第十五話 猛烈に狩ったやりきった!
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集会所に集まっているのは各戸の代表者をはじめとした50名程度だが、ワ国からの徴税の封書についての議論は白熱していて、とても結論は出そうになかった。
「落ち着いて考えてくれ!」
「これが落ち着いてられるか!」
怒っている男、泣きそうな困った顔をしているおばさん、さまざまな感情が見てとれるが、その根本にあるのは恐怖と不安だ。
キクムさんが立ち上がって説明をしていて、隣に婆さんが座っている。
婆さんは年寄りの出る幕じゃないと言って拒んだが、大事な話し合いだということで、キクムさんが頼み込んで同席してもらったらしい。
婆さんはじっと目を閉じている。
起きてるのか?
寝てるんじゃないか?
むしろ生きてるんだろうか?
あ、喉のあたりがちょっと動いたから生きているようだ。
婆さんの隣にルウが座っていて、俺はマレビトとしてその隣、俺の隣には客人としてミナが座っている。
ミナの家臣団はその後ろに立っている。
キクムさんの話によると、あのタキチという太った男は、この隠れ里の出身らしい。
しかも、キクムさんとは幼馴染のようだ。
それでキクムさんに対して強気だったのか。
怠け者でうだつが上がらず、村では目立たない存在だったのだが、三年前に町に移り住んだらしい。
それから音沙汰がなかったのだが、なぜかアマからの使者として現れたということだ。
この隠れ里の存在は、まだまだ知られていないから、その場所を知っているということで志願したのかもしれない。
しかし、恩知らずというかなんというか、かなりあきれた男だ。
肝心の話し合いだが、アマからの税は、とても払えるような量ではなかった。
この村では、生きていくのに必要なだけの狩猟採集で、つつましく暮らしているのだ。
税を払えるほどの備蓄は無い。
税は村の三ヶ月ぶんの食料と黒曜石などの特産品だ。
通常の村の食料備蓄がおよそ三日ぶんなので、税を納めるためには現在村にある食料の30倍が必要になるということだ。
到底払えるようなものではないが、アマ町長からの直接の要請だ。
塩や道具などをアマに頼っているこの村では、アマへの敵対や決別は考えられない。
俺も意見を求められたので、税を納めるのだから、アマからの加護やなんらかの便宜が図られるのではないか、そういったメリットを聞いた上で交渉をすればいいのではないかと答えた。
会議は長時間に渡り白熱した。
村人たちの中には、払うべきではないと強行策を唱えるものもいたが、大勢では、できるだけの量を税として納めようという話に落ち着いた。
婆さんは途中で意見を求められたが、キクムさんを中心として村の考えでやればよいとして、自分の意見は語らなかった。
明日の朝、狩りなどの段取りを決めるためにここに集合するということで、長い集会は解散となった。
いつも楽しそうに笑っている村人たち、それがみんな暗い顔をして散っていった。
なんだかやるせない怒りすら湧いてくる。
しかし、どうしようもない。
明日からの狩りなどでがんばろうと思った。
「ふう」
俺とルウと婆さんを残して誰もいなくなった。
婆さんがおもむろに口を開いた。
「マレビトよ。タキチが町に移るのを許したのはキクムなのじゃ」
この村は隠れ里であり、本来は村から出ることはできない。
買出しに行く者さえ決められていて、基本的には一生をこの村で終えるのだ。
タキチが町に移りたいと言い出したとき、当然、村人たちは反対した。
しかし、キクムさんがタキチをかばう形で、村人たちの反対を押し切ったらしい。
ごく少数ではあるが、その前例のせいで、村の若者が町へ出てしまうという流れができてしまったのだという。
その家族たちなどからはキクムさんは批判されることもあるらしい。
「誰が悪いわけでもない。時代の流れじゃ。強い力はさらに強い力を呼ぶ。自然の摂理じゃ」
婆さんは目を閉じたままだ。
「わしももう長くない。わしを隠すための隠れ里なのだから、もう隠す必要もない」
「婆様やめてください。それにルウが巫女を継ぎます」
ルウが泣きそうな顔で婆さんの言葉をさえぎった。
「ルウよ。もうわしに縛られる必要はない。月の満ち欠けのように時代も変わる。わしにはわしの役目があり、ルウにはルウの役割があるのじゃ」
「婆様のお世話をするのがルウの役目です」
ルウは泣いていた。
俺はかける言葉を見つけられないでいた。
「わしの役目はルウを育てることじゃ。ルウはわしよりはるかに大きな力を持っておる。そんなルウを立派に育てたと自慢したいのじゃ。だから、しっかりしておくれ」
婆さんはルウの手をとってやさしく笑っている。
「うぅ・・」
ルウはすすり泣いていたが、力強くうんうんとうなずいていた。
ルウが婆さんを送っていくということで、俺は家に帰った。
さあ、明日から怒涛の三日間だ。
俺は使命感に燃えながら眠りについた。
◇◇◇◇◇
日が昇り始める頃には、集会場に村人が集まっていた。
キクムさんの差配で、狩猟班、漁業班、山での採集班がまとめられた。
それぞれでさらに5人程度のグループに分けられた。
女たちと子供は、収穫したものを入れるためのカゴを編んだり、土器を焼く手伝いをすることになった。
土器を焼くのは専門の職人だ。
俺は山での狩猟班になった。
ジレさんと一緒だ。
それと、一緒に畑を耕した三人。
ここ数日の作業でチームワークはばっちりだ。
黒曜石は後で俺が回収しにいくことにして、とにかく谷の一箇所に集めておいてもらうことにした。
ミナと家臣団も狩猟班のグループになった。
「お互いがんばろうな!」
「あい!」
そして、狩りがはじまった。
◇◇◇◇◇
夕暮れになって広場に獲物や収穫物が集められた。
「ミナすごいな」
ミナの活躍は村の男たちの比ではなかった。
猪やムジナ、山鳥、キジ、狸に狐、山のような獲物だ。
すべて一人で仕留めて、家臣団はそれを運ぶ役だったらしい。
見た目は幼女なのに、ミナの能力は飛びぬけている。
素質なら俺よりも上なのではないかと思った。
だがしかし、現状では俺には勝てない。
俺には万宝袋があるからだ。
俺が単独で、ジレさんたちが二人ずつに分かれて狩りをして、獲物は俺が収納する。
運び役がいらないのだから、その効率はすさまじいものだ。
動物もキノコも木の実も山菜も、どんどん収納してしまえばいいのだ。
その結果・・・
なんと、税として納めるだけの物品が、初日で確保できてしまった。
その7割が俺とミナのグループによるものなのだから、村人たちは驚愕どころではなかったのだが。
「マレビトとは規格外にもほどがある・・・」
キクムさんはあきれかえっていた。
ミナは悔しがっていたが、さらに闘志を高めたようだ。
師匠に負けるのは許容範囲らしい。
村人たちもほっとしたようで、その表情はゆるんでいた。
次の日は狩猟をやめて、別の作業をすることになった。
交渉予定地に、村を囲むように木の柵を作った。
この柵の外で交渉するつもりだ。
柵は丸太の先を尖らせて、土に打ち込んで並べただけの簡素なものだが、これで大軍が一度に村に攻め込むようなことは防げるだろう。
まあ、大軍が来るとは思えないが、備えあれば憂いなしだ。
ミナと家臣団は、納税品を置くための東屋を建てた。
夏の日差しはきついし、食料などが傷まないようにだ。
「やればできるもんだな」
「ええ、そうですね」
二日目の日が暮れる頃には、みんな晴れやかな顔になっていた。
やり遂げた達成感っていうのかな?
大変だったけど、困難なことを成し遂げるのはテンションが上がるよね。
無理だと思っていたことが、それ以上のことまでできたのだから、みんなうれしそうにしている。
さて、明日の交渉はどうなるかね?
今はそれほど不安はない。
心地よい疲労感で、ぐっすりと眠ることができた。
そして、交渉の当日を迎えた。
次はわりとクライマックス!