女王の迷宮での出会い
「ひやっ」
痩せた男の悲鳴が迷宮にこだまする。
「あい」
ミナが黒いもやのような亡霊を、宝剣ライキリで両断する。
スセリの魔法の灯が、斬られて散る黒いもやを照らしている。
「なんだか不安定な場所だな」
俺たちは女王が出てきた穴の底から延びている横穴、女王の迷宮とやらを進んでいる。
二度ほど短い横穴を探索したが、とくになにもなかった。
それから先は一直線だ。
オートマッピングの地図を確認するが、どうも一定時間ごとに形が変わっているようだ。
一時間ほど進んでいるが、もう帰り道が無くなっている。
「奥へ進むほど零体が強く実体化しているように感じますね」
「どっちが奥だかもうわかんないけどな」
スセリが言うように、最初のほうは黒いもやだったものが、人の形に近くなってきていた。
実害は無いのだが、ミナがすべて斬り祓っている。
「あんた審神者だろ? 霊とかこういうの怖いのか?」
おどおどとミナの後ろを歩く痩せた男に問いかけてみる。
「わたしは女王の言葉を民衆に伝えるのが役目だ。霊と会うことなどないのだ」
痩せた男は、体力も胆力もない。
女王の弟だということだけで審神者をしていたようだ。
まあ、たしかに国王の器ではない。
王を譲りたがる気持ちも納得できるな。
痩せた男に合わせて進んでいるので、俺たちパーティーとしてはとても遅い歩みとなっている。
まあ、見捨てるわけにもいかないから、しかたないのだけれども。
「ヤカミ、灯の魔法は使えるか?」
「はい、できますよ」
「じゃあヤカミが灯を頼む。スセリは後ろに結界を張り続けてくれ」
「わかりました」
ヤカミが胸の前で両手を広げると、魔力が光り輝く球形になった。
その光に照らされるヤカミは、神々しいほどの美しさだ。
大きな目をふちどる繊細で長い睫毛、優しいラインの眉、鼻筋は通っていて、その下の唇はピンク色に輝いている。
黒髪の艶は、まるで天使の輪のようで、もうこれは完璧な女神です。
時間を忘れて見惚れてしまう美しさ、これが、この女神が俺の嫁になるのか!
「チッ」
軽くトリップしていた俺を、スセリの舌打ちとすさまじい殺気が我に返してくれた。
怖くてスセリのほうを見ることができないが、きっと鬼神も退く形相なのではないだろうか。
「あい」
4体の亡霊が現れたが、ミナが一振りで斬り飛ばした。
しかし、その後ろから、黒く実体化した亡霊が20体近く走ってきたのだ。
足があって走っている。
つまり、もうかなり人の形に近い実体化具合だ。
恐ろしい形相に、目が赤く光っている。
「ひぅっ」
痩せた男が悲鳴をあげた。
ナイス亡霊、よいタイミングだ。
スセリをごまかすことができた。
はっきりいって並の死霊より、スセリのほうが怖いのだ。
「ダララララララララ」
万宝袋から天地理矛を出して、大きく連突きを繰り出す。
「ミナ」
「あい」
俺の突きを抜けてきた亡霊を、ミナが宝剣ライキリで屠っていく。
「おまかせください」
スセリが浄化の魔法で、濃くなった魔素を散らす。
駆けてきた亡霊たちは、一瞬でその姿を消すことになった。
「かなりはっきりと実体化してきたな」
「奥になにがあるのでしょうか?」
「統率されていないし意思もないようだから、生者を攻撃する本能でやってきてるみたいだな」
「そうですね。組織だったものは感じません」
痩せた男はよほど怖かったのか、過呼吸になっている。
顔のまわりの酸素濃度を上げてやると、ほどなく回復したようだ。
「は、早く出ましょう!」
「いやまあ、出口に向かってんだけどね」
マップには出口らしきところがあるのだが、そこへの道も変化している。
距離はさほど遠くないのだが、迂回するように進まないといけないようだ。
さらに一時間ほど歩いた。
亡霊は200体以上も倒した。
時間で変化する通路に翻弄されながらも、出口には近づいている。
「あれ?」
「なんでしょうか?」
そこで俺は気づいた。
マップの中心にずっと変わらない部屋のような場所がある。
右側の壁の向こう側だ。
「この向こうに部屋があるみたい」
「部屋・・・でしょうか?」
スセリが不思議そうな顔をしている。
なぜ壁の向こうがわかるのかという顔だ。
「ああ、うん、昔そういうバイトしてたからわかるんだよね。ははは」
苦しい言い訳だが、なんとか納得してくれたようだ。
「あい」
ミナが宝剣ライキリで壁を斬り崩した。
「なんですと!?」
この壁って壊れるのかよww
ついついゲーム感覚で迷宮の壁は破壊不可能とか思い込んでたよ。
目からウロコだよびっくりだよ。
「っく、埃」
乾いた壁を壊した埃が晴れると、ぼんやりと広い部屋が見えてきた。
「あれ? だれかいる?」
部屋の中央に人がいる。
膝を抱えて座っているようだ。
うつむいていて顔は見えないが、痩せた男のようだ。
動く気配は無い。
「なにこの謎展開!?」
ミナが斬ろうとしたので止めた。
そうだ、ひさびさに鑑定してみよう。
座っている男に集中する。
《ニート》LV???
HP:???
MP:???
「なんですと!?」
ニートかよww
この時代にもいるのかよ!
てか、レベルとか見えないんだけどなんだこれ。
女王の迷宮のニート?
まったく意味がわからない。
すると、痩せた男が、ワナワナと震えている。
「に、兄さん!!」
「なんですと!?」
兄貴なのかよ!?
ってどゆこと?
意味わからない展開は続くのだった。
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