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あらたなる決意

ムイチの国造りが加速します。

 大急ぎでイズモに帰った俺たちは、ミホでヤエと会議をしている。

 ホヒも呼び寄せているのは、イト国へ派遣する人員の多くを、ホヒが連れてきた3万人の中から選ぶことになっているからだ。


「御館様、派遣する5000人の内訳としては、交易と漁業に1000人、町造りに3000人、狩猟採集に500人、兵務と租税徴収に500人というところでしょうか」


「いいと思う」


 事代主であり少名彦であるヤエの頭脳から導き出される答えは、正確で明快なものだ。

 会議の席に座る皆にわかりやすい表現で、ダイレクトに答えを示してくれる。


 おかげで俺は頭空っぽでも大丈夫な感じ。

 というか、むしろ何も考えることができない状態だ。

 ただひたすらヤエの胸に目が釘付けになっている。

 なんというかもう目が離せないのだ。

 

「オオナムチさん?」


「は、はぅあぃ!」


 スセリの呼びかけで現実に引き戻された。

 恐ろしい殺気を放つスセリに、ひたすら平謝りをしてなだめる。

 やべえ、別の意味でこの世から退場させられるところだった。


「指揮官は誰にする?」


 ホヒが聞いてきた。


 ヤエは副官として近くに置いておきたいし、誰が適任なんだろう?


「そうだなあ、誰がいいかな?」


 ヤエに聞いてみた。

 困ったときはヤエに丸投げだ。


 いや、むしろまったく困っていないとしても、面倒なことは全部ヤエに丸投げしたい。

 俺はただその豊満な胸を眺めていられればそれでいいのだ。


「はぅあ!」


 隣のスセリが放つ殺気で我に返ることができた。

 てか、やべえ、ヤエの胸は凶器すぎる。

 誘惑の魔法でもかかってんのかこれは?

 ちょっとでも気を許すと引きこまれてしまう。

 エリート妖精の俺さえも狂気に誘う凶器って、ちょっとやばすぎるだろうよ。


「適任がおられます」


 すぐさま答えが出てくるってさすがヤエ、マジ尊敬ですよ。


「誰?」


「サルダヒコ元帥です」


「えっ?」


「もともとツシマ国もイト国もサルダヒコ元帥の担当地なのです」


 サルダヒコ元帥は、ワ国の中でも特殊な存在だ。

 スサノオ大王からの信頼も篤く直属の軍隊を持ち、独自に外交を行える裁量権も持っている。


「今も南方方面に出かけているはずです。連絡や派遣などの実務はこちらでやっておきましょうか?」


「ああ、頼む」


 ヤエすごい、一発で面倒事が片付いた。

 後世で神と称えられるのも納得するすごい能力だ。


 スサノオ大王はまだクマノに戻っていないようなので、イト国への派遣は俺の裁量で行うことになった。

 まあ、とくに怒られたりはしないだろう。

 それよりも急がないと、あの地域で戦乱がはじまってしまいそうなのだ。

 派遣するのもホヒから託された俺の兵だし、そこも問題は無いと思う。

 3万人は多すぎてもてあましていたので、はっきりいってちょうどいいんだよね。


「そういえば・・・」


 面倒ごとが片付いたので、気になっていることを聞いてみることにした。


「高天原ってどこにあるの?」


「海の向こうの大陸だよ」


 ホヒがあっさりと答えた。


「えっ!?」


 なんとなく高天原って九州だと思ってたんだけど、大陸にあるのか?

 朝鮮半島なのか、その向こうの中国なのか、まあそこはいいとして、日本じゃないのかよ?

 俺は軽く混乱した。


「ホヒって大陸から来たの?」


「いやいや、イト国の西にあるヤマトの国からだね」


「ヤマト?」


 ちょっとなんだかわけわからなくなってきた。

 ヤマトって奈良とかあのあたりじゃないの?

 時代ももっと後だと思ってた。

 いや、名前が一緒なだけなのか?


「高天原の天照大神が統べるのがヤマトだよ」


「なんですと!?」


 大陸の国に九州西部が統治されてんの?

 そういえばツシマ国王が何代か前からイト国との交易が変わったと言ってたけど、それとも関係がありそうだ。


 神話の須佐之男尊(すさのおのみこと)は、高天原で乱暴を働いた罪で、出雲の鳥髪山(とりがみやま)に落とされ、そして奇稲田姫(くしなだひめ)を娶って八岐大蛇(やまたのおろち)を退治し、出雲国を建国したとなっている。


 この高天原が大陸にあるとすると、あっちで暴れて日本に追放されたということか?

 日本書記など多くの書でも、須佐之男尊(すさのおのみこと)新羅(しらぎ)から来たなどと書かれているし、そうなると辻褄(つじつま)が合うな。


 そういえば英雄イタケルも、スサノオ大王とともに海を渡ったと言っていた。

 あれって大陸から海を渡ってきたってことなのだろうか。


「ヤマトってイズモを狙ってる?」


「そうだよ」


 ホヒはあっけらかんと答えた。


「僕や兄もその使者として来たわけだし、スサノオ大王と天照大神は国譲りの盟約を交わしているからね」


「国譲りの盟約?」


「スサノオ大王が建国した国は、やがて天照大神に献上するって盟約さ。これによってこの大八島(おおやしま)は統一されることになるんだ」


 スサノオ大王の国造りは、天照大神にやがて献上するために行われているってことか?

 まあ、たしかにそう考えるといろいろ納得できるところもある。

 神話でも国譲り神話は上巻(かみつまき)のクライマックスだしな。


 そうするとスサノオ大王は天照大神の尖兵とも言えるのか?

 あのスサノオ大王より天照大神って強いのか?

 途方も無い話すぎて、ちょっとよくわかんなくなってきた。


「国譲りっていつ?」


「さあ、わからないね。僕や兄はそのために来たんだけど、キミを見て気が変わったからね。キミがより大きく強い国を造った時かな」


「じゃあ国を大きくしないほうがいいのか?」


「んん?」


 ホヒはきょとんとした顔をした。


「御館様、それはなりません」


 ヤエが真面目な顔で言った。


「一刻も早くこの国をひとつにして、大陸の強国と張り合わねばなりません。そうしないとこの国は切り取られ(むさぼ)られ、大陸の一部にされてしまうでしょう。スサノオ大王はそうならぬためにワ国を拡げておられるのです」


 大陸からの支配に対抗するために、この国をひとつにする必要があるということか。


「スサノオ大王は多くの破壊をもたらしますが、それは創造のための破壊なのです。そしてそれは大陸の脅威に抗うためのもの、その意思を継ぐ時期大王が御館様なのですよ」


 ヤエは俺が疑問に思ったことを的確に答えてくれた。


 スサノオ大王は平和な国に戦乱を持ち込んだが、それはより大きな戦乱から身を守るための手段をこの国に根付かせるためだというのだ。

 小さな視点では殺戮の征服者であるスサノオ大王は、大きな視点でこの国を守ろうとしているということなのだろうか。


 情報不足もあるし、叡智の祝福の思考加速でもうまくまとまらないが、スサノオ大王が為政者として稀有なレベルの存在であることは理解できてきた。


 こうして俺は国造りのための、あらたなる理由を得たのだった。

いつも読んでいただいて、ありがとうございます。

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