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火神岳軍事訓練1

ついに第九章になりました。

この章では、葦原中国が発展します。

「本日より三日間、火神岳(ほのかみだけ)で戦闘訓練を行う。注意事項は各班長に伝えてあるので、指示に従うように!」


「おおう!」


 ムル教官の訓示(くんじ)を受けて、広場に整列した軍勢が呼応する。

 肌寒い冬の朝だが、ヨドエの修練場の空は晴れていて清々しい。


 今日から三日間に渡って、ワ国連合加盟の大小の国や村から集められた若者146名が、火神岳(ほのかみだけ)で軍事訓練を行うのだ。


 この若者たちは、ワ国連合加盟国の国力を上げるための農業技術を教え込むことを目的に、ヤエに指示して集めてもらった者たちだが、冬の間は軍事訓練によって戦闘力を鍛えることになっている。

 ワ国からの技術供与を希望する国や村から10~15歳の若者を二名ずつ集め、二年かけて教育し、国や村に戻って指導者になってもらうのだ。

 そのため、各国の代表として、首長や有力者の子息が集まっている。


 二ヶ月の基礎訓練を終えていて、ほとんどの者がたくましく素直になっている感じだが、中には何人か生意気そうな顔も見える。

 まあ、それでも新人たちは可愛らしいものだ。


 ムル教官によると、これから三日間の軍事訓練で、冬山行軍や魔物との戦いなどの実戦によって、自分たちの力を再確認し、謙虚さや素直さを育てる意味も持っているのだそうだ。


 今回集められた若者たちには、まったく戦闘をしたことの無い者も混ざっていたので、この二ヶ月は意図的に楽な訓練が行われていた。

 最初はほめて伸ばすってやつである。


 そこで、思いあがった若者たちを、過酷な実戦形式の訓練によって自覚させて、さらに鍛えなおすということだが、なにせ火神岳(ほのかみだけ)はSクラス冒険者でも命を落とすことがあるという、危険度マックスな聖域なのだ。

 普段は一般人は入山禁止になっているくらいだからね。


 この火神岳(ほのかみだけ)だが、現代では鳥取県西伯郡大山町にある霊峰伯耆大山(れいほうほうきだいせん)のことだ。

 中世から江戸時代まで神仏混淆(しんぶつこんこう)の霊山であり、比叡山延暦寺(ひえいざんえんりゃくじ)らと並ぶ四大神仏霊場だった場所だ。

 イズモ方面から見ると、富士山によくにた山容で、伯耆富士という呼称も持っている。


 標高1714メートルとさほど高くはないが、日本海に面した単独峰ということで、3000メートル級の山と同じような気候特性があり、地図を見てもらうとわかるが、本州の中央にあって南北の動植物が交じり合う生物多様性のある山なのだ。


 ちなみに現代日本で、俺が生まれた場所でもある。

 日本遺産に登録された山で、観光地としても有名だが、今こうして見上げてもとても美しい山だ。

 雪で白く覆われた山は、大地と青空の中で光る宝石のようでもある。

 こうしてその山容を前にすると、火神岳(ほのかみだけ)を拝みたくなる気持ちがわかるよ。


 火神岳(ほのかみだけ)周辺はワ国大将軍の山王将軍(さんのうしょうぐん)こと大山咋命(おおやまくいのみこと)の領地だが、自然にまかせてまったく整備していないらしい。

 ちなみに山王将軍は、スサノオ大王の孫だ。

 なるべく関わり合いになりたくない人のひとりである。


「3隊に分かれて進軍する。1軍は俺についてこい。2軍はモウグ将軍に、3軍はムウラ将軍について中腹のキャンプ地で合流する。それでは進軍開始!」


 ムル教官の号令で、146人が3隊に分かれて行軍をはじめた。

 5人を班として班長を置き、5班25名で小隊として小隊長を置いている。

 その小隊が二つの50名を、ムル教官、モウグ将軍、ムウラ将軍が率いて進軍するのだ。


「じゃあ、昼に合流だな」


「はい」


「あい」


 俺とスセリとミナは、荷物持ちと護衛、そして救護班として参加することになった。

 訓練を受ける若者たちに、緊張感を持たせるために、俺たちの名前や実力は伏せられている。

 お忍び参加って感じでちょっとワクワクするね。


 ムル隊にスセリ、モウグ隊にミナ、ムウラ隊に俺が配置されて、火神岳(ほのかみだけ)への行軍がはじまった。


「あれ、俺たちの隊って人数少なくね?」


 出発しようとしているムウラ将軍に話しかけた。


「46人だから4人少ないですな」


「うは、お守するのは少ないほうが楽そうだし、この隊が当たりか!」


 ムウラ将軍は、楽天的に明るい顔の俺を見て深いため息をつくと、厳しい顔つきになった。


「違いますな」


「ん? なんで?」


「わしはクジで負けてこの隊の担当になったのです」


 どの隊を率いるかを、ムル教官やモウグ将軍とクジで決めたってことか。

 てか、負けたってことは、この隊はなにかよくないことがあるってことなのかな?


「この隊はZクラスっていう問題児を集めた隊なんですな。あまりに素行が悪くて、4名は脱落して国に帰ってしまったのです」


「え? そうなん?」


「簡単に言うと、ムルやモウグの隊がエリート部隊。わしらの隊は落ちこぼれ部隊ってことですわ」


「なんですと!?」


 コミュ障の俺に問題児との三日間はきつい。

 俺みたいなキュートなロコボーイは、いぢめられてしまうんじゃないだろうか?


 そうして見てみると、可愛く見えていた隊員の若者たちが、まるで凶暴な愚連隊(ぐれんたい)に見えてきた。


 どうしよう?

 ちょっと涙が出てきたぞ!


いつも読んでいただいてありがとうございます。

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