集う勇者たち
23対1・・・。
俺たちは国譲り阻止のために鍛え上げたワ国最強のチームだ。
数の上では圧倒的に有利なのだが、誰の表情にも余裕は無い。
スサノオ大王が相手なんて、そんなの想定できるはずがないっての。
日本神話の中でも、もっとも貴い神とされる三貴子。
その三柱の神において荒ぶる神と畏れられる神、神武速須佐之男尊が国譲りの勅使となって目の前に現れるなんて、悪夢を通り越して絶望しかない。
スサノオ大王はゆっくりと歩いてくる。
手には十握の剣、漆黒の全身鎧が暴力的な筋肉を包んでいる。
冑には牛のようなツノがあり、その双眸は狂気に赤く輝いている。
こちらの出方を伺っているのか、いや、準備が整うのを待っているのだろう。
国譲り後の統治のことも考えて、言い訳のできない敗北を与えるつもりなのかもしれない。
いや、むしろ暇つぶしの娯楽なのかも。
ただ歩いているだけで、それほどに圧倒的な戦力差を感じさせてくれるのだ。
「大王様、大丈夫ですよ」
スセリのやわらかい声に我に返った。
振り向くとスセリが花が咲いたように微笑んでいた。
もやもやしたものが、すーっと晴れていくような気がした。
三年間の国造りは、けっして平坦な道のりではなかった。
むしろ、困難なことばかりだったのだが、この笑顔に何度も救われてきたのだ。
どんなに無理な場面でも、絶望的な局面だったとしても、スセリが大丈夫だと笑っていれば、不思議とうまくいったのだ。
気持ちを切り替えよう。
俺は大きく深呼吸をした。
いかんな、どうしても飲まれてしまう。
気持ちで負けてどうする。
俺が勝つ気にならなければ、チームが勝てるわけがないだろう。
折れそうな心を、振り絞った闘志で無理やりに押さえつけ、スサノオ大王を睨みつけた。
スサノオ大王の後ろの空は、今にも振りだしそうな黒雲がうねっていて、これからはじまる激戦を暗示しているかのようだ。
不意に山の向こうで雷が落ちた。
一瞬遅れて轟音が空気を震わせる。
普段なら飛び上がって驚くところだが、目の前に迫る荒神の威圧でそれどころではない。
「スセリ、治療術士たちと後方に展開してくれ」
「はい」
俺の後ろにスセリが立ち、その後ろに7人の治療術士たちが布陣する。
これは楯役の俺の回復要員だ。
そして治療術士の左右に5人ずつ展開したのは、さまざまな補助を行う者たちだ。
ワ国連合のさまざまな地域の国の神に仕える者たち、その多岐に渡る神通力や巫術の使い手を寄せ集めたのだ。
俺とミナはもとよりチームメンバー全員に、HP最大値アップや回復力強化、防御力や回避力のアップなど、さまざまな補助魔法がかけられていく。
筋力、敏捷性、持久力などの身体性能はもとより、動体視力や思考加速、そして運など、あらゆる面で強化されていくと、みんなの表情にも強い決意が宿っていくのがわかった。
「さーって、本気出しちゃうぞ!」
俺は万宝袋から、この時のために用意した、通称『要塞の盾』を取り出した。
その威容に、チームメンバーすらざわついている。
戦艦の装甲すら凌駕するほどの厚みの長方形の盾は、ゆるやかな曲面でできている。
大きな柱の一部を切り取ったかのような形で、その大きさ、分厚さ、黒光りする鋼鉄の迫力から、要塞の盾と命名したのだ。
もちろん、ごついのは見た目や名前だけじゃなくて、その防御力は圧倒的なものがある。
ミサイルなんかの現代兵器ですら、楽勝で防いでみせる自信がある逸品なのだ。
それをフル強化された俺が構えるのだから、突破されるほうが困難だ。
「防御障壁」
治療術士たちが俺のまわりに結界を張りめぐらせていく。
100枚、いや200枚、数え切れないほどの濃密な結界が、空間を埋め尽くしていった。
この国最高戦力の全力だ。
スサノオ大王、止めてみせるぜ!
目前に迫るスサノオ大王の一挙手一頭足に集中する。
「ムイチくん!」
「ん?」
場違いな呼びかけに振り返ると、そこにはあざとい笑顔の流兎が立っていた。
「僕たちを忘れないでよね」
ツインテに巫女装束、アイドル属性ありすぎだろとつっこみたくなる流兎だが、いつから僕っ娘になったんだ。
っていうか、僕たち?
たちって誰だ?
「わたしです」
まるで俺の心の中の問いに答えるように小さくつぶやいて流兎の後ろから現れたのは、もう一人の俺の妻、ヤカミだった。