サタの大会議でがんばりました
サタ港に到着すると、事態はすっかり沈静化していた。
あれだけいた偽装戦船も、すべていなくなっている。
「ヤエ、ご苦労だった」
「御館様、カマタほか賊は収監しております。即時に動かせる船が少なかったため、戦船の半数は拿捕しましたが、残りは逃げられました。これは次回への反省点として、ここサタ港の整備も含めて検討したいと思います」
すげえ、動かせる船なんて10隻あるかどうかって状態で、あれだけいた戦船の半分も拿捕したのか。
どれだけ有能なんだヤエ・・・。
というか、俺の意識はヤエの胸に集中している。
この大きな魅力的な物体はどうなっているんだ?
素材はなんだ?
俺の探究心に火がついている。
けっしてやましい気持ちではない。これは未知の素材への探究心なのだ。
どういう素材なのか、材質を確かめなければならない。
手を伸ばせばそこにあるが・・・、ダメだよな?
ダメかな?
ひょっとしていいのかも?
手が、手が・・・。
「オオナムチ様」
「はぅいあ」
スセリの殺気で我に返る。
気をつけているのだが、ものすごく気をつけているのだが、それでもヤエの胸に逆らうことができない。
これは男として生まれたら仕方がないことなんだ。
そうだよなみんな?
「カマタに会いますか?」
ヤエが聞いてきた。
「会議までは時間があるか?」
「はい、大丈夫です。こちらへ」
ヤエの案内でカマタが収監されている建屋に向かう。
スセリとヤカミは会議の調整に行ってもらった。
ミナが後ろからついてきている。
部屋に入ると、40名くらいがロープで拘束されていた。
俺に気づいて視線を向けてくるが、なんだかすごく弱っている感じだ。
「衰弱してる?」
「いえ、ヒナの開発した無力化拘束具を使っています」
「無力化拘束具?」
「はい、魔物化させたロープです。これで拘束すると、魔法を使うことも暴れることもできません」
「え? どうやってんの?」
「説明を受けますか?」
「あ、いや、いいよ」
理解できるかわかんないし、難しい話は聞きたくないので断った。
とにかく、カマタや賊たちは抵抗できない状態だってことは理解できた。
ミホの研究所で、研究に没頭しているヒナだが、こんなものも開発しているんだな。
魔物を使っているというのがアレだが、すごいテクノロジーだ。
「カマタ」
「はぁ」
カマタはうつろな目で返事をした。
俺たちに襲い掛かってきたときとは、まるで別人のようだ。
「イナバ国攻めは失敗したぞ。天日槍は討ち取った」
「はぁ」
カマタは一瞬だけ目が動いたが、とくに無感動な様子だ。
ヤエのほうが驚いている。
この無力化拘束具とやら、効き目はすばらしいが効き過ぎてるんじゃないだろうか?
まあ暴れられるよりはマシなのか。
原理はわからないが、すごい発明だ。
「カマタと賊は、全員タジマ国へ送り返しておいてくれ」
「いいのですか? まだ何も聞き出していませんが?」
「ああ、会議が終わったら俺がタジマ国に行くしな。あっちで直接調べるよ」
「御意」
ヤエは小さく頷いた。
「では、会議に行こう」
俺たちは神名火山のふもとにある大会議場に向かった。
神名火山とは、神が鎮座する場所とされていて特別に信仰されている山のことだ。
イズモ国には、現代の宍道湖であるオウの海の北側にあるここアイカ町と、その西にあるタテヌイ町、オウの海の南側に、オヤジさんのいる王都オウ、そしてヤエの西イズモ王家があるイズモがあって、オウの海を四角く囲うようにして四箇所に神名火山があるのだ。
そして、それぞれの神名火山は、強い勢力を持っている。
イズモ国は、四つの大きな勢力があるということなのだ。
神名火山を見上げながら細い谷を抜けて、大会議場に辿りついた。
今回は会議に参加する首長とその従者たちを含めると、6000人以上がサタに訪れているらしい。
会議の出席者は500名くらいらしいが、それでも大会議だ。
この会議では、俺の役割は重い。
ワ国次期大王として、外交的には初の大仕事と言ってもいいし、失敗は許されない。
強いプレッシャーを感じている。
俺は気を引き締めながら大会議場へと入っていった。
◇◇◇◇◇
「新入り、遅れてんじゃねーぞ!」
「はい!」
三角巾が汗で湿ってきた。
中坊が厨房。
目の前に並ぶ焼魚が盛られた小皿に、緑の葉っぱを添えていくのが俺の仕事だ。
俺に与えられた大仕事、それは会議参加者の晩餐の調理補助なのだ。
イナバでは皿洗いだったが、レベルアップした俺は、今回は盛り付けを担当している。
皿洗いをするつもりだったのだが、料理長に見込まれてしまったのだ。
まあ、盛り付けといっても、焼魚の皿に葉っぱを添えることしかやらせてもらっていないが、きっとこれが今回もっとも難易度の高いポジションなのだろう。
この葉っぱが今回の晩餐のメインなのかもしれない。
なんか飾りっぽい感じの葉っぱだけど、きっと俺の知らない貴重な食材なのだ。
そう思うと、葉っぱを食べてみたい誘惑に駆られたが、今回は両隣に人がいてつまみ喰いをする隙がない。
厨房の人員配置も完璧で、さすが大会議の晩餐をまかせられる料理長なのだと感心してしまった。
しかし、俺の能力はチート級、素早さには自信がある。
そんな中でも華麗につまみ喰いを決めてみせよう。
俺が葉っぱを食べてみようとロックオンしていると、大きな音を立てて厨房入り口の扉が開いた。
「オオナムチ様! こんなところで何をしてるんですか!」
スセリが激高している。
「え? いやあの葉っぱを添えてんの。こうやって」
やって見せようとしたら走ってきたスセリに葉っぱを奪われた。
やっぱこの葉っぱって貴重な食材なのか!?
「いいかげんにしてください! 会議が終わっちゃいましたよ! もうこれから晩餐です」
「いや、だからその準備で葉っぱを」
「葉っぱはいいですから!」
俺はスセリに料理場から引っ張り出された。
◇◇◇◇◇
スセリに引っ張られて辿りついたのは、大会議場だった。
しかし、無断で職場放棄って、時給どうなるのか気になるよ。
まあ、スセリに引っ張っていかれたんだし、料理長もわかってくれるかな。
そんなことを考えていたら、いつの間にかステージに立たされていた。
「ワ国次期大王オオナムチ様だ! 近々、スサノオ大王が息女ワカスセリ姫様との婚姻が予定されている」
サルダヒコ元帥が割れるような大声で叫ぶと、会場にひしめいている参加者たちが一斉に俺を見つめた。
みんな驚いた顔だ。
スセリが俺に並び立ち、幸せそうな笑顔で頬を染めている。
会場のみなさんは羨望の目だ。
フフ、どうだ、羨ましいだろう?
いまだにこの俺ですらこの幸せを素直に受け入れることができていないくらいなのだ。
毎朝、目覚めると夢じゃないかって頬をつねるし、常にドッキリのテレビカメラを探している。
スサノオ大王の最低最悪な試練を、乗り越えた甲斐があるってもんよ。
俺は人々の注目に応えるよう、三角巾と割烹着を整えた。
いやしかし、新品の三角巾と割烹着でよかったよ。
次期大王としてのお披露目って晴れの舞台だもんな。
なんだかんだで服装は大事だ。
てか、サルダヒコ元帥、ひさびさだけどやっぱりこの人怖いな。
そもそもなんで天狗面つけてるんだろう。
しかも、誰もそこをつっこまないのがさらに不思議なんだよな。
おかげで俺も聞きづらくてまだ聞けていない。
正式に大王になったら真っ先に聞いてみようと思った。
「そしてさらに報告がある。先ほどオオナムチ様は、イナバ国に侵攻してきた天日槍を討ち取り、タジマ国を併合されたのだ。ワ国連合の版図はこれでまた長大になったのだ」
「うおおおおおおおおおおお!」
会議に参加している首長たちが、熱狂して叫んでいる。
自分が加盟する連合国の勢力拡大は、自分たちの権威や利益にも直結するのだから、大歓迎なのだろう。
連合加盟の証である銅剣をかざしている者もいる。
ワ国連合加盟国の長である証として、会議参加者で認められた者には、証として青銅で作った両刃の剣が贈られるのだ。
てか、天日槍を討ち取ったのはミナなんだけど、これだけ盛り上がっていると訂正しづらいな。
お詫びとしてミナには、からあげでも作って食べさせてやろう。
からあげを食べているときのミナは、とてもうれしそうにしているんだよな。
「そしてさらに報告がある」
サルダヒコ元帥が告げると、会場は静まりかえった。
「イナバ国皇女ヤカミ姫様とオオナムチ様の婚姻も近々行われることになった」
ヤカミが胸元が大きく開いた白いロングドレスで俺の隣に並び立った。
もうマジ女神マジ天使マジ天女。
美の概念を女性の形にしたらこうなりましたって感じ。
会場の誰もがヤカミの美しさに見惚れている。
「あの、ええですかな?」
前のほうにいた豪族っぽい爺さんが、サルダヒコ元帥に声をかけた。
「なんであるか?」
サルダヒコ元帥が答える。
「次期大王のオオナムチ様は、スセリ姫様とヤカミ姫様を二人とも娶られるということでよろしいか?」
会場が静寂に包まれた。
サルダヒコ元帥の次の言葉に、会場全体が注目している。
「そのとおりだ」
「グオオオオオオオオオオオオ!」
会場にいた独身っぽいやつらが、ワ国連合参加の証である銅剣で、ワ国次期大王である俺に攻撃してきた。
スセリとヤカミという美姫を二人も同時に娶るということは、祝う対象ではなく殺す対象だと判断されたようだ。
俺は天地理矛を出して応戦した。
ステージに殺到する嫉妬した軍団、ものすごい殺気なんですけど。
次々に吹っ飛ばす。
「ヒブウ」
あれ、今吹っ飛ばしたのムル教官じゃねえか。
まあ、こうして俺は、ワ国連合加盟国首長513人を、力づくでねじ伏せて次期大王だと知らしめることになったのだった。
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