イト国の女王は邪馬台国の卑弥呼なの?
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男たちの案内で、森を30分ほど歩くと村に着いた。
そこは小さな村だった。
村というよりは部族で住んでいるという感じだ。
中央に大きな家があり、まわりに4軒ほどの家がある。
中央の家の前には広場があって、母親と子供たちだろうか、なにやら作業をしている。
「ここでシシを出してくれ」
広場の端に小川が流れていて、そのほとりにイノシシ三頭を出した。
火を焚いた跡があるので、ここで焼いて食べるのかもしれない。
「すげえすげえ」
イノシシを見て子供たちが集まってきた。
赤ハチマキの男の足元にじゃれついている。
「だれ?」
男の足に隠れている子供が、俺たちを指差して聞いた。
「イノシシを獲るのを手伝ってくれた人たちだ。客人として村に迎える」
赤ハチマキの男は子供の頭を、わしゃわしゃと撫でている。
「さあ、族長のところに行こう」
赤ハチマキの男に連れられて、俺たちは族長のもとに向かった。
他の男たちはイノシシ肉の処理をするようだ。
村の北側は岩山になっていて、その下に族長の家があった。
家に入ると、白い長髪とヒゲの老人が地面に座っていた。
「森で出会った客人だ。シシを仕留めてくれた」
俺は軽く礼をした。
族長は無言でじっとこちらを見ている。
族長の娘だろうか?
部屋には若い女が三人いて、そのうちの一人が敷物を敷いてくれた。
俺たちが座ると、もう一人の女がお茶を煎れてくれた。
赤ハチマキの男も座って、車座になった。
「どこから来なさった?」
「ワ国イズモから船で来た」
少し迷ったが正直に答えた。
スセリやヤカミは、やはり言葉がわからないようだ。
まるっきりわからないというわけではなく、ものすごく訛りがきつくて理解できないらしい。
俺は翻訳の祝福の力で、言葉が変換されているので、どう訛っているのかはわからないのだ。
「イズモか。遠い東の国だな。なにをしに来なさった?」
「イト国の女王に挨拶にきました」
「なぜ森にいたのじゃ?」
「船でついたところが森の近くでした」
老人は目を閉じてなにか考え込んでいる。
「イト国の女王に挨拶とは、そなたらは通信使か?」
「まあそのようなものです」
次期大王とは名乗らなかった。
スセリやヤカミが名乗ろうとしたのも止めた。
スサノオ大王の娘とかイナバ国王の娘とか、話がややこしくなりそうだったし、この小さな部落の族長に、名乗る必要性を感じなかったからだ。
「仲間はどうした?」
「仲間?」
「海を渡ってきたのだろう? 他の者はどうした?」
そうか、この時代の航海は船団での渡海だ。
20隻とかの船で船団を組んで航海するわけだから、俺たち4人では少なすぎるわけだ。
一艘で10人としても20隻なら200人になる。
族長は、残りの196人の所在を尋ねているわけだ。
男一人に女三人、しかも一人は幼女だ。
これで海を越えてきたっていうのは、たしかに信じられないだろう。
帆で風を受けたり、櫓を漕いだりする古代の舟からすると、俺たちの高速船レインボーでの航海は異質すぎるのだ。
さすがにこれは説明のしようがない。
「途中の嵐で他の船は沈みました。俺たちは流されて海岸に着いたんです」
いろいろめんどくさいので沈んだことにした。
「それは悪いことを聞いた。そうか、そなたらは生口なのじゃな。これで合点がいった」
族長は一人ごちて、目を閉じてうなずいている。
「生口ってなんだっけ?」
小声でスセリに聞いた。
「外交の貢物として贈られる奴隷のことを生口というそうです。ワ国にもたくさん贈られていました」
なんと、俺たちは奴隷と勘違いされているようだ。
まあ、船乗りには見えないだろうから、まあ、それでもいいか。
俺の金の腕輪や、スセリやヤカミの服の仕立てがよいのも、生口を飾る貢物だと勘違いしているっぽい。
「それでもイト国に行きなさるのか?」
「ええ、その目的で来ましたから」
族長が憐憫の目で聞いてきた。
なぜ逃げないのかと聞いているのだろう。
奴隷として贈られるはずが、船が沈んで助かったと思われているのだ。
「なんとも潔い御仁たちじゃ。明日の朝、イト国まで案内させよう。今夜の晩餐は馳走をさせてもらう」
族長はいたく感動したようで、その日の夜はイノシシの焼肉をはじめ、すごいご馳走をしてくれた。
スセリたちは族長の娘たちのところに泊まり、俺は赤ハチマキの男の家に泊まることになった。
「イズモはあれほどの姫を贈るのか?」
俺は赤ハチマキの男の家で、さらに飲み直しているところだ。
つまみの干物がやたらうまい。
「ええまあ、そんな感じです」
めんどくさいので投げやりな返事だ。
「すごい国なのだな」
「ええ、栄えていますね」
「スサノオの国なのだろう?」
「ええ、知ってるんですか?」
「スサノオを恐れてイト国の女王は隠れたのだ。それからこの地は乱れている」
「え? 女王って隠れてるんですか?」
「もう何代も女王は姿を現さぬ。祭りにも出てこない。宮殿のまわりは兵が固め、女王の言葉を伝える男だけが女王と謁見しているそうだ」
「では、女王とは会えないんですか?」
「族長も祭りへの女王の参加を願い出たが、聞き入れられなかった。ツシマ国の王ですら会えなかったらしい」
ああ、ツシマ国ヤクマ王が、イト国の女王に会いに行くと言った俺に複雑な顔をしていたのはこのことか。
イト国の女王には、会うことができなくなっているんだな。
てか、何代も姿を現さないって、それって生きてるんだろうか?
「スサノオ大王はなにをしたんですか?」
「海からやってきて女王を恐れさせた。俺はくわしいことは知らん」
っく、あの男はなにをしてるんだ。
まあ、存在だけで怖いから、なにもしなくても恐れさせるだろうけどな。
ああ、思い出したら怖くなってきた。
ほんと、トラウマ製造機だよなスサノオ大王って・・・。
イト国に案内してもらえるが、女王と会えない可能性が高いわけか。
それと、ふと思ったけど、スサノオを恐れて隠れる女王って、神話の天照大神の岩戸隠れの話とそっくりだよな。
てか、そういえば天照大神ってどこにいるんだろ?
高天原ってどこだ?
ホヒやヒナに、もっと詳しく聞いておけばよかったな。
ん、そう言えば、イト国の女王って、現代では卑弥呼だとする説もあるんだっけ?
さっき聞いた話って卑弥呼の話と符号するよな。
邪馬台国の卑弥呼は、誰とも会わないで弟だけが世話をしてるってやつ。
でも、魏志倭人伝は三世紀の話で、今はまだ紀元前のはず。
イト国の女王、スサノオ大王、天照大神、卑弥呼・・・。
まあ、謎だらけで意味わからないけど、とりあえず寝よう。
俺は明日に備えて眠ることにした。
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