森で親子に出会いましたよ
「しかし、どんな会議になるんだろうな?」
「ワ国連合内での交易の取り決めと、各地の豪族の婚姻を決めるものですが、今年は規模が桁違いに大きいですね。これも御館様の大徳のおかげです」
「いやいや、それはないって」
俺はヤエの案内でミホからアイカ町を目指して、山中を歩いている。
今回はスセリとヤカミはミナが護衛して先行しているので、俺はヤエと二人で行動している。
俺が大国主命で、ヤエが事代主命であり少彦名命だから、神話で国造りをしたと伝わるコンビだな。
なんだかちょっと感動してしまった。
アイカ町は現代では島根半島の中ほどにある場所で、秋鹿郡としてその名が残っている場所だ。
そのアイカ町にあるサタという場所で、一年に一度の交易と婚姻の取り決めのための大会議が行われるのだ。
そのために、ワ国連合に参加する大小さまざまな100以上もの国の代表が集まってきている。
これに類似する風習が、現代では出雲の神在月として残っている。
旧暦の10月に全国から八百万の神が出雲に集まって、あらゆる縁を結ぶ会議をするという話だ。
ちなみに他の地域では神無月と呼ばれる。
中世以降に作られた創作説話だとされるが、すごく似ているし、この会議がもとになっているんじゃないだろうか?
会議の統括はサルダヒコ元帥が行うが、俺はまだ帰還していないスサノオ大王の代理として、会議に参加することになっている。
とはいえ、最後に終了宣言をするくらいで、とくにすることは無いらしい。
スサノオ大王は、君臨すれども統治せずというタイプで、部下に働かせる方針なのだそうだ。
まあ、それは内政の話であって、戦争とか武力行使的なものは、自分が先頭に立ってやってる感じだけどな。
あの人って、大勢の武官文官を連れたままなかなか帰ってこないけど、いったいどこに行ってるのだろう?
どうやらサルダヒコ元帥ですら知らないようだが、どんだけ自由なんだって話だ。
まあ、あの人の自由を阻害できるものはこの世界にはいそうにないし、自然災害なんかと同レベルだと思って対処するしかないな。
会議では座っているだけの簡単なお仕事だということだが、本当にそうなのかはあやしいものだ。
とにかく心構えだけはしておこう。
「ちょっと休憩するか」
「御意」
手ごろな岩に腰を下ろす。ヤエも隣に座った。
ヤエと二人きりで、ずっとドキドキしっぱなしなのだが、ヤエはまったく意に介していないようだ。
天にあっては地のことを知り、地にあっては天のことを知ると歌われる事代主神であり、イズモ国副王の少名彦であるヤエの頭脳は聡明だが、こういった男女間のことには疎いのだろうか?
「ふぅ、あと30分くらいかな?」
「この行軍速度ですと、27分で到着できると思います」
さすがヤエ、正確で細かい。
胸はこんなにでかいのにな。
しかし、ほんとでかいな。
華奢でボーイッシュなヤエだが、その胸は豊満だ。
青いショートカットの髪、知的な顔立ち、細い手足、しかし、しかしだ。
ヤエはそれらに似つかわしくない爆乳を備えているのだ。
そのギャップが最高の魅力になっている。
諸君らにもきっとわかってもらえると思う。
このギャップは最高のブレンドとなって、ヤエの魅力を激しく増しているのだ。
そして、俺はその魅力の虜になって、もはや逃れることができない。
そういや今って二人きりだよな。
ストッパースセリがいないじゃん。
これってひょっとしてワンチャンってやつじゃね?
副王って王様の命令に従うもんだよな?
ってことは、グフ、グフグフ・・・
「御館様」
「は、はぅいあ!?」
妖精から外道に転職しようとしていた俺は、ヤエの呼びかけで我に返った。
「誰か来ます」
「ええっ?」
こんな山奥で誰が来るんだ?
すると、ほどなくして森の奥から人影が二つ現れた。
「父ちゃん! 人がいるよ!」
ミナと同じくらいの年に見える少年だ。
後ろからヒゲを蓄えた立派な装束の男が歩いてきた。
30代くらいだろうか。
どうも少年の父親のようだ。
「イナバのカマタという者です。突然ですまないのですが、食料をわけてもらえないでしょうか?」
イナバってことはヤカミのところか。
カマタと名乗った男は、丁寧に柏手を打って頭を下げてきた。
この世界では、貴人に対して拍手を打つ習慣がある。
神社でパンパンって手を打つアレだ。
この場合は、俺たちを貴人とみなしたというより、食料をわけてもらうために礼を尽くしたというところだろう。
「どうぞ」
万宝袋から弁当とお茶を出して、カマタと少年に渡した。
「かたじけない」
カマタと少年は弁当を貪るように食べてお茶を飲み、やがて一息をついた。
「本当に助かりました。少ないですが御礼です」
カマタは腰に提げた皮の袋から、少なくない量のヒスイの玉を出してきた。
遠慮する必要も無いので、受け取って万宝袋に収納する。
カマタの様子を観察すると、身なりはいいが少しくたびれている。
状況から見て、森で迷って彷徨っていたのだろうか。
「どうされたんです?」
「ミホの港からアイカ町に向かって歩いていたのですが、土地勘が無くて迷ってしまったのです」
思ったとおりだ。
「ひょっとしてアイカ町の会議の出席者の方ですか?」
「そうだ。父ちゃんは偉いんだぞ」
少年が胸を張って言った。
「俺たちもアイカに行くんですけど、一緒に行きますか?」
道に迷ったということだし、ちょっと到着は遅くなりそうだけど案内していこう。
「それはとても助かります。是非、同行させていただきたい」
こうして俺たちは四人でアイカ町に向かうことになった。
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