表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/167

黒い水平線

「ソイ!」


 天地理矛(あめつちのことわりのほこ)の一振りで、前列にいた賊の剣を折った。

 (ひる)んだ賊たちが二歩下がった。


「オオナムチ様!」


 スセリが駆けてきた。

 ミナとヤカミも続いている。


「ヤエ、ここはまかせた! スセリ、ヤカミ、ミナ、ついてこい!」


「あい」


 スセリが水魔法を撃ち出すと、賊たちは水圧で押され流されて、海までの道ができた。


「乗れ!」


 万宝袋(まんぽうぶくろ)から高速船レインボーを出して海に浮かべ、すかさず乗り込んだ。


「行かせぬ!」


 カマタが叫んだが、ヤエが立ち塞がった。


「あなたたちの相手はこのわたしです」


 ヤエは長さ2メートルほどの棒を、空間から取り出した。

 俺ほどではないが異空間収納が使えるのだ。


 棒の両端は金属の(おもり)がついている。

 ヤエは、棒を両手でプロペラのように回しはじめた。

 高速で旋回する棒は、鉄の車輪となって(うな)りをあげている。


「鳥の遊びとまいりましょうや!」


 ヤエが賊の集団へ突っ込むのが見えた。

 賊がヤエの棒で打ち飛ばされて、次々と宙を舞っている。


 ヤエは頭脳も聡明だが、武術も桁はずれの実力なのだ。

 先を見通す力は、相手の攻撃を見切って自分の攻撃につなげる武器になる。

 なにせこの俺ですら、試合ではヤエに負けることがあるのだ。

 賊の一団ごときでは、ヤエの相手にはならない。


「少年を追うぞ!」


 高速船レインボーの船体から水中翼を出し、超高速モードにした。

 水魔法を後方に打ち出して推力にすると、あっという間に港が遠ざかった。


「あれだ!」


 少年の乗る船が見えてきた。

 両舷から手漕ぎの櫂が見えている。

 片側に8本出ていて、船室で漕ぎ手が漕ぐことで船を進めているのだ。

 この時代の船としてはかなり速いほうだと思うが、俺が現代知識を取り入れて設計した高速船レインボーとはレベルが違う。

 あっという間に追いついた。


「ヤカミ、(かい)を魔法で狙えるか?」


「こちら側に見えているものでしたら可能です」


「頼む」


「御意」


 船はこちらに気づいたようで、賊が甲板に出てきて矢を撃ってきた。


「ミナ」


「あい」


 船首に立ったミナが飛び上がり、宝剣ライキリを振ってすべての矢を斬り落とした。


「いきます!」


 ヤカミの詠唱が終わったようだ。


乱弛矢(ランチャー)


 ヤカミが突き出した右手から、いくつもの炎の矢が撃ち出されて、前方の船に向かって飛んでいく。

 (うげん)に突き出ていた(かい)が、破砕音とともに炎に包まれて焼け落ちた。


「よくやった!」


 ヤカミは目を伏せて、少し照れたようにほほえんだ。


「なんだ!? どうして!?」


 少年が甲板に出てきている。

 もう声が聞こえるくらいの距離だ。

 右舷(うげん)(かい)を失った船は、ゆっくりと左に傾いて旋回をはじめた。

 左舷の(かい)しか残っていないので、まっすぐ進むことができないのだ。


「ぶつけるぞ! 落とされないようにつかまれ!」


 高速船レインボーの速度を落としながら、少年が立つ船に向けて突進する。


「てーーーーつっ!」


 轟音と振動とともに、右舷に船首をぶつけた。

 高速船レインボーの船首の巨大な鉄の爪が、右舷に突き刺さって固定された。

 少年と賊たちは衝撃で倒れこんでいる。


「ミナ行くぞ!」


「あい」


 ミナとともに船に乗り込む。

 巨大な木造船の上には、20名ほどの賊がひしめいていた。


「殺すなよ!」


「あい」


 ミナが宝剣ライキリを構えて飛び込んでいった。

 大剣の腹で賊たちが吹き飛ばされていく。

 出会った頃は力まかせの荒々しい剣だったが、今では剣法として恥じない技術を習得している。

 さすがは現代神話に、出雲最強の武神として記される健御名方神(たけみなかたのかみ)である。

 武の才は、はっきり言って俺以上だろう。


 ミナはあっという間に20名の賊を無力化してしまった。

 まあ、無傷ではないが一人も殺してはいない。

 これもすごい進歩だろう。


 甲板上には少年だけが残っている。


「そんなバカな! 追いつけるわけがないんだ」


 少年はわなわなと震えながら、俺とミナを見ている。


「俺の船は速いんだよ」


「そんな小さな船で、ありえないだろう!?」


 少年は半狂乱という感じだ。

 想定外の出来事に、頭がついていかないのだろう。

 優秀な頭脳の持ち主で自信を持っているのだろうが、それだからこそ自分の想定が外れたときに脆いのだ。


 港でヤエに見破られたところまでは想定して対策を立てていたようだが、逃げ出した船に追いつかれることは想定していなかったようだ。

 必死の形相で、目が泳いでいる。


「技術は進歩するんだよ」


「それにしてもありえない! あってはならないことなんだ!」


 まあ、高速船レインボーの速度は、俺の魔力を推進力としている。

 実際、現代の艦船をも凌駕(りょうが)する船なのだから、この時代にありえないのは当然だ。

 少年の言うことがもっともなのだ。


「で、何者なんだ少年?」


 俺も厨二だし少年なんだけど、目の前の少年は10歳くらいか?


「僕は天日槍(あめのひぼこ)が配下、イズシのミヤケだ」


 天日槍(あめのひぼこ)、アマの鍛冶屋のガイムさんに聞いた危ないやつだな。

 負け戦の中を一騎駆けで砦に飛び込んできて、将であるガイムさんを打ち負かしたという。

 てか、そういえば馬って見てないな。

 昔は日本には牛馬がいなかったってことだけど、天日槍(あめのひぼこ)は馬を持っているんだな。


 日本神話では、天日槍(あめのひぼこ)新羅(しらぎ)の国の王子だ。

 美しい妻がいたが、妻は故郷である日本の難波(なにわ)に逃げ帰ってしまう。

 妻を追って海を渡った天日槍(あめのひぼこ)だが、難波(なにわ)では土地の神々に邪魔されて上陸できず、現代の兵庫県である但馬(たじま)の国に落ち着いた。

 やがて土地の娘と結婚して、大陸の技術で土地を開拓し、豊かな国を造ったというのだ。

 現代では、開発の神として出石神社(いずしじんじゃ)に祀られている。


「そのイズシのミヤケがイズモに何をしに来たんだ?」


「察しているだろう? サタの会議に集まるワ国豪族を討ち取るためだ」


 予想通りの返答だ。

 しかし、思ったよりも素直に話してくれるのな。

 普通はこういうのって隠すことじゃないのか?


「僕がなぜこんなに素直にしゃべるのか、疑問に思っている顔だな」


 少年がどや顔で言ってきた。

 くそう、図星だから悔しいぞ。


「おしえてあげよう。もう隠す必要がないからだよ」


「え?」


「僕の後ろを見たまえ!」


 言われて少年の後ろの海上に目を凝らすと、水平線が黒くて太くなっている。


「船団!?」


 よく見るとそれは数え切れないほどの船だった。


「そう、天日槍(あめのひぼこ)様の戦船(いくさぶね)さ。計算違いもあったし僕はここで討ち取られるかもしれないが、戦は僕らの勝ちだ!」


 少年は本格的な戦争の前の陽動役だったのか。

 勝ち誇る少年の後ろから、海を埋め尽くすような船団がぐんぐんと近づいてきていた。

ブックマークや評価ポイントをありがとうございます。

すごく励みになっています。

今後ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ