あらたなる決意
第八章の完結です。
イズモに帰ってきてから一ヶ月、11月も半ばだ。
山のほうでは初雪も降ったようだし、かなり寒くなってきた。
俺はノキの宮殿の部屋から、朝日が昇ってくるのを待っている。
なんとなく早く目が覚めたんだよね。
そうだ。今の状況を報告しておこう。
ノキの町でも本格的な冬支度を行っている。
とりあえず暖房は火鉢で、燃料は木炭だ。
石油ストーブや電気が無いから仕方がないのだ。
こうなってみると、現代がいかに便利だったかを思い知らされるぜ。
ちなみに、現代知識で造った炭窯で焼いた炭は、燃焼時間も長くて評判がいい。
炭焼きのための木材の調達については、森林環境を考えた伐採計画を立てて実施した。
木を伐採するとともに植林をして、30年周期で森を再生する計画だ。
これは実際に昭和のはじめ頃まで行われていたやり方だ。
俺はジジイに仕込まれて、時代錯誤的に炭焼きも行っていたので知識があったのだ。
実務を担当した英雄イタケルとムル教官も、この計画には感心していた。
スサノオ大王はいまだに帰ってこない。
どこに行っているのかも謎だ。
スサノオ大王は目立つ。
よい意味でも悪い意味でもだ。
スサノオ大王が現れて無視できる勢力は無い。
そのスサノオ大王の情報が入ってこないということは、ワ国連合の範囲内にはいないということになる。
つまり、石川県より西の本州、四国、九州、対馬、淡路島、佐渡島などの近隣には、スサノオ大王はいないということだ。
一体、どこにいるんだろう?
俺は正直なところ、いないほうがやりやすいと思っている。
だって、あの人って、なに考えてるかわからないし、とにかくひたすら怖いんだよな。
武力が鎧を着けて歩いている感じなんだよ。
出会ったら負け・・・みたいな理不尽な存在だ。
なんというか、台風なんかの天災と同じレベルの存在だと感じている。
コントロールどころか理解することすら不可能で、どれくらいの速度でどこに向かうのかわからない台風のような恐ろしさなんだよ。
被害も計り知れないしね。
俺の施策って現代知識を使ったぶっ飛んだものが多いから、それをいちいちスサノオ大王にお伺いを立てるのめんどくさいんだよね。
今の大王代行の立場を使って、トップダウンでどんどん改革をやっちゃったほうが捗るのだ。
だから、スサノオ大王には、もう少し出かけていてほしいのが本音だ。
結婚式を挙げられないことで、スセリはかなりストレスが溜まっているようだけど、それは我慢してもらいたいと思う。
できるだけ早く、この国を豊かにしたいのだ。
ちなみに前述したように、今のワ国の版図は、石川県より西のほとんどの地域だ。
まあ、山あいや河川、海などの近くにまつろわぬ民の勢力があるけど、それぞれは小さなものだ。
これはワ国に敵対しているわけではなくて、狩猟採集で移動しながら生活している部族とかだ。
それぞれの規模は小さいものであって、およそ5人から30人くらい、家族単位くらいのものだから実態は掴みようがないんだよね。
まあ、ワ国は水稲栽培を基本とした定住生活の利を示して、それを求めて恭順する国を加盟させていく方式で勢力を伸ばしていこうと考えている。
まだ全国的に見ても人口が少ないし、戦争をするにもそれぞれの国自体がしっかりとできていないのだ。
ある意味、軍を率いる王がいるから戦争が起きるわけで、規模の小さな村や国同士では、戦争にすらならないんだよね。
せいぜいがじゃれ合い程度の小競り合いだし、それもほとんど起きていない。
むしろ、贈り物を贈りあって友好を深めることのほうが広く行われているようだ。
敵対して戦争をしても奪う富そのものが少ないわけだから、友好を深めて仲良くしたほうが実利があるみたいだな。
まあ、国造りはとても順調だと思う。
俺が今とくに気にしてるのは、天照大神の軍勢のことくらいだ。
これはかなり気になっている。
神話によると、大国主命が国造りを終えた後、高天原から天照大神の勅使として、建御雷神と経津主神がやってくる。
そして、国を譲れと武力をちらつかせて脅され、結局は国を譲らされることになっているのだ。
苦労して造った国を後からやってきて奪っていくとか、かなりひどいと思う。
はっきり言ってむかつくし気に入らない。
俺はこの未来を、どうにかして変えたいと考えている。
いつ来るのかがわからないが、まだもう少し時間があるはずだ。
しかし、なんだかんだで豊葦原中国と伝わる版図がほぼ完成している。
豊葦原中国とは、神話に伝わる大国主命の国で、高天原と黄泉の国の間にあるとされている。
つまり、出雲を中心とした日本の国土のことだ。
ちなみに、現代では鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県を中国地方と呼ぶが、この中国とは、豊葦原中国の中国のことだという有力な説もある。
豊葦原中国の版図ができているのだから、いつ建御雷神がやってきてもおかしくはない。
まだ来ないとは思うが、備えておかなければならないな。
まあ、神話によると次に来るのは天若彦命のはずだから、この神がやってきたら警戒を強めないといけない。
これもヤエに言って監視してもらっている。
とにかく、次は国を豊かにすることだ。
冬の間にインフラ整備を行い、春が来たら食糧生産に改革を起こすぜ。
俺は、やっと昇ってきた朝日を見つめながら、決意をあらたにするのだった。
いつも読んでいただいて、本当にありがとうございます。
第八章登場人物紹介の後に次章に続きます。