第十一話 説教と宴
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「え?」
翌朝、俺たちが村に帰ると伝えると、ミナは村に着いてくると言いだした。
ミナと呼び捨てにしているが、師匠と弟子になったので呼び方を変えたのだ。
「姫様は言い出したら聞きませんから・・・」
連絡をして駆けつけてきた家臣団のリーダーが、村への滞在料金を支払うということで、キクムさんも了承した。
村長のキクムさんがいいって言うわけだから、まあ、俺が口を出せることじゃない。
俺たちとミナ、そして6人の家臣団は連れ立って村に向かった。
荷物は俺が万宝袋に収納しているが、さすがに手ぶらではおかしいので、多少の荷物は背負った。
家臣団の人たちに、買出しなのに随分と荷物が少ないとつっこまれたけど、軽い買出しなのでと答えたら納得していた。
行きは川船だったが、帰りは荷物が減ったので歩いて帰った。
慌しかったけど、はじめての町での買い出しは楽しかったな。
湧き水のところで一回休憩をして、三時間ほどで村に着いた。
◇◇◇◇◇
そして今・・・
俺は正座させられている。
「なにしてるんですか?」
「サーセン」
「あの子は誰ですか? 塩の買い出しに行って、なんで女の子連れて帰ってるんですか?」
「サーセン」
目の前で俺を問い詰めているこの赤鬼は・・・ルウだ。
ルウがこんなに激しいなんて・・・。
おとなしい子だと思っていたのにマジで仁王。
なぜ怒られているのか、なぜ謝ってるのかわからないが、問答無用の迫力がある。
俺は謝罪を繰り返すマシーンと化していた。
「女の子を買ったんですか?」
「いえ、違います」
「じゃあなに?」
「着いてくるって言うので・・・」
「いくらで買ったんですか?」
「そういうのじゃないっす」
「あの子と一緒に宿屋に泊まったんですよね?」
「いえ、部屋は違いま・・」
「泊まったんですよね?」
「サーセン」
ルウは頭に血が昇っているのか、微妙に話が通じない。
言い訳をしようとするが、すぐさま追及の言葉で潰される。
あきらかに理不尽だが、あまりの剣幕に逆らえない。
30分以上しぼられて、今度、町に食事に連れて行くってことで許してもらった。
ミナは家臣団と一緒に、滞在用の家を作っている。
そんなに簡単に作れるのかと聞いたら、よくあることで慣れているらしい。
三日もあればできるとのことで、どんな家ができるのか楽しみだ。
キクムさんとジレさんは、俺が万宝袋から出した塩や道具なんかを、村のみんなに分配している。
夕方までには配り終えるそうだ。
そして、夜は俺たちが無事に帰ってきた祝いと、ミナたちの歓迎のために宴が催されることになった。
◇◇◇◇◇
宴がはじまった。
広場の真ん中に大きな火を焚いて、そのまわりを村人たちが囲んでいる。
誰もが笑いながら、食べて飲んで歌って踊った。
なんの肉だかわからないけど、やわらかくてうまい肉。
魚貝のスープはうま味がすごい。
果実酒が樽でふるまわれていて、みんな赤い顔だ。
おいしい笑顔、楽しい笑いが広場を埋め尽くしている。
キクムさんが太鼓を叩き、ルウが長くて白い布をはためかせながら舞った。
炎に照らされて揺れる影、ルウの白くて細い手足、目が離せなかった。
ミナの剣の舞も素晴らしかった。
四方と中央に邪魔外道を斬り祓う清めの舞。
銀の刃が空を裂いてきらめき、風の音がそれを追った。
ミナは剣術もかなりのレベルのようだ。
勝負を挑まれたら逃げようと決意した。
宴って本当に楽しいよな。
そう・・・。
そう思っていた時期がありました。
現在、ミナとルウが俺を挟むように座っているわけですが、空気が悪いです。
絶賛ギスギスしています。
楽しくないです。
両手に花ですが、トゲがすごいです。
二人とも顔は真っ赤で目がすわっていて、すごくいい感じに絡み酒です。
言葉の殴り合いは、とどまるところを知りません。
「わたしのほうが先にムイチくんと会ったんですぅ」
ぅのところを強調しながらミナを睨みつけるルウ。
「師匠」
ミナが俺の手を取ってルウに言い返す。
「わたしはムイチくんと同じ村人よ。あなたは村にずっといるつもり?」
「あい」
「姫様なんでしょ? 早く国に帰りなさいよ」
しかし、アレだ。
ルウって酔うときついな。
てか、間に俺がいる意味なくない?
「しかし、二人とも初対面なのに仲いいね」
「ハァ?」
軽く煽ったら二人ににらまれた。
結局、キクムさんとミナの家臣団が来て二人を連れて帰った。
俺も家に帰り、町で買ってきた石鹸で洗濯をした。
魔法でお湯を沸かしてみたが、思ったより簡単にできた。
叡智の祝福のおかげで、頭がよくなっている気がする。
しかし、今日はたくさん怒られたし、たくさん笑ったな。
明日からまた忙しくなるだろうし、村のこと、ミナの稽古、そして俺もしっかりしなきゃな。
そんなことを考えながら幸せに眠りについた。