表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/167

地獄から天国

 イズモに帰ってきた。


 あれから、すごく大変だった。


 ヌナカワ姫が、俺をお持ち帰りすると言い出したのだ。

 俺を小脇に抱えて暴れる丸腰のヌナカワ姫を制圧するために、完全武装したタジマ国とコシ国の兵士合計1400名が動員され、14時間かかってなんとか鎮めることができたのだ。

 あらためて正式にコシ国を訪問するということでなんとか納得してもらい、逃げるように帰ってきた。


 ルウを村に送り、ノキ町にある自宅に戻ってきて、やさしいスセリとヤカミに癒されてほっと一息と旅の疲れを取るつもりだったのだが・・・。


 僕は正座させられています・・・。


「女と旅行っていい身分ですよね?」


 目の前には、羅刹と化したスセリとヤカミが仁王立ちです。

 部屋の空気は最高にギスギスピリピリしています。

 怖い。


 なぜこうなった・・・。


「いや、タジマ国に戦後処理に行っただけなんです><」


「ほう、そうなのね?」


 スセリが部屋の隅にいるムル教官のほうへ視線を向けると、ムル教官はすたすたとスセリの隣まで歩いてきた。


「へい、オキにウサギ女を迎えに行ってタジマに連れていきました。道中でイチャイチャしていたのを何度も見ました」


 もみ手で猫背になったムル教官が報告する。


 そう、この男がスパイだったのだ・・・。


 イズモについて早々に、スセリとヤカミになにか報告しているなと思ったら、いきなり怒り狂ったスセリとヤカミに正座させられて裁判がはじまったのだ。


「ありがとう」


「へい」


 スセリからおにぎりをうれしそうに受け取ったムル教官は、また部屋の隅に戻った。

 そこにはミナも立っているが、擁護してくれる気配はない。


 今の俺は敵に囲まれて一人佇(たたず)む感じ、完璧に孤立していて負け戦の空気です。

 がんばってみたいが有罪はすでに確定していて、あとはどれだけ罪を軽くできるかの勝負です。


 スセリとヤカミの俺を見る目は、凶悪犯罪者を見るそれです。

 いや、むしろゴミを見る目かも・・・。

 怒りと軽蔑が入り混じった最高のブレンドは、俺にとっては最悪の環境です。

 つらい、つらいよ。


「いや、違います! たまたま島に寄ったら、婆さんがルウを連れていけって言うから・・・」


 ルウにときめいたという後ろめたい気持ちがあるから、俺はとっても歯切れが悪い。

 そのこともスセリとヤカミの心証を悪くしているようだ。


「お婆さんのせいにするんですね? そのお婆さんに言われたらなんでも言うこと聞くんですか?」


「あう」


 だめだ。言い訳は逆効果だ。

 しかし、認めたらどんな仕打ちが待っているかわからない。

 どうすればいいんだ?

 一体どうすればこの窮地(きゅうち)から逃れられるんだ・・・。


「まさか、親友と浮気されるなんて・・・」


 ヤカミの両手が強い魔力を帯びて青白く光っている。

 炎の魔力が青いって・・・、やめてそれ致死量ですから。


 スセリが俺の目をじっと見つめる。

 本来はうれしいはずだが、今はひたすらきつい。

 

「なぜ目をそらすんですか? ひょっとしてちょくちょく会いに行ってたんじゃないですか?」


「はう」


「え? 本当に会いに行ってたんですか!?」


 しまった!

 極度の緊張とストレスにさらされている俺の心はすでに限界で、スセリの追求に簡単に反応してしまった。


 ミナが部屋の隅で何かを書いている。

 裁判記録・・・?

 あれ、ミナって書記なのか!?


 やめて、記録に残さないで!


「ハハハ・・ハァ!?」


 ヤカミが怒りの笑いだ。

 人間は極限の怒りで、笑いが込み上げてくるのだ。

 両手の青白い炎が増している。

 部屋の温度は上がってるはずだが、俺の背中は凍ったように寒いよ。


「まあ、それはいいでしょう」


 スセリが両手を組んで目を閉じた。

 ん? 許してくれるのか?

 わずかな期待に望みをかける。


「ヌナカワ姫に一晩抱かれていたんですね」


「ぐお!」


 期待は、一瞬で粉々(こなごな)に砕け散った。


「いや、ちが、あの、その・・・」


 こんにちは、しどろもどろ協会会長の大波武一(おおなみむいち)です。

 世界はひたすら残酷で過酷だと実感しています。


「へい、1400名の兵士とともに止めようとしたのですが、この男は朝まで抱かれていました」


 ムル教官が歩み出て証言した。

 嘘じゃないだけにタチが悪い。


 てか、おにぎりをもらって部屋の隅に戻るときに、俺を見てにやっと笑いやがった。

 最高に下卑た嘲るような笑いだ。

 こいつ、わざとやってるのか!?

 許さん・・絶対に許さんぞ!


「許されないのはあなたです」


 スセリなぜ心を読んだ!?

 あ、言葉に出てたのか。


「ヌナカワ姫はミナちゃんのお母さんですよね?」


「あい」


「この男がお母さんに朝まで抱かれてたのは本当?」


「あい」


「ミナちゃんもこう言ってますけど?」


「違う! ヌナカワ姫が俺を連れて帰るって言い出して、それで抱きかかえられてただけだってば!」


「だから、朝まで抱かれてたんですね?」


「違うよ! 腕に抱かれてたんだって! アッ・・・」


「白状しましたね」


「うぅ・・うぅう・・冤罪(えんざい)だ・・・」


 そりゃ言葉にすれば抱かれてたってなりますよ。

 でもそんなんじゃないんだってば!

 日本語っておそろしいよ。

 みんなは気をつけてくれよ!


 つらい時間は永遠に続くかと思われた。


 だが、しかし。


◇◇◇◇◇


 こんにちは! 有罪が確定した大波武一(おおなみむいち)です。


 瀕死(ひんし)です。


 出血多量でやばいです。


 でも、最高に幸せです。


 右を見るとスセリ。


 左を見るとヤカミ。


 ノキの寝室のベッドで、左右にスセリとヤカミです。

 はじめて一緒に寝ています。

 しかも、抱きつかれています。


「ワンチャンどころじゃないじゃん!」


 ヌナカワ姫に俺が抱かれたと勘違いしたスセリとヤカミは、自分たちも抱くと言って俺をベッドに連れていったのです。


 興奮で鼻血が止まりません。

 ああ、もう死んでもいいかも。


 スセリとヤカミ、いい匂いがするなあ・・・。

 しかも、吐息が頬のあたりに当たるんだよな。

 なにこのしあわせ?


 心臓がヘビメタです。

 なんだかぼーっとしてきたぞ。


 潤んだ瞳で見つめてくるスセリとヤカミ。

 今、この宇宙のしあわせの99%は俺のところにあるのは間違いない。


 ついに俺は妖精から転職するのか!?


 そして・・・

いつも読んでいただいてありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ