天日槍との決着は!?
「まてまてまて! 俺は味方だっての!」
ヤカミが俺を夫宣言して寄り添ったことで、この地にいる男全員を嫉妬させ、敵にまわしてしまったようだ。
イナバ国を救うために必死で駆けつけたというのに、イナバ国兵士からも攻撃されている。
全員、目が血走っていてまさに狂戦士、血涙を流している者もいる。
ヤカミを慕う気持ちが、そのまま倍増されて俺への憎悪に変わってる感じ?
なにこの状態!? めっちゃ迷惑なんですけど!
「あぶね! まて!」
味方の砦の中にいるのに、なぜか孤立している。
おっさんやめろ、斬りつけてくるな!
外の敵も、あきらかに俺に向けて矢を射ている。
助っ人の英雄として馳せ参じたつもりなのに、なぜか悪の親玉みたいな扱いなんですけど・・・。
ミナはなぜか傍観している。
「ぬおおおおお!」
あまりに理不尽な扱いに、俺の頭の中でブチっとキレる音がした。
魔力を高め水魔法でまわりの狂戦士たちを押し流す。
砦の外にも怒りのフルパワーで洪水を起こした。
天変地異を喰らいやがれ!
谷底に溢れる狂戦士たちを水流が押し流していく。
蟻が流れていくようだ。
ククク、俺の魔力は規格外なのだよ。
これでなんとか正気に戻ってくれ。
「目を覚ませ雑兵ども!」
しまった!
シチュエーションにほだされて、ネトゲの攻城戦のごとく煽ってしまった。
俺のギルドは城を何度も落とし、そして守った名門なのだが、俺は煽りのプロとして名を馳せていた。
それが今回は悪い方向に作用してしまったようだ。
落ち着きかけていた兵士たちが、さらに狂戦士になってしまった。
「何がしたいんだキミは?」
背中に担いでいる少年が呆れた声で言った。
少年にはヤカミの魅力が効いていないらしい。
なんか顔を赤らめて、ミナのほうをチラチラと見ている。
「天変地異洪水」
とりあえずさらに水量を増やして、タジマ国兵士を押し流した。
ちょっとやりすぎたかな。
溺れてる人もいるようだ。
やっぱ、アレだよ。水に流すってやつ?
どうにもならなくなったら水に流すのが正解なんですよ!
昔の人っていいこと言うよな。
あ、そういえば今の俺も現代から見たら昔の人か。
「まあ、オオナムチさんはすごいんですね」
ヤカミがうっとりとした表情で、さらに抱きついてきた。
お目付け役のスセリがいないから大胆になっているのかもしれない。
うれしいんだけど、少年を担いでる状態だし、さらにヤカミに寄りかかられると身動きができない。
てか、まあそれでもいいかな。
ヤカミ可愛いし。
目が大きいな。瞳も大きい。
それに、なんでこんなに睫毛が長いんだ?
肌も白くてつやつやだし、どんな手入れしたらこんな風になんの?
きめ細かいんだよなこれ、触りたくなるよ。
どんな感触なんだろう、吸いついてくる感じか?
なんだかもうどうでもよくなってきた。
これで戦も終わりでいいでしょ?
争いより愛だよ! もうやめようよ!
そんな感じでうだうだしていると、タジマ兵を押し流した谷の奥から、なにかがすごい勢いで駆けてくるのが見えた。
「馬?」
黒い馬が単騎で駆けてくる。
かなりでかい馬だな。
乗っている人間もでかい。
黒い鎧に身を包んでいて、片手に大剣を掲げている。
まだかなり距離があるのに、かなりの威圧を感じるぞ。
「こいつはまずいな」
思わずつぶやいた。
「ははは、キミたちももう終わりだ!」
俺の肩で少年が笑った。
「え?」
「わからないのか? 天日槍様だ。もうキミたちに万にひとつの勝ち目もないよ。さあ、僕を解放するんだ! キミたちの助命の嘆願くらいしてあげよう」
そう言いながらもミナのほうをチラチラと見ている。
少年うぜえw
そういえばガイムさんに聞いた話でも、劣勢に単騎で現れたんだったな。
天日槍が砦の下までやってきた。
そして、なんと砦の壁面を馬で登ってきた。
「なんですと!?」
高さ15メートル以上ある壁をふたつ飛びで駆け上がり、俺たちの眼前に立った。
「ふぅううう」
巨大な馬が首を振ると、生温かい呼気が風となってあたりに散った。
この馬って本当に馬なのか?
足の蹄が60センチくらいあるぞ。
これってもう魔物の範疇じゃないの?
そして天日槍もでかい。
巨大な馬に巨人が跨っている。
高さ6メートルくらいになっていて、見上げる首が痛いよ。
そこら中に暴の気を振りまいていて、まわりを取り囲むイナバ国兵士たちも手が出せない。
発する威圧はスサノオ大王にも似ている。
これがガイムさんが恐れたという天日槍か。
たしかに、取り囲まれているのにまったく意に介していない。
敵陣で単騎なのに、なんて胆力なんだろう。
まあ、さっきまでの俺なんて、360度全方向が敵だったけどな。
黒い兜で顔がよく見えないが、俺を値踏みするように見下ろしている。
「おのれ!」
イナバ国兵士が一斉に矢を射かけた。
「フン」
天日槍は、そちらを見ようともせずに、ただ大剣を振った。
それだけで矢は全て斬り落とされた。
「早く僕を降ろせ! そして降伏するんだ!」
少年は俺の肩でわめいている。
「それはどうかな少年」
「あい」
ミナが宝剣ライキリを構えて、天日槍の前に立った。
「やめろ! 彼女を下げろ!」
少年は激しく暴れ、必死で叫んでいる。
「ブフィイイイ」
黒馬が吼えて、ミナに怒りの目を向けた。
天日槍が、大剣を振りかざし、そして目にも止まらぬ速度でミナ目がけて振り下ろした。
「ああっ」
少年が悲鳴をあげた。
「あい」
鋼鉄と鋼鉄がぶつかり合う重厚な打撃音が響いて、ミナの宝剣ライキリが天日槍の大剣を受け止めた。
馬上からギリギリと剣に力を込める天日槍だが、ミナは涼しい顔で受け止めている。
やがてミナは箸を振り回すかのように宝剣ライキリを振り抜いた。
「なにっ!?」
驚く少年を尻目に、天日槍の大剣は切断され、黒馬の首が斬り飛ばされて地に落ちた。
首から鮮血を振りまいて、巨馬が左向きに崩れ落ちる。
バランスを崩した天日槍の首に、剣を返したミナの切っ先が滑り込む。
黒い兜が胴から離れて空中に飛んだ。
天日槍の頭が地に転がると、少年は大きく目を見開いて言葉を失った。
「が、あが・・が」
絶句というのはこういう状態だろう。
こうしてあっけなく天日槍は散ったのだった。
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