剣神との激闘
大木を引っこ抜くかのように、大剣が天空に振り上げられた。
むしろ、振り上げたというよりロケットが発射されたかのような迫力だ。
身長5メートルを越すフツヌシが大剣を振りかぶったその剣先は三階立てのビルほどの高さになる。
フツヌシの巨体と大剣が大きな影を作り、俺はその中にすっぽり入る感じだ。
まったく、たいした迫力だぜ。
「ホヒ、ノキまで下がれ!」
風魔法でホヒを吹き飛ばしながら退却を命じる。
はっきり言ってこのフツヌシを相手に、ホヒやまわりの兵たちは庇う対象にしかならない。
言い方は悪いが足手まといなのだ。
生意気な上から目線の思い上がりではない。
俺はそれだけ鍛え抜いてきたし、この三年の密度は濃い。
身長だって随分と伸びて、なんと2メートル近くになったしな。
厨二オタク界のフィジカル王だと、自信を持って言える感じだ。
「いざ!」
フツヌシが大剣を振り下ろす。
戦艦の主砲で撃ち出されたかのように、大剣が俺目がけて飛んできた。
斬るとかそんな感じではない。
巨大な鉄の壁が唸りをあげて飛んでくる感じだ。
巨人の振り下ろしは、それほどの破格の勢いなのだ。
「だらぁ!」
右足で蹴り出して時計周りに体を反転させる。
振り下ろされる大剣の軌道のすぐ横に体を滑り込ませて避けながら、左足を踏み込んで前に出る。
俺の剣速は音速をはるかに超える。
右手の生太刀で大剣の背を叩いて地面に打ち落としながら、左手の天地理矛で、大剣を握るフツヌシの右手の指を狙って突いた。
フツヌシほどの巨体を相手にする場合、急所を狙うような攻撃はむずかしい。
まずは剣を握れなくしてやるのだ。
「疾きこと見事なり」
「なんだと!?」
俺に撃ち落された勢いをものともせず、フツヌシはその場で大剣を俺に向けて斬り返してきた。
全力で振っている大剣の勢いを、さらにそこに俺の撃ち降ろしで加えられた勢いすらものともせずに、箸でも振るかのような気軽さで水平に斬り返してきたのだ。
大剣の重量は下手すれば1トンを超えているだろうし、そんな質量のものに勢いがついている状態で、力技でねじ伏せて斬り返すとは、どんな膂力なのかもう想像できないほどだ。
猛スピードで走っているスポーツカーが、いきなり直角に曲がるような不自然極まりない攻撃なのだ。
こいつはやべえ!
危機感に背中の毛が逆立つ。
「フンヌ」
呼気とともに力を放つ。
フツヌシの指を狙った天地理矛の軌道を変えて、地面を突きながら反力も使って横に飛ぶ。
俺のすぐ目の前をフツヌシの大剣が通り過ぎる。
なんとかフツヌシの斬撃を避けた。
剣圧が俺の体に当たって、バシリと音を立てている。
音が後から来るのだから、フツヌシも疾い。
さすが高天原からの大将格の軍神だ。
デタラメな攻撃力をしてやがるぜ。
「さすがは八千矛の武神と謳われる大国主の大神よ」
「あんたこそ剣神の名に恥じぬ凄腕だな。これは殺しちまうかもしれねーぞ」
たった一合の斬り合いで、もはや言葉使いを取り繕う余裕は無くなった。
俺の中でどす黒い凶暴ななにかに火がついちまったのだ。
暴の気を抑えられない。
信じられないほどの強敵への恐怖、そして、全力をぶつけられる相手への歓喜、複雑な感情が去来するが、求めるのは勝利のみ。
フツヌシは俺を満たしてくれる相手だ。
「ここは戦場なり!」
フツヌシが大剣を振ってくる。
それを弾いて突きを入れる。
突きをはじかれて斬りかかられる。
大剣がまるで扇風機の羽のように連続で襲い掛かってくる。
生太刀で弾き受け流し、天地理矛で突いていく。
天地理矛の十文字の矛先が、大剣で弾かれる。
戦場で動いているものは俺とフツヌシだけだ。
誰も間に入ることはできない。
近づけば細切れになるだろう。
ホヒと兵は退却しているようだ。
さすがに聡いし物わかりもいい。
自分の立場や活躍の場を心得ている男だ。
裏切りを疑うこともあったが、こうしてフツヌシの侵攻に立ち向かってくれた。
ホヒに詫びなければならないな。
「っと、あぶね!」
他所見と考え事をしていたら、まずい角度で大剣を受けてしまった。
生太刀で受けたのだが、力を逃がし損なって手が痺れている。
後ろに飛んで距離をとった。
「疲れ申したか?」
「まさか、まだまだだぜ!」
軽口を叩いて見せたが、実際のところ強敵だ。
巨体に大剣のフツヌシだが、力任せの攻撃ではない。
攻防ともに優れた剣術の達人なのだ。
スピードでは俺に分があるが、剣と矛による俺の攻撃を、大剣一本で凌ぎ、さらに反撃もしてくる。
ああ、大剣を楯としても使っているんだな。
高天原に轟く剣神の異名はさすがだ。
しかし、俺も負けてねえぞ!
俺は天地理矛を構え直した。
いつも読んでいただいてありがとうございます。