横取りの報い
ブックマークありがとうございます。
猟奇的なシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
「フグーフグー」
ハッチが猿ぐつわの隙間から声を出す。
「ミナ」
「あい」
ミナの大剣がガキンと音を立てて、鎖で巻かれて芋虫のようになっているハッチを沈黙させた。
トガ山で盗賊を捕縛した俺たちは、イト国首都に戻り、女王の宮殿へと向かっている。
俺がハッチを引き摺っているのだが、時折意識を取り戻しては騒ぐのだ。
もう60回くらいミナの大剣で殴られているが、ハッチの耐久力にはほんと驚かされる。
「街並みが整ってきましたね」
「ああ、さすがに女王の居住区だからな」
首都でありながら廃墟率9割のこの町だが、さすがに廃墟は見られなくなってきた。
往来を歩く人も見受けられるようになったが、誰もが道の端をとぼとぼと歩いている。
なんだか活気の無い町だ。
「長官、昔からこんな感じなのか?」
役場にいたハゲで太った男だが、長官という役職らしい。
なんの長官なのかはわからないが、まあ偉い人のようだ。
だが、その偉い人は、ミナに対して羊のように怯えて震えている。
「い、いえ、5年前まではとても栄えていました。ところが国中に病が流行り、多くの者が死にました。そして、女王がまったく姿を見せなくなってから、急速に町は寂れていったのです」
「なぜ女王は姿を見せない?」
「病を祓うための祈りを捧げているそうです」
「ずっとか?」
「はい」
すると、前から20人ほどの兵士の一団がやってきた。
立派なヒゲの隊長っぽい男が、一歩前に歩み出る。
「ゴトー長官、こんなところでなにをしている?」
ああ、この長官がゴトーって名前なのか。
「トガ山の盗賊を捕縛しまして、宮殿に報告に赴くところでございます」
「ほう、そこな者か?」
隊長っぽい男が引き摺られるハッチを見ている。
「はい、討伐隊を組織したのですが、こちらの者が捕縛したのです」
「ほう、イト国の者ではないな?」
「ワこ・・」
名乗ろうとしたらゴトー長官に遮られた。
「ツシマ国の漁民でございます」
「女子供もいるではないか?」
「こう見えても使い手なのです」
隊長は不審そうな顔で俺たちを見ているが、俺たちが使い手なのは事実だ。
ミナがまた殴りそうなので止めておく。
さすがに女王謁見前に騒動はまずいだろう。
まあ、女王と会うのはむずかしそうな感じだけどな。
「よかろう。それでは我らが護衛してゆこう」
「いえそんな宮殿はそこですから護衛の必要はありませんよ」
ゴトー長官は、なにやら慌てている。
「我らは女王親衛隊である。女王との謁見となれば我らが責務である」
「くっ、わかりました」
ゴトー長官は、苦い顔をして頷いた。
どうもこの隊長っぽい男にいい感情を持っていないようだ。
まあ、たしかに悪いというか狡猾そうな顔をしている。
俺たちの左右を兵士たちが護衛して、宮殿に向かっていく。
ほどなくして宮殿が見えてきた。
「すごい兵士の数だな」
「そうですね。なにかあったのでしょうか?」
宮殿を取り囲むように兵士が隙間無く立っている。
いくらなんでも過剰警備だろう。
俺とスセリが不思議がっていると、女王が姿を見せなくなってからずっとこうだとゴトー長官が小声でおしえてくれた。
宮殿の入り口に着いた。
隊長の指示で、盗賊を引き摺っている鎖を兵士に渡した。
そして、そのまま宮殿奥の広間に向かった。
「なかなかでかいな」
巨大な広間には太い柱が規則正しく並んでいて、天井は高い。
部屋の奥の壁には大きな扉があって、その手前の玉座に痩せた中年の男が座っている。
その左右には近衛兵だろうか、槍を持って鎧をつけた兵士たちが整列している。
「ニシム隊長、どうした?」
痩せた男が立ち上がって声をかけてきた。
「トガ山の盗賊を捕縛し、連れてまいりました」
親衛隊と名乗った男は、ニシム隊長という名前らしい。
ずるそうな笑いを口もとに貼りつけて、不快感の高い男だ。
「そうか。それはよかった。民も安堵しよう。して、どうやって捕縛したのだ?」
痩せた男はほっとしたような顔を浮かべた。
民を思う気持ちが伝わってくる。
ニシム隊長やゴトー長官が悪党面なので、余計にいい人そうに見えてしまうな。
しかし、何者なのだろう。
「そ、」
ゴトー長官が何か言おうとしたがニシム隊長に遮られた。
「我が親衛隊が山狩りの末に、捕縛したのです」
「なにを!?」
「ゴトー」
「ぐぅ」
ニシム隊長が冷酷な目で睨みつけ、ゴトー長官を黙らせた。
どうやら手柄を横取りしたんだな。
ゴトー長官は歯軋りをして悔しがっている。
てか、捕縛したのは俺たちなんだけどな。
横取り基本って、やっぱここは修羅の国だ。
ミナが暴れそうなので、止めておいた。
手柄に執着はないし、目的は女王への挨拶とこの国の見極めだ。
ここで暴れる意味はない。
スセリもそれには同意のようだ。
「後ろにいる者たちは何者なのだ?」
痩せた男が俺たちに目を向けた。
「ツシマ国からの貢物の生口です」
ニシム隊長が答える。
生口ってのは奴隷のことだ。
そういえば村の族長にも勘違いされたし、そういう風に見えるんだろうか。
てか、この隊長も出まかせ言いたい放題ですごいな。
武力が高そうには見えないし、こうやって権謀術数で出世したんだろうな。
まあ、好かれるタイプじゃないよな。
スセリが怒っているようだが、耐えろと諌めた。
俺たちには目的があるし、怒りは判断を狂わせる。
どう思われたところでたいした問題ではないし、むしろ成り行きが楽しみになってきた。
そういやツシマ国王から証にもらった金の腕輪があるし、某黄門様みたいにババーンと正体を明かすのもいいな。
いや、これいいんじゃない?
ちょっとワクワクしている俺がいる。
「それでお願いがあるのですが」
ニシム隊長がなにかを願い出た。
「なんだ?」
「此度の褒美として、そこの生口の娘をいただきたいのです」
ニシム隊長がヤカミを指差している。
ブチリ、俺の頭の中で何かがキレる音がした。
「ナンダオメリャコリャ!」
あまりの怒りに得体の知れない叫びをあげたところで、スセリ、ヤカミ、ミナの三人に止められた。
「ダメです。暴れてはダメだとおっしゃったではないですか?」
俺の嫁を、マジでこいつは許さん。
すると、ジャキーンと硬いものを断つ音がして、鉄の破片が宙を舞った。
「むお!? ハッチ!?」
鉄の鎖を断ち切って立ち上がったのは、両手に神剣アメノムラクモを握るハッチだった。
「俺様をこんな目に合わせたのはどいつだ!?」
怒りに燃え盛る目のハッチ、殺気がやべえ。
ミナに殴られすぎたのか、記憶が混同しているようだ。
つまりチャンス!
今がチャンス!
「ハッチさん、こいつです!」
ニシム隊長を指差す。
「ターゲットロックオン!」
自分で捕縛したと宣言していたし、このままその流れでいこう。
「絶対最後審判」
ハッチは振りかぶった神剣アメノムラクモを踏み込みながら振り下ろした。
一瞬で10メートルほど駆け抜けて、ニシム隊長と親衛隊を斬り飛ばした。
あきらかに全員即死、ハッチ容赦なさすぎ。
ちなみに俺はいかれたジジイに育てられたせいで、殺人に対しての禁忌感は無い。
この世界で人を殺さないようにしてるのは、国を富ませるために人口を増やしたいからだ。
「ブァブア」
ゴトー長官が恐怖に怯えている。
ハッチはまだ殺り足りないようで、あたりを見回している。
さて、止めておくか。
「ヤカミ」
ヤカミがハッチの前に歩み出た。
「もうやめてください」
「アババババアババ」
一瞬で惨状を作り出したハッチは、ヤカミの美しさで一瞬で無力化されたのだった。
いつも読んでいただいてありがとうございます。