思っていたより脳筋ですね
突然に押し寄せてきたコシの軍勢だが、タジマ国がワ国に加盟したこと、そして次期大王である俺の存在に困惑しているようだ。
「フン、コシというよりコシ抜けだな!」
ミヤケ少年がふんぞり返ってつぶやいているが、さっきまで怯えて震えていただろうがww
まあ、切り替えが早いのもトップには重要な資質・・・なのか?
これはあまり見習いたくないな。
「なんとかなりそうだな」
事態の収束を予感したのか、ムル教官とミナもやってきた。
大男は軍勢の中に下がっていったし、後は軍勢が引き返すまで、こうして睨みを効かせる簡単なお仕事ですってか。
さて、腹減ったな。
昼飯はなにが出るだろうか・・・。
「ん?」
唐突に甲高い音が聞こえてきた。
コシの軍勢のほうから、何かが飛んでくるのか?
空気を切り裂いて飛行するジェット機のような音だ。
まあ、この時代にジェット機はないだろうし、なんだろう?
「なんだあれは!?」
ムル教官が指差したそれは、矢か、いやもっとでかいな・・・。
槍か!?
「うお!!」
俺たちのすぐ前の地面に、轟音とともに巨大な槍が突き刺さった。
まるで地震のように地面が揺れた。
洒落にならん。もはや槍というより柱だ。
それも神殿の柱のような太さだ。
「なんだこれは!? 槍か!?」
驚いているムル教官の前に突き刺さった槍は、焦げ臭い煙を放ってジュウジュウと音を立てている。
異形の兵士を押し流した濁流のせいで、地面はドロドロに湿っていたのだが、槍の周囲は乾いた色になっている。
「魔法か!?」
ミヤケ少年が目を見張っている。
「いや、ただの槍だな。魔法が使われた形跡はない」
地面を焦がしている巨大な槍だが、魔法を使えば俺にも同じようなことはできるだろう。
しかし、俺が戦慄したのは魔法が使われていないことだ。
この巨大な槍の熱量は、単純に槍が高速回転しながら飛んできた摩擦熱なのだ。
どれほどの膂力があれば、こんなことが可能なのだろう?
神話の巨人みたいなのが出てくるのか?
しかし、思い当たるような神話はないぞ?
「なにか来るぞ!?」
ムル教官が斧を構えた。
蹄の音? 馬か?
軍勢ではなくて単騎のようだ。
水蒸気で悪くなっていた視界が、徐々に晴れてくる。
「え? あれなに?」
視界が晴れると、コシの軍勢の中央を突っ切って、騎馬が駆けてくるのが見えた。
兵士たちが弾き飛ばされているが、またあらたな勢力なのか?
意表をついた展開ってか!?
漫画じゃないんだから、そういうのもうやめてほしいんだけど・・・。
俺は万宝袋から天地理矛を取り出した。
「てか、速っ???」
騎馬は恐ろしく速かった。
地面を叩き付ける蹄の音が、どんどん加速している。
すでに目前に来ていた。
速い、ってかどうする!?
馬の背に乗るのは・・・え? 女?
巨大な両刃剣を振りかぶって・・・?
飛んだよ!!
「ガァアアーーッス!!」
「うおおおおおおおおおお!?」
飛び降りた女は、そのまま俺目がけて剣を振り下ろしてきた。
俺とムル教官とミナの三人で、かろうじて受け止めたが、そのまま5メートルほど押された。
地面に靴がめり込んだぞ。猛烈な衝撃を受け止めた腕が、ビリビリと痺れている。
神級武具じゃなければ、武器ごとまっぷたつだったろう。
それも地面ごとだ。
体重が軽いミナは俺とムル教官より後ろに飛ばされている。
ミヤケ少年は気を失っているようだ。
「いい武器を持ってんなァ? さぁ、遊ぼうか!」
赤のビキニアーマー?
不敵な笑顔で言い放った女は、まるで水着のような露出度の高い鎧を着けている。
ワイルド系の美形で、20代前半くらいか?
細身だが筋肉質の身体は、ほどよく日焼けしていて逞しい。
「ちょ、待っ・・」
待てという間もなく斬りかかってきた。
天地理矛で受け流す。
まともに受けたら武器か腕にダメージがあると思えるほど、迫力のある連撃だ。
型破りの野生の連撃に、ムル教官の斧ですら簡単に弾かれている。
女は高らかに楽しそうに笑っている。
「ハッハー! いいぞおまえら! まだ死ぬなよ!」
「じゃあやめてくださいよ」
「おまえらが死んだらやめるよ!」
「あぶね」
会話にならん。
これは戦闘狂ってやつか?
ジジイと同じ迷惑な生物かよ・・・。
風圧で地面が削れている。
どんな膂力なんだよ!?
さっきの巨大な槍を投げたのは、巨人なんかじゃなかった。
信じられないことだが、間違いなく目の前のこの女だろう。
細い身体のどこにこんな力があるんだ?
「そらァ! 右行くぞ!」
「うごっ」
攻撃方向を宣言されても、防ぐだけで精一杯だ。
俺とムル教官の二人で、女一人に防戦一方って、そんなことがありえるのか?
「やべっ!!」
ぬかるみに足が沈んだ。
バランスを崩した俺に、女の凶刃が迫る。
「ハッハ、死んだなwww」
やばい、斬られる!?
「あい」
目前に迫った刃を、横から飛び込んだミナが弾いた。
「横槍かァ? おもしれえじゃねぇか!」
女がミナに斬りかかる。
ギアを一段上げたのか?
笑いながら斬りかかる女のまわりは、まるで暴風域のようだ。
しかし、それを受けているミナもものすごい。
完璧に鬼子モードだ。
吊りあがった目は赤く染まり、口は赤い三日月のようだ。
俺とムル教官の二人がかりで防戦一方だった女の攻撃を、完璧に防いだ上でさらに攻撃を仕掛けている。
噛み合っているというか、まるで演武のようだ。
超速の連撃をお互いに繰り出しながら、まるで踊っているかのような美しさだ。
「ぬ、ヌナカワ姫!!? ミナさん!?」
起きてきたミヤケ少年が叫んだ。
「え?」
目の前のこのビキニアーマーって、ヌナカワ姫なの?
ヌナカワ姫って沼河比売だよな?
古事記の大国主神の神話で、高志国に住んでいて、大国主神が求婚の歌を詠んで、沼河姫が歌を返し、翌日の夜に結ばれて結婚したという・・・。
この暴力の塊のマッチョレディーがヌナカワ姫なの?
なんかイメージ全然違うんですけど・・・。
あきらかな脳筋じゃないかこれは!?
「おや?」
女が引いた。
ミナも飛び下がる。
疲れたのか? いや違うな。
「おまえ、ミナじゃないか?」
「あい」
ミナってそんなに有名なの!?
まさかコシ国まで武勇が届いてるんですか?
イズモでも異様に恐れられていたし、てか、いったいなにをしてきたんだ。
「ヌナカワ姫、ミナを知ってるのか?」
「あァ? 知ってるもなにも、あたしの子だよ!」
「なんですと!!???」
ヌナカワ姫がミナのお母さん!?
よくわからない展開に、俺はまたひたすら混乱するのだった。
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