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火神岳軍事訓練3

「ヘイヘイホーぉ」


 奇声で目覚めた。

 うっすらと目を開けると、白い雪の壁が見える。

 火神岳軍事訓練二日目の朝だ。


「起きろ! 起きろ!」


 ムル教官が、やかんを叩き鳴らしながら隊員たちを起こして廻っている。

 夜通し見張りをしていて寝てないはずなのだが、朝からすごいハイテンションだな。


「おはようございます」


 スセリがお湯とタオルを持ってきてくれた。

 タオルで顔をぬぐいながら、スセリの顔を盗み見るが、本当に信じられないくらいの美少女だ。


 白くてきめ細かい肌、頬を桃色にそめて、潤んだ瞳で俺に笑いかけている。

 朝日が雪に照り返されて、スセリの背景がキラキラと輝いている。

 いやもう、朝からこれはデレデレですよ。


「よく眠れましたか?」


「ああ、こういうのは慣れてるから」


 昨夜は野営のために雪でかまくらを作りその中で眠ったのだが、俺は幼い頃から毎年冬になるとジジイに雪山訓練という名の虐待を受けていたので、それが役に立った感じだ。

 なんの問題もなく熟睡できた。


 雪の中で眠るのって、すごく寒い印象があるだろうけど、毛皮の防寒具などの対策がしっかりとしてあれば、かなり暖かくて快適なんだよね。


 南のほうの雪のあまり降らない国から来た隊員たちなどは、最初はかなり戸惑っていたようだが、すぐに慣れて眠りについていた。

 雪山行軍で疲れていたというのもあるだろう。


 スセリとミナは、万宝袋(まんぽうぶくろ)から簡易ハウスを出して、そこに泊まってもらった。

 スセリは俺のかまくらで寝ようとしてきたけど、そんなの恥ずかしくて無理だし、眠れそうにない。

 今は荷物運びという大事な仕事中なのだから、仕事と家庭はきっちりと分けなければいけないということで、スセリにはなんとか納得してもらうことができた。

 

「さあ、行くか」


 身支度を整えてかまくらを出た。

 ムル教官が立つ台の前に隊員たちがすでに整列しはじめていて、俺たちもその後ろに並ぼうと歩いていく。


 すると、タカヒコが取り巻きを連れてやってきた。


「おい! 荷物持ち!」


「はい?」


 不遜(ふそん)を絵に描いたような無礼な態度全開のタカヒコにいらつきながらも、平静を装って返事をする。

 まったく、年長者においはないだろう、てか、あの人格者の山王将軍に、なぜこんな息子ができたんだろう。


「それはおまえの女か?」


 タカヒコがスセリを指差した。

 あまりに無礼な態度に、俺の怒りボルテージゲージが3まで上がった。

 ちなみに4で怒り爆発だから、いきなりリーチです。


 俺が返答に迷っていると、タカヒコが近づいてきた。


「おい! なんとか言えよ!」


 タカヒコがそう言いながら、手に持った棒で叩いてきたので軽く避けた。

 バランスを崩してよろけるタカヒコ、うーん、鍛え方が足りんな。


「おい! なに避けてんだよ!?」


 激高したタカヒコが何度も棒を向けてくるが、すべて軽く避けてみせた。

 わざとギリギリで避けたが、それにも激怒しているようだ。

 取り巻きの手前、引くに引けなくなっているのかもしれない。

 なんかちょっとかわいそうになってきたな。


 するとメリメリとなにかを砕くような音がしてきた。

 殺気を感じて音の方向を見ると、俺の隣にいるスセリが拳を握り締めていた。


「はうあ!?」


 あかん! これはあかんやつや!

 顔がやばい。

 スセリを怒らしてはいけない。

 スサノオ大王の娘であり、英雄イタケルをぼこぼこにしてのけるスセリの武力は測り知れないものだ。

 タカヒコなんて蚊よりも簡単に退治されてしまうだろう。


「おまえらなにやってるんだ! 早く並べ!」


 モウラがナイスタイミングでやってきた。


「おい! 女に助けられやがって覚えてろよ!」


 タカヒコが捨て台詞を吐きながら去って行った。

 本当に助かったのはおまえなんだよ。

 スセリとの実力差がありすぎて、命の危機にすら気づいてなかったっぽい。

 三軍落ちこぼれ部隊、思った以上にやばい実力です。


「本日の訓練日程を発表する!」


 全員が整列すると、ムル教官から今日の訓練日程について説明があった。

 今日はさらに上まで登るらしい。

 現代で言うところの大神山神社奥宮があるあたりを目指すようだ。


 昨日と同じように、一軍と二軍が先行し、三軍が後をついていく形だ。


 朝食のおにぎりを食べて、すぐに行軍がはじまった。


◇◇◇◇◇


「くっそ、つまんねーな!」


 タカヒコが愚痴っている。


 行軍から二時間が経ったが、三軍にはとくに出番は無い。

 かなりな数の魔物が出ているようなのだが、先行する一軍と二軍がすべて始末しているようだ。

 今日はミナやスセリが前に呼ばれているので、それなりに強い魔物が出ている様子だ。

 まあ、あの二人とムル教官とモウグがいれば、どんな魔物が出てきても大丈夫だろう。


 そしてほどなく、とくに変わったこともなく今日のキャンプ地に辿り着いた。


「昨日と同じだ! 一軍は狩り、二軍は竈を作っておけ!」


「はい」


 ムル教官の指示に答える一軍と二軍の返事が、すごくよくなっている。

 顔つきも精悍さが増した感じだ。

 訓練の成果が如実(にょじつ)に出ている感じだね。


「おい! 俺たちはなにするんだよ!?」


 タカヒコがモウラに食ってかかっている。

 三軍はまったく訓練の成果が見られない。

 むしろ、逆に荒んでいるのかもしれない。


「竈造りを見ておけ」


「おい! 見るだけかよ?」


「見るだけだ」


「・・・くそ、やってらんねーな」


 まあ、タカヒコの気持ちもわかる。

 二日間の訓練で、ほとんど見てるだけなのだから、やりきれない気持ちにもなるだろう。

 しかし、現実問題として、この三軍の実力では任務の遂行はむずかしい。

 落ちこぼれ部隊は、基本的な能力が足りていないのだ。


 むしろ、訓練に同行させてもらって経験を積ませてもらっていることがありがたいことだとも言えるのだが、そのことに気づくことができる実力がないのだ。

 人を育てるって、ホントむずかしいんだね。

 ムル教官ってただのおにぎり人間だと思ってたけど、なにげにすごいのかもしれない。


「行くぞ」


 すると、タカヒコが取り巻きを連れて森に入っていくのが見えた。

 居残りの見学に耐えられなくなったようだ。

 キョロキョロしながら森に入っていくが、ムウラも気づいていない。


 タカヒコたちの実力では、この火神岳(ほのかみだけ)は危ない。

 仕方ないな。


「やれやれだぜ」


 俺はいつか言ってみたかった台詞をつぶやきながら、こっそりとタカヒコたちを追って森に入るのだった。

いつも読んでいただいてありがとうございます!

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