巨人対決は大迫力
「ニート?」
謎の巨人に殺られる、そう思ったときに俺たちを救ってくれたのは、なんと筋骨隆々の巨人に変身したニートだった。
「フンっ」
ニートは、受け止めている巨人の手を掴んで、小枝を振るかのように軽々と放り投げた。
巨人は一瞬で200メートルも飛ばされ、頭から地面に落ちて転がった。
何度もバウンドしながらさらに飛んでいく。
大音響とともに硬い岩が粉砕され、砂埃が煙のように巻き上がった。
300メートル以上飛ばされてやっと止まったようだが、倒れている巨人はピクリともしていない。
なんだこのニートの膂力は!?
「八十禍津日神とおっしゃられましたか!?」
スセリが血相を変えて問いかけると、ニートは余裕を湛えた表情で振り返って答えた。
「いかにも、あれは八十禍津日神、黄泉の穢れより生まれ落ちた災厄の神よ」
日本神話で黄泉の国から帰ったイザナギが禊を行ったときに、祓われた黄泉の穢れから生まれたのが災厄を司る神、八十禍津日神だ。
日本神話の神の中でもかなりやばい神で、はっきりいってラスボスクラスだ。
こいつはやばいという直感は正解だったのだ。
しかし、なぜここにそんな神がいるのだろう?
てか、そんなラスボスクラスの神を簡単にあしらってみせたニートって、一体全体何者なんだ?
「ニート、おまえ何者なんだ!?」
ニートは10メートルを超える巨人に変化しているが、その顔には面影がある。
しかし、その自信にあふれた表情や見にまとう覇気は、まったくの別物だ。
弱々しくてやる気の感じられなかったニートが、圧倒的な自信と余裕の塊になっているのだ。
「我は八十禍津日神の禍を直す神」
「なんですと!?」
ニートが神?
おいおい、どうなってんだ。
ダメ人間の代名詞とも呼べるニートの称号を持つ男が神だとは・・・。
まったくもって世界は驚きに満ちているぜ。
すると、八十禍津日神が、ゆっくりと立ち上がってくるのが見えた。
「ぁぁあああああ」
まだ300メートルくらい遠くにいるのだが、手に持った棒から黒い矢のようなものを撃ち出してきた。
そして、恐ろしい形相で走ってくる。
「スセリ、結界を!」
「まだ無理です」
くそう、魔力が回復してないのか、矢は10本以上飛んできているし、俺だけの結界では対処できそうにない。
「無駄なことを」
ニートが前に出て、飛んできた黒い矢を素手で弾き飛ばした。
そして、走ってくる八十禍津日神の前に立つ。
「この先に出口がある。我が止めている間に行かれよ」
ニートはそう言うと、向かってきた八十禍津日神の両手を掴んで、突進を簡単に止めて見せた。
「なんだこの有能なニートは!」
災厄の神の狂気の突進を、まるでそよ風に手をかざすかのように優雅に止めてみせるニートに、俺は驚きを隠せずにつぶやいてしまった。
「我のみでは完全に滅することはできぬ。これよりこの空間を破壊する。早く行かれよ」
ニートは、大きな口を開けて喰いかかりそうな八十禍津日神の右腕を肩の付け根から引きちぎった。
「あがああああああああああ」
髪を振り乱し絶叫する八十禍津日神の口に、ニートがちぎった右腕をねじこんでいる。
ニートすげえ、強い、酷い、憧れる。
「無理です。早く行きましょう。浄化魔法が持ちません」
「え?」
よく見ると、八十禍津日神の手に持つ棒の先や、ちぎられた肩の傷口から黒い埃のようなものが噴き出している。
それをスセリが浄化魔法で中和していたようだ。
どう見ても強烈な毒的ななにかだし、これはさすがに退散したほうがよさそうだ。
「ニート、名前は?」
「また会うだろう。我が名はなお・・」
「あぁぁあああああ」
ニートが名乗ろうとしたとき、八十禍津日神が口から黒い煙を吐いた。
「これは・・、飛ばすぞ!」
ニートが太い腕を振って、俺たちを結界ごと放り投げた。
マップを見ると、出口に向かっているようだ。
「爆発します!」
スセリが叫んだ。
すさまじい勢いで飛ばされ、ニートの筋骨隆々の背中が小さくなっていく。
次の瞬間、ニートと八十禍津日神が、黒い爆発に包まれるのが見えた。
「うおっ」
それと同時に黒いもやもやした球体状の出口に飛び込み、俺たちは女王の地下迷宮から脱出したのだった。
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