剣を受けて王となれ
「ハッハ、お遊びだよ! お遊び!」
上機嫌で酒をのどに流し込みながら、俺の背中をバンバン叩いているのはヌナカワ姫だ。
コシ国の姫というか女王で、なんとミナの母親らしい。
そういえばどことなく面影があるのかな・・・。
暴力的なところとか・・・。
てか、力強すぎだろ。背骨が折れそうだよ。
あの後、なんだか微妙な空気になって、とりあえず昼だし、イズシ町の宮殿でメシにすることになったのだ。
古代っておおざっぱだよな。
テーブルの上にはごちそうが並び、ムル教官やミナ、ミヤケ少年とタジマ国高官たちなど10名ほどの会食になっている。
「あきらかに殺しにきてましたよね?」
「殺すつもりなんてないよ! まあ、不慮の事故はあったかもしれないけどなw」
「・・・・」
ヌナカワ姫は、すでに酒樽をふたつ空にしている。
しかし、顔色ひとつ変わっていない。
ミナの酒豪っぷりは、母親似だったのか?
「ミナ」
「あい」
「いい男を見つけたねェ。もうヤッたのか?」
「ブホッ」
俺は盛大に酒を吹き出してしまった。
ヌナカワ姫、脳筋でしかも下品か!
引き締まった筋肉質の身体に、水着のような赤い鎧、ビキニアーマーを着けているが、見た目そのまんまの肉食系かよ。
このメンバーってトップ会談って感じなんだけど、昼間っから場末の酒場感がパネェっす。
それもヌナカワ姫だけで、荒くれ者シーンをグイグイ引っ張ってる感じ。
しかし、誰も逆らえない。
リーダーというか指導者の指導が間違ってると、かなりやばいってことを実感させてもらっています。
「ミナは俺の弟子ですよ」
「師匠!」
ミナが手をあげて叫ぶが、こうしているとまるっきり幼女だよな。
ほほえましい感じでほっこりする。
しかし、手には巨大なカップを持って酒を飲んでいるのだ。
ダメな感じのギャップですよこれは・・・。
「そうなのか? じゃあおまえあたしの夫になれよ」
「ええっ!?」
ヌナカワ姫に肩を抱かれて引き寄せられた。
力つええ、そして超酒くせえ・・・。
てか、夫になれってなんだよ。
「あたしの夫になればコシ国をやるよ!」
古事記神話では、大国主神のほうから妻問いをしているはずなのだが、酒の席で口説かれてるこの状況ってなんなんだ。
てか、神話のとおりだと俺はこの人の夫になるのか?
年上だよな?
やさしくしてもらえるんだろうか。
ミナがうれしそうな顔をしている。
うれしいのか!?
「あ・・あの、と言いますか、ミナのお父様などは、いかがされてるのでしょうか?」
そもそもミナの母親ってことは夫がいるってことだよな?
そのあたりは、はっきりさせておかないといけない。
「ハッハ、どっかで生きてんじゃねーか? まあ、どれが父親かは、はっきりわかんないけどなッ」
にこやかに下衆なことを言い放つヌナカワ姫に、あきれを通り越して尊敬の念すら覚えてしまった。
「まあ、これからはおまえがミナの父親になれよ。師父なんだろ? ちょうどいいじゃないか」
そうか、この時代は一夫多妻制というか、一妻多夫制ってのもあるんだな。
俺が一人で納得していると、ヌナカワ姫が顔を寄せてきた。
「あたしはすごいぞ。離れられなくしてやるよ」
耳元で小声で囁いてくるが、つかまれている肩が砕けそうに痛くてそれどころじゃない。
俺はMじゃない、どっちかっていうとSだ。
「少し痛いけどすぐ慣れるって・・、なッ、わかるだろ?」
ヌナカワ姫が潤んだ瞳で囁いてくる。
俺は・・・Sのはずだ。
あれ、ひょっとしてMかな?
なんだかよくわからなくなってきた。
「あーーー、我慢できねェ、ベッドはどこだ!? いや、いっそここでヤるかッ!」
いきなり押し倒された。
「やめてやめてやめて」
「ムイチくんに、やめろ!」
「あい」
暴れるヌナカワ姫は、部屋にいた人数では取り押さえることができず、兵士300人が動員された。
かなりの負傷者が出たが、なんとか取り押さえることができた。
ヌナカワ姫は散々暴れると、満足したのかグーグーと眠ってしまった。
◇◇◇◇◇
「とくになにかが変わるわけじゃない。物資、技術、すべて支援しよう」
食事が終わった後、俺とミヤケ少年は、宮殿のバルコニーのようなところで話をしている。
非公式ではあるが、実質的なトップ会談だ。
俺の言葉に、ミヤケ少年は深く考え込んでいる。
それはそうだろう。あまりにいい話すぎるからな。
でも、裏なんてまったくない。
俺の国造りは、利を示してそれを求める者と組んでいくつもりだ。
だって、どうせ俺の国になるんだし、豊かになってもらわないと困るからな。
国民の不満を受け止めるだけのキャパは、厨二の俺には無いのだ。
ちょっとした批判で、すぐに鬱になる自信があるぜ!
それに実務はヤエに丸投げするつもりだ。
俺の負担は限りなく低いだろう。
「見返りはなんだ?」
ミヤケ少年が鋭い目で問い返す。
「とくにない。税も豊かになるまでは免除する。まあ、これを受け取れ!」
俺は万宝袋から、ワ国加盟の証である青銅の剣を取り出した。
鞘から抜いてミヤケ少年に見せる。
磨き上げられた青銅の剣は、金色にまばゆく輝いている。
「タジマ国ナンバー2なんだろ? この剣を受け取ってナンバー1になれ。もう天日槍はいないんだからな」
ミヤケ少年は青銅の剣を見つめて、真剣な顔で考え込んでいる。
仕方ない。背中を押してやるか。
「間違ったら正してやる。迷ったら聞いてこい。なにがあってもワ国の傘がタジマ国を守ってやる」
俺がそう言うと、ミヤケ少年は強い目で俺を見つめ返し、大きく肯いて、俺の手から青銅の剣を受け取った。
「そして、俺が間違ったら、他の王たちとともにその剣で俺を討て」
「わかった」
ミヤケ少年は剣を鞘に戻し、腰につけた。
こうしてタジマ国は、正式にワ国連合の加盟国となったのだった。
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