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宝剣ライキリ

 最強の助っ人だと思ったヤエが、まさかの最悪の敵だった。

 スセリやヤカミも動揺しているし、ヤエと親しいイズモ貴族たちもざわついている。


「な、なんだオメーは! いきなり、よ・・!?」


 ハッチが6つの頭をヤエに向けた。

 あいかわらず女性が苦手なようで、なんだかモジモジしている。

 照れてるんだな・・・。


 頭を2つ落とされているのだが、そこには動じていないようだ。

 ちょっと動じるところが違うと思うのだが、そこはハッチだからしかたないか。


 ヤエは無表情にハッチを見た。感情の無い瞳だ。

 深い思慮によるものなのか、はたまた何も考えていないのか、それすらわからない。

 ただひとつわかっているのは、俺たちの敵だということだけだ。


 感情が読み取れないうえに、雷とともに瞬間移動するのだから、これはかなり厄介だ。

 そして、ヤエの身体がぶれた。

 雷か!? どこに飛ぶ?

 また、ハッチの首が落とされるのか?


 次の瞬間、ヤエは地面に座りこんでいた。

 いや、打ちつけられたのか。

 意表をついた結果に、みな驚いている。


「ミナ!?」


 ミナの大剣の一撃で撃ち落されたのだ。


「腕をあげたようですね」


 ヤエが見下ろすミナに声をかけた。


 ヤエとミナは姉妹だ。姉のヤエが一を聞いて千を知る頭脳を誇れば、妹のミナは鬼子と恐れられる武勇を誇る。


 そして、ミナはヤエの言葉には答えず、すぐさま大剣で斬りかかった。

 むしろ、これがミナの答えなのかもしれない。

 まっすぐで速くて強い斬撃が、ヤエの頭に一直線に振り下ろされる。


「まったく・・・少しは小細工でもしたらどうなのですか」


 ヤエが衝撃を斜めに受け流しながら剣を受ける。

 腕力はミナの半分もないだろうに、技術とタイミングでそれをカバーしているのだ。

 速さもミナのほうがあきらかに速い。

 しかし、必要な軌道を最短距離で振り抜くヤエの剣術と体術は、最適化されているぶん無駄が無い。

 そして、それは事代主(ことしろぬし)、コトを知る神の頭脳の予測によって、常に先回りをしてくる。

 攻撃しようとするその瞬間を抑えられる感じ、攻撃をしようと思ったときには、すでに止められている感じなのだ。


 ヤエはめったに武力を使わない。

 武力衝突する前に、その優れた頭脳による策によって、解決してしまうからだ。

 そのヤエが武力を奮うときはめっぽう強い。

 俺ですら稽古では負けることがあるが、その稽古のときでさえヤエは本気を出していないのだ。


 そのヤエの本気が見られる?


「おい! クソ牛野郎! ちっと休戦だ! こいつはおもしれーぞ」


 ハッチはヤエとミナの戦いを余興かなにかと勘違いしているのか。

 首を2つも落とされているのに・・・。


 って、スサノオ大王もあぐらをかいてヤエとミナの戦いを観戦しはじめた。


 なにこれ?

 どいつもこいつも戦闘狂なのか?


 まあ、そうは言っても俺も興味のある戦いだ。

 信頼していた副官と、修行から帰ってきた弟子の勝負なのだ。


 そして、戦場のすべての目が二人を見つめる中、超速の激闘が繰り広げられている。

 まばたきもできないような目まぐるしい戦いだ。

 ほとんどのやつは、何が起こっているか見えてないだろう。

 剣がぶち当たる火花や音、地面を蹴って砕け飛ぶ石、そして、時折こちらまで届く剣風、そういった現象でしか捉えられない戦闘なのだ。


 叡智の祝福による思考加速と並列演算、そして魔力で動体視力を強化して、それですら残像状態だ。

 むしろ、時折消えている。

 ヤエはさすがにすごいが、ミナもものすごく強くなっている。

 ってこれ、俺より強いんじゃねーか?

 マジ焦るんだけど。


 ひときわ大きな衝撃音のあと、二人が離れた。


 5分は打ち合っていたか、いや3分ぐらいか、ひょっとしたら1分かもしれない。

 時間がわからなくなるほどの濃密な戦闘だ。

 見ているこちらが息をするのすら忘れるほどの激戦だ。


 二人を見やる。


 ミナは身体中傷だらけだ。

 防具もところどころ削れて無くなっているし、満身創痍だ。


 対するヤエだが、まったくの無傷だ。

 涼しい顔をして立っている。

 やはり、ヤエには及ばないのか。


「ミナ、強くなりましたね」


 ヤエが崩れた。


 なんだと!? ヤエが優勢じゃなかったのか?


 ヤエが地面にはいつくばりながら、肩で息をしているのだ。


「スタミナか!」


「スタミナ・・ですか?」


 思わず叫んだ俺に、スセリが聞き返してきた。

 ヤカミやみんなも不思議そうにしている。


「体力というか持久力だな。ヤエのほうが先に疲れたってことだ」


 ヤエはミナの大剣を指差した。


「宝剣ライキリ、雷を斬る剣とあなたの組み合わせが、わたしの予測を上回ってくるとは・・・」


 そうか、ヤエがなぜ雷による瞬間移動を使わないのかと思っていたが、使わないんじゃない。使えなかったのか。

 ミナの宝剣ライキリに封じられていて、単純な格闘戦を強いられていたわけだ。


「あいかわらず無口ですが、あなただけは本当に読めませんね。何を考えているのですか?」


「・・・」


「本能と体力だけで戦っているわけですね。それは読めないはずです」


 ヤエはそう言うと、武雷(たけみかずち)剣を放り投げた。

 それは、地面に落ちるなり二つに折れた。


「あちゃー、折れてもうたんか」


 ヒナがバツが悪そうな顔で、片手で顔をふさいだ。


「わたしの負けです。引きましょう」


 ヤエはそう言うと、立ち上がって下がりはじめた。

 さすがというべきか、引き際も心得ている。

 普通の人なら取り返しのつかないところまできて、やっと負けを認めるものだが、あっけないほどの潔さだ。

 ひとつの傷も負っていない。

 対するミナが傷だらけなのだから、一見するとどちらが勝ったのかわからないほどだ。


「いやー、(たぎ)るなあ。鬼子、後で勝負しろよ!」


 空気を読まないハッチが立ち上がった。


「クソ牛野郎、俺らも決着つけっぞ!」


 今度はスサノオ大王対ハッチか。いよいよ俺が解説キャラになっているわけだが、怖いしまあいいやっと。


 ハッチがんばれ!

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