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第十二話 野うさぎは爆発物ではありません

「まずは内政だよな」


 俺はルウに案内してもらって、村の周辺の調査をしている。

 村を豊かにするために、まずは現状を知らなければならない。


 ミナ達は家を作っている。


 村は環壕(かんごう)に囲まれていて、その外側はしばらく行くと森になる。

 深い森の中に隠れるようにしてこの村があるのだが、森を切り開いてこの隠れ里を作ったようだ。


 村の周辺について説明しよう。


 北は岩山になっていて、婆さんがいる洞窟がある。

 東に川があって、黒曜石(こくようせき)のある谷につながっている。

 西にはヤギが放牧されていて、逃げないように木の囲いがされていた。


 そして俺は今、南の荒れ地に立っている。

 海へ行く道と町へ行く道はこの南面にあるが、道の他の場所はただの荒れ地だ。


「風があるね」


 夏の日差しは強いが、風が吹いていて気持ちがいい。

 背の高い草が風で揺れている。


 土地はでこぼこで、草が生い茂っている。

 野球のグラウンドくらいの広さだろうか、その先は森になっている。


「なにしてるの?」


「地質調査だね」


 土を調べてみたが、なかなかよさそうだ。

 耕せば農地にできるだろう。

 水は川から引いてくる必要があるな。


 ルウはてくてくと横を歩いている。

 やはり、おっとりした感じだし、昨日とは別人だ。

 俺が見ているのに気づくと、にっこり微笑(ほほえ)んできた。


 くそう、かわいいじゃねーか。

 しかし騙されるな俺、これはきっと罠だ。

 俺が思案していると、ルウがお茶にしましょうと提案してきた。


 草の上に並んで座って、ルウが竹の水筒を出した。


「あ、ちょっと貸してみて」


 ルウは不思議そうな顔をしたが、俺に水筒を渡した。


 俺は水筒を手に持って、冷たくなるように念じてみた。


 魔法を使うには、鬼道(きどう)とやらの木火土金水(もっかどごんすい)の系統魔法や、そういった既成概念(きせいがいねん)は気にしないほうがいいと思った。

 その既成概念の枠が、できることを狭くしてしまう気がするのだ。


 婆さんが言うには魔法はイメージだ。

 そして現代日本から来たオタク系の俺は、現代社会だけでなくアニメやゲームなどイメージの宝庫だ。


 そしてそれを実現するための魔力を、俺は膨大(ぼうだい)に持っている。


 叡智(えいち)の祝福の影響もあるのだろう、俺はできると確信していた。


 竹の水筒を持って、神妙な顔で念じている俺。

 傍目(はため)に見ればバカっぽいはずだが、ルウは興味深そうに見ている。


 水筒よ、冷えろ!


「あっ、できた!」


 いや、できすぎた。

 というか、やりすぎて凍った。


「すごい」


 ルウはびっくりしていた。

 見開いた目が丸くなっている。


 婆さんでも、これほどのことはできないらしい。

 興奮して、すごいすごいと連発している。


 凍ってしまったせいで、中身のお茶が飲めないことには気づいていないようだ。

 ルウが、これがどれだけすごいことなのかを説明しはじめた。

 説明が終わったとき、キンキンに冷えた冷たいお茶が飲めるようになっていた。


 よかったぜ。結果オーライだ。


「ムイチくんは遠い国から来たんでしょ?」


「ああ、たぶんすごく遠いだろうな」


「家族は?」


「ジジイと二人暮らしだった」


「そう。はい」


 ルウが水筒を渡してきた。


 俺は受け取って飲んだ。


 なんのお茶かわからないが冷たくてうまい。

 熱くなっていて身体が、中から冷えていく。


 しかし、あることに気づいて固まってしまった。


「どうしたの? 顔が赤いよ?」


 ルウが俺の顔を覗き込んできた。

 小首をかしげるしぐさが、とてもかわいらしい。


「いや、なんでもないよ」

 

 慌てて否定したが、自分でも顔が赤いのはわかる。


 俺は気づいてしまったのだ。

 これってアレだよ。


 間接キスだ!


 男女交際暦ゼロ、むしろ女子とろくに話したこともない俺。

 恋愛に関することでは無菌室で丁寧に育てられたもやしのような俺は、こういう刺激に対する耐性は無い。


 ルウの唇が触れていた場所に俺の唇が・・・。


 おいそこ、キモイとか言うな。

 それと、中学生かよというつっこみはやめてくれ。


 俺は中学二年生だ。


 ルウはおっとりしているけど、天性の小悪魔だ。

 無意識に俺を滅ぼすことができる力を持っておられる。


 俺の恋愛防御障壁がぶち破られた。

 残りはあと一枚。

 厚さはペラッペラの紙防御だ。


 てか、俺の防御障壁って薄いな。


「あ、うさぎ」


 ルウが指差す方向を見ると、草むらから野うさぎが顔を出していた。


「あれって狩りの獲物?」


「うん。野うさぎはお肉がおいしいし、毛皮は防寒具になるから喜ばれるよ。でも、素早くてなかなか狩れないんだよね」


 俺は万宝袋(まんぽうぶくろ)から、町の武器屋で買った槍を出して、野うさぎに向かって投げた。


 槍は目にも留まらない速度で野うさぎを貫いた。


「やった!」


 そして、野うさぎが爆発した。


「えっ!?」


 むしろ、野うさぎがいたあたり一面が吹き飛んで、地面には大きなクレーターができた。


「・・・・」


 ルウは目が点になっていた。


 またやりすぎてしまったようだ。

 てか、俺の能力ってどうなってんだ?


「てへぺろ」


 俺はせいいっぱいの愛嬌を表現してみたが、ルウは気持ち悪いものを見るように顔をしかめた。


 よし、それでこそ平常運転だ!

 そういう反応には慣れている。


 喜んでみたが、客観的に見ればかなりみじめだなこれ。

 まあ、全力で気づかないようにしようそうしよう。


 その後、力加減を調整しながら、野うさぎ狩りを続けた。

 5羽目で爆発させずにうまく狩れるようになった。

 叡智(えいち)の祝福の影響か、俺の成長は早いのだ。


「そらぁ!」


 槍で突いて、野うさぎの頭だけを落とすのだ。


 ルウも感心していた。


 野うさぎを15羽仕留めて、俺たちは村に戻った。

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