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伝説の鍛冶師からの贈り物

「ところでカワイキュンはなにしてるんですか?」


「あら、ムイチちゃんを見つめてるのよ。わからない? あ、それともおねえさんのすべてを知りたいとかそういうことなのかしら?」


 カワイキュンは、潤んだ瞳にやさしくて不気味な微笑みを浮かべて、熱い視線を向けてきた。

 いかがわしい感情で往復ビンタされてるような熱い視線が、ねっとりとまとわりついてくる。

 背筋は凍りっぱなし、鳥肌は立ちっぱなしだ。


「パーフェクトに違います。1ミリも(かす)っていません」


 俺は首がちぎれ飛びそうな勢いで、ブンブンと左右に振った。

 この人には、全力で拒否と否定の意思表示をしないと危険だ。

 曖昧な答えは、カワイキュンの都合よく変換されてしまうのだ。


「いや、そういうことじゃなくて、ここでなにをしていたのかってことです」


「ああ、そういうことね。この子たちと採掘をしてたのよ」


 そう言ってねずみたちを見る。

 ねずみたちは、それに答えるように揃って敬礼をした。

 なんかかわいいんですけどwww


「この子たち? ねずみですか?」


「そうよ。おねえさんの優秀なファミリーなの。ムイチちゃんもファミリーになりたいの? 掘るのも掘られるのもオッケーよ」


 鉱物の採掘だから掘るのはわかるけど、掘られるってなんだ?

 意味がわからないしわかりたくない。

 無駄に艶やかなプルプルの肌を桜色に染めて、何を言っているんだこの男は・・・。


 さりげなくカワイキュンが俺の体にさわろうとしてきたのを、ミナが防いでくれた。

 まったく油断できないぜ。


「ここは希少な鉱物資源の宝庫なのよ。野暮用ついでに掘っていたの」


「野暮用?」


「ええ、届け物よ。もう終わったの。ムイチちゃんたちはなにしてるの?」


「イズシ町に戦後処理の話し合いに向かっているところです」


「ああ、タジマ国がイナバ国に侵攻して、それをムイチちゃんたちが防いだのね。天日槍(あめのひぼこ)を討ち取ったんでしょ? すごいじゃない」


 カワイキュンは情報網もすごいな。

 テレビやラジオのニュースも新聞もないこの時代で、どうやって情報を得ているんだろう?


「それにしても、この魔素ってなんなんでしょう? 森全体が濃い魔素に覆われているようです。港にも人影がありませんでした」


「さあ、なにかしらね。イズシ町の方向から漂って来ているようね」


「そうなんですか?」


 ルウを見ると、うんうんと(うなず)いていた。

 巫女としての感覚でも、そう感じるようだ。

 オートマッピングの地図を確認してみると、たしかにその方角にイズシ町がある。

 これは急いで行ってみる必要があるな。


「俺たちはイズシ町に急ごうと思います」


「あら、寂しいわ。おねえさんはもう少し採掘するわね」


「はい、それではまた!」


「あ、ちょっとそこの木こり」


「はい?」


 3個目のおにぎりを食べていたムル教官が、突然に声をかけられてむせている。


「その斧を見せてみなさい」


「え? ああ、はい」


「ムイチちゃん、その斧を持ってきてちょうだい」


 ムル教官が差し出した斧を受け取って、カワイキュンに渡そうとすると、カワイキュンはふっくらとした大きな手で俺の手を包むように握ってきた。


「ハァハァ」


 顔を紅潮させて鼻息を荒げている。

 火力発電所のような熱量だ。


「あの、俺が受け渡しする意味あるんですか? てか、早く斧を取ってください」


「大事な儀式中なの。ハァハァ」


 俺はミナに見ないように言った。

 特定業界の人にはお宝映像なのだろうが、教育には悪すぎる。

 カワイキュンの不純は純度が高すぎるのだ。


 ルウは弟子が師匠の技を見つめるかのような真剣なまなざしで、カワイキュンの挙動を見つめている。

 てか、これってなんの儀式なんだよ?


「ハァハァ、いいわ」


 カワイキュンは斧を受け取ると、異空間収納から鉄の土台とハンマーを出した。

 斧の柄を器用に外して、刃の部分を鉄の土台に載せると、刃が熱せられて赤くなってきた。

 魔道具ってやつだろうか?


業物(わざもの)だけどちょっとくたびれてるわね。ムイチちゃんに免じてサービスよ」


 鉱物の粉のようなものを振りかけながら、ハンマーで叩いて鍛えていく。

 振り上げたカワイキュンの腕には太い血管が幾筋も浮き上がっていて、厳しい表情は職人の顔だ。

 こう見えてもカワイキュンは、超絶技巧集団である天津麻羅(あまつまら)の頭領だった伝説の職人なのだ。

 その人間性には大きな疑問があるが、その技巧は当代随一で間違いないだろう。

 神と呼ばれるにふさわしい達人なのだ。


 森の中に鋼鉄の打撃音が木霊する。

 驚いた鳥たちが飛び立っていった。


「さあ、できたわ」


 カワイキュンは額の汗をぬぐうと、斧の刃を手の平で撫でた。

 赤く熱せられている鋼鉄の刃を素手で触るなんて、さすがに職人はすごいな。


「ぅあつっ!!」


 と思っていたら普通にヤケドをしたようだ。

 フーフーしてと指を出してきたので、氷魔法で凍らせておいた。


「さあ、どうぞ!」


 刃に柄をつけて俺に渡してきたので、ムル教官に斧を渡した。

 この受け渡しってなんのためにやってるんだろう?


「うお、すげえな」


 ムル教官は斧を受け取ると目を見張っている。

 そして、近くの大木に向けて斧を振った。


「えっ!?」


 大木がスッと切れて滑り落ちた。

 斧を叩きつけたのに、そのままスッと大木を通り抜けた感じだ。

 斧ってその巨大な刃で叩き削るものだよな。

 それがカミソリのような切れ味だ。


「なんだこれは?」


「フフ、ヒヒイロカネでコーティングしておいたの。よく切れるでしょう?」


「切れるなんてもんじゃねーぞこれは!?」


 ムル教官が興奮している。

 斧とは思えない切れ味の武器を手に入れたことで、俺たちの戦力は大きく上がったことになる。


「それじゃ、行きなさい。またね」


 カワイキュンは大きな手を広げて、小さく左右に振っている。

 ねずみたちも手を振っている。


「カワイキュンありがとう!」


 俺たちはイズシ町に向かって歩きだした。



いつも読んでいただいて、本当にありがとうございます。

ブックマークや評価ポイントをいただいて、すごく励みになっています。

今後ともよろしくお願いします。

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