な資金が必要になるだろう。


 ワ国軍兵士をたくさん連れてきたのは、脅威を与えるとともに、その威容によって従属したときの安心感を示すためだろう。

 たしかに、これほどの錬度の兵士に守ってもらえるというのは安心感がある。


 兵士の一人をこっそり見てみたが、HPが419もあった。

 俺やミナに比べたらたいしたことないが、それが100人近くいるのだから、あきらかな脅威だ。

 ちなみにミナのHPは1208もある。

 もちろん許可を取ってから見せてもらった。


 俺はなぜだか3696になっていた。

 微妙に上がってるのは謎だが、猛烈に狩りをしたからレベルが上がったのかもしれない。


 そんなことを考えていたらレベルが表示された。

 なんかなんでもありなんだな。

 ちなみに俺はLV50だったw

 高いのか低いのかはわからないが、これからはちょくちょくチェックしてみよう。

 まあ、鍛錬の張り合いにはなるな。


 おっと、脱線した。


「どう思う?」


 キクムさんが小声で俺に尋ねてきた。


「条件はおかしくないですが使者の様子はおかしいですね。税を払えないことを望んでいたように見えます」


 俺は少し考えて答えた。

 指示どおりの税を納めようとしているのに、タキチの様子はあきらかにおかしい。


「輸送費が必要なのを忘れていた。これだけの人数で来てやったのだ、それを負担してもらうのは当然だろう? 2割増しで納めてもらう」


 ついにめちゃくちゃなことを言い出した。


 なんのドヤ顔だよタキチ。

 これはさすがにあきらかにおかしい要求だ。


 しかし、そのくらいは想定内だ。


「よかろう。2割でいいのか?」


 キクムさんが不敵に言うと、柵の後ろから村人たちが物品を運んできて積み上げた。


「な、なにを!?」


 タキチの顔が真っ赤だ。

 もう頭から蒸気が出そうな感じ。

 何か言い出そうとしたが、言葉が出てこない様子だ。


 フフ、どうだ? くやしかろうw


「もっと必要か?」


 キクムさんが挑発すると、後ろの村人たちも笑っている。


 その時、突然に空気が変わった。


「もうよい!」


 落雷と間違えるような怒声が響いた。

 兵士の列が割れて、異形の大男が歩み出す。


 なんだこれは?

 一見してジジイよりでかいぞ。


 やばい! これは本当にやばい!


 俺は背筋が凍り、全身の毛が逆立った。

 無意識に半歩下がる。

 いや、下がらされてしまった。


 こいつ・・・


 俺より強い!


 キクムさんは異形の大男の威圧で尻餅をついた。

 バタバタと倒れる音が聞こえるが、村人たちの中には失神している者もいるようだ。

 子供たちは泣き出すこともできずに震えている。


 ダメだ。こいつはあきらかにおかしい。


「我が名はサルダヒコ。ワ国スサノオ大王の先祓(さきばら)いにして元帥。いかなる邪魔外道(じゃまげどう)滅入(めい)()すとも、神剣をもって斬り祓い、国家鎮護(こっかちんご)を成さばやと存じそうろう」


 サルダヒコ?


 猿田彦大神(さるだひこのおおかみ)かよ!?

 日本神話の神じゃねーか!


 天孫降臨(てんそんこうりん)の先祓いの神だろ?


 なんだ? 今はスサノオの家臣なのか?

 あ、時代的にはおかしくないのか。

 スサノオが大王ってことは、天孫降臨はこれからってことか。


 サルダヒコは、赤い天狗のような面をつけて、白い長髪を逆立て、2mを超す体躯には赤い豪壮な鎧を着けている。

 腰に長剣を差して立っているだけなのだが、この絶対的な恐怖はなんだ?


 これに比べたら100人の兵士なんて、なんの脅威にもならない。

 目の前のサルダヒコと名乗った男と100人の兵士、どちらと闘うかと問われれば、俺は迷わず一瞬で100人の兵士を選ぶ。


 むしろ千人だろうが一万人だろうが関係ない。

 こいつに比べたら、よほど勝機がある。


 そもそも、勝つとか負けるとか、そういう話ではない。

 この男からは死の未来しか見えないのだ。


 なにが起きた?

 いや、なにが起こるんだ?


 隣を見ると、ミナが震えている。

 恐怖と怒りが入り混じった顔で震えている。


 きっと俺も震えているだろう。

 もうなにがなんだかわからない。


 サルダヒコの威圧が増すと、村人たちがさらにバタバタと倒れた。


「うがあああああああああ!」


 殺気に()されて足が出てしまった。


「ほう、羅刹(らせつ)がおったか」


 気がつくと、万宝袋(まんぽうぶくろ)から取り出した剣で斬りかかっていた。

 やろうとしてやったわけではない。

 サルダヒコの殺気に当てられて、ついつい斬りかかってしまったのだ。

 大波流免許皆伝として未熟にもほどがあるが、相手があまりにも規格外なのだ。


「ぐがっ!」


 しかし、俺の渾身の一撃は、短い棒のようなもので軽く受け止められてしまった。

 サルダヒコの殺気に反応して動かされてしまったため、型もなにもあったものじゃないひどい剣だが、それでも俺の一撃はこんな棒で止められるものじゃない。


「って、扇子かよ!?」


 俺の剣を受け止めている棒、それはよく見ると扇子だった。

 こんなもので俺の剣を止めたというのか?


 面をつけているので、サルダヒコの表情はわからない。

 それがさらに俺を焦らせる。

 どうする?


「名はなんと言う?」


大波武一(おおなみむいち)


 考える時間を稼ぐために、ゆっくりと答えた。


「オオナムチか、我が配下にならぬか?」


 ん? いきなりスカウトか?

 ちょっと突然すぎて、考えがまとまらない。


 背中に殺気を感じたと思ったら、ミナがサルダヒコに斬りかかった。


 ミナのいきなりの斬撃だが、次の瞬間、ミナは吹き飛ばされていた。


 サルダヒコが長剣を抜いている。


「ミナ!」


 ミナは鬼神の笑みを浮かべて、ゆっくりと立ち上がった。


「鬼子か」


 サルダヒコはミナに剣を向けた。


「このために来たのではないのだが、探す手間が省けたぞ鬼子タケミナカタよ」


「なんだと!? ミナってタケミナカタって言うの!?」


 ちょっと待て!

 タケミナカタってあれだろ?


 建御名方神(たけみなかたのかみ)だろ?


 出雲國(いずものくに)最強の武神で、諏訪大社に鎮まる神だろ?


 え? ええっ!?


 タケミナカタって幼女なの?


 俺の混乱はとどまるところを知らない。


「大丈夫か?」


 ミナは頭から血を流している。

 着物もところどころ破れ、擦り傷もたくさん見える。


 しかし、むしろ闘気は膨れ上がっている。

 赤く光る眼と、ほおずきを裂いたように開けた口は、すでに鬼神そのものだ。

 口角も目も吊り上っていて、今にも飛びかかりそうだ。


 やばい! ミナは完璧にキレている。


 そして、もっとやばいことがある。

 主人公の俺が説明キャラになっているのだ。


 どうする?


 サルダヒコの強さは俺には見ることができない。

 見せないようにしているのか、それともレベル差がありすぎるのか。


 とにかく、俺が(かな)う相手ではない。


 しかし、男にはやらなきゃいけないときがある。

 それはきっと今だ。


 勝ち目があるとかないとかじゃない。

 やらなきゃいけない戦いがあるのだ。


 短い期間とはいえ、俺はこの村に恩義を受けた。

 その恩を返すのは、きっと今この時なのだ。


 ミナと二人なら、捨て身でやれば、この化け物にかすり傷くらいはつけることができるかもしれない。


 俺は覚悟を決めた。


 そのとき、村人の後ろから婆さんが現れた。


「目当てはわしじゃろう?」


 婆さんの言葉が決戦の空気を消した。


 巫女の正装なのか、婆さんは白い着物に金の冠をつけて、手には鈴と鏡を持っている。


「わしがツクヨミ様の巫女じゃ。この子たちに手を出すんじゃないよ」


 婆さんは鈴と鏡を差し出した。


「よかろう。時代は変わるのだ」


 サルダヒコが婆さんに長剣を向けている。

 その切っ先が、婆さんの心臓を突こうとしている。


 何を言っている?

 何が起こっている?


 婆さんが死ぬ?


「ザラアアアアアアアアアア」


 俺は剣を手にサルダヒコに飛びかかっていた。


 わけのわからない叫び声を上げながら全力で振った剣は、サルダヒコの長剣に止められた。

 しかし、今度は押し込んでいる。


「なかなかの太刀筋だ」


 剣と剣がギリギリと音を立てている。

 俺の剣にサルダヒコの剣がめりこんできたが、ちょっと武器性能が違いすぎるようだ。

 さすがに業物(わざもの)を使っているな。

 武器屋で買った中の上の細身の剣では、この相手には荷が勝ちすぎるわな。


「ギギギギ」


 このままだと剣が折られる。

 死が近寄ってきているが、アドレナリンが恐怖を消してくれた。

 勝てるとは思えないが、ここからが死合いだ!


「シッ」


 短い呼気とともに剣を引いて横に飛ぶ。

 引いた剣を回すようにして、脇腹を狙って斬撃を入れる。

 簡単にかわされたが予定通りだ。

 後ろに飛んで距離をとると、それに合わせて今度はミナが斬りかかった。


「あい」


 ミナが吹き飛ばされて転がる。


 ミナが離れたのを見て、全力で火魔法を撃った。

 サルダヒコの身体より巨大な火弾だ。


 そのまま剣を縦に構えて、火弾を追うようにして踏み込む。

 火だるまにして串刺しにしてやんよ!


「花火も撃てるか!」


 サルダヒコは剣を回し、驚いたことに俺の火魔法すら簡単に散らしてみせた。


「よかろう!」


 衝撃で意識が飛んだ。

 次の瞬間、俺とミナは地面に転がっていた。


 いきなりだ!

 何が起こったのかわからないが、全身が痛くて立ち上がれない。

 ミナが隣で倒れているが意識が無いようだ。


「くそう・・・」


 激痛に耐えながらサルダヒコを睨みつける。


「オオナムチよ! 選べ!」


 サルダヒコは俺に長剣の切っ先を向けて見下ろしている。

 悔しいがいつ殺されてもおかしくない状況だ。

 二度ほど剣を合わせただけなのに、俺には立ち上がる余力すらない。

 いや、むしろ手放しそうな意識を、必死で紡いでいるのがやっとなのだ。

 何を選ばされるのかわからないが、サルダヒコを睨みつける。


「我が配下になるか、皆殺しかだ!」


 こいつ、何を言った?

 皆殺し?

 村人もみんなか?

 ミナもルウも?

 たしかにサルダヒコにはその実力がある。


「素直に配下になれば誰も殺さぬ」


「ほ、本当か・・・」


「約束しよう」


 この男の言葉を信じていいのかはわからない。

 しかし、ここで拒めば、皆殺しになるのは確実なのだ。

 選べと言っているが、実質的には選択肢は無い。


 俺は全力でこいつに敵わなかった。

 しかも、サルダヒコはまったく本気を出していない。

 それでも全然敵わないのだ。


 俺は心を折られた。


「配下に・・・なる」


 吐きだすように言い終えると、俺は意識を失った。

登場人物紹介があって第二章に続きます。

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