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大国主になった厨二 古事記世界でチート無双  作者: かぐけん&亜美会長
第七章 海人族とイト国の女王編
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事情を知ったら仕方ないでしょ

「な、なんだ!?」


 痩せた男は驚いて一歩下がった。

 兵士たちが痩せた男をかばうように前に出る。


「争いに来たのではありません。俺はワ国イズモから来た大波武一(おおなみむいち)です。ツシマ国ヤクマ王よりの証もある。女王に挨拶に来ました」


 証としてもらった金の腕輪を見せつける。

 男は腕輪をガン見している。


「挨拶だと? これは侵略(しんりゃく)ではないのか?」


 まあ、死人出てるし挨拶って感じじゃないわな。


「騒動を招いた責任は認めますが、侵略ではありません。死人が出たことは詫びます」


 なんか悪い気がしてるので、わりと敬語になっている俺がいる。

 神妙に頭を下げた。


 犯人のハッチは、柱の影からチラチラとヤカミを見ている。


「それはよい。この者たちは親衛隊などと自称して、国に俸禄をせびる寄生虫のような者たちだ。なまじ家柄と武力があるだけに困っていたのだ」


 嫌われ者っぽい隊長だったけど、本当に嫌われてたみたいだな。

 まあ、俺の嫁をねだった罪は、万死に値するから同情などしない。


「オオナムチよ。なんの挨拶なのだ?」


 痩せた男は落ち着きを取り戻したようで、部下に命じて死体を片付けさせている。

 ひ弱そうに見えたが、なかなか胆力があるようだ。


「スサノオ大王の娘ワカスセリ姫、そしてイナバ国王の息女ヤカミ姫、二柱の姫を娶り、次期ワ国大王となることを告げに来ました。今後の国交や交易について話したい」


「次期大王になられると!? スサノオ大王が崩御したと言われるか?」


「いえ、全然元気っていうか、あの人って死なないんじゃないですかね」


 スサノオ大王、あれは異質だ。

 神だと言われても素直に頷けるし、むしろそうでないとおかしいほどの力を持っている。

 身長3メートルくらいあるし、人類とは思えない。

 全身からほとばしる暴の覇気は、思い出しただけで身震いがするほどだ。


「女王に会わせてもらいたい」


 痩せた男は返答に困っている。


「どうしてもと言われるか?」


「次期大王として会っておきたい」


 俺がそう言うと、痩せた男はさらに考え込んでいる。


「いいでしょう。着いて来られるがよろしい」


 しばらく考え込んでいたが、観念したようだ。

 奥の壁にある大きな扉が開けられ、痩せた男に先導されて、俺たちは広い部屋に足を踏み入れた。


「暗いな」


「広い部屋ですね」


 俺のつぶやきにスセリが答える。

 部屋はとても広いが、かなり暗い。

 痩せた男は松明に火を点けている。


 最後尾のミナが部屋に入ると、扉が外から閉められた。


 部屋に入ったのは、痩せた男、俺、スセリ、ヤカミ、ミナの五人だ。

 ハッチは部屋に残っている。

 痩せた男は護衛も連れていないが、いいのだろうか?

 ちょっと無用心だと思った。


「この部屋にわたし以外が入るのは8年ぶりだ」


 先頭を歩く男が言った。


「なぜ?」


「着いてくればわかる」


 暗い部屋の奥へと進んでいく。

 松明に照らされるている範囲には、なにも無い。

 女王の間とは思えない異様な雰囲気だ。


 20メートルくらい歩いているが、ここが宮殿の最深部だろう。

 玉座が見えてきた。

 暗くてよく見えないが、女王が座っているようだ。


 痩せた男が松明をかざした。


「こういうことだ」


 照らし出されたのは、女王のミイラだった。

 玉座に腰掛けたまま息絶えている。

 安らかな死に顔だが、死後どのくらい経っているのだろうか?


「女王の死を隠してるのか?」


「女王陛下の意思なのだ。この国は女王でしか治まらぬ。後継の女王を擁立するまで死を隠す必要があるのだ」


「なぜ次の女王を立てない?」


「見つからぬのだ。次期女王となられるはずの姫は行方知れずだ」


「生きているのか?」


「幼きときに国を出たらしいのだが、女王が存命中に、一度戻られたことがあるらしい。国を統べる器となって、いずれ戻ると宣言されたそうだ。またすぐに国を出られたそうだが、その姫が戻り女王として統治していただけるまで、女王の死を隠す必要があるのだ」


「姫の行き先は?」


「わからん。隣国にいるとも、海の向こうの大陸にいるとも聞いた。手の者を放って探させたが、手がかりすら掴めていない」


「このことを知る者は?」


「おらぬ。知った者は粛清した」


「俺たちになぜおしえた? 俺たちも殺す気か?」


「まさか。そなたらのような強兵を討てる者はこの国にはおるまいよ。隠せないと判断しただけだ。それに、一人で抱え込むには、わたしももう疲れた」


 痩せた男は、悲壮な顔でため息をついた。


「次期大王よ。この国の先行きは暗い。国を出る者が後を絶たず、町はすっかり寂れてしまった」


「なぜ王にならない? 女王でないとダメだというなら、他の女王を立てるわけにはいかないのか?」


「わたしは女王の弟だ。姉の最後の言葉を(たが)えることはできぬよ」


 この痩せた男は、女王の弟だったのか。


 女王が統治する国、弟が女王の世話をしていて、女王が死ぬと国が乱れる。

 邪馬台国の卑弥呼の話ととても似ているが、時代が違うよな。


 神話知識と照らし合わせてみたが、解決のヒントや糸口は見つけることができない。

 さて、どうしたものかね。


「次期大王オオナムチよ頼みがある」


「なんでしょう?」


「女王が王を任命する神託を受けて崩御したと宣言する。この国の王になってもらえぬか?」


「なぜ俺が? あなたが王になればよいのでは?」


 何を言い出すんだこの男は・・・。

 まったく意味がわからない。


 しかし、痩せた男は強い口調で続けた。


「わたしでは器が足りぬ。それは自分がよくわかっている。この国の荒れ様を見れば、器が無いのはわかるだろう?」


 痩せた男は自虐的に笑った。

 まあ、たしかに死んだ女王を隠しながら、8年間も政治を担ってきたのだ。


 権威は女王にあるままだとしても、実際の政策判断は行ってきたのだから、その結果として町が寂れていることは、この男の能力不足を如実(にょじつ)に示している。

 託された故国が寂れていくのは、ものすごく辛いことだと思う。

 むしろ、8年間もよくがんばってきたと感心するくらいだ。


「王になられるべきです」


 スセリが強い目で俺を見て言った。

 ヤカミも同意して頷いている。


「しゃーないな」


 覚悟を決めた俺は、イト国の王になったのだった。

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