九州に上陸したら第一村人は狩人
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天気はよく海は凪いでいて、航海は順調だった。
「お昼にしよう」
まだ外海だし、なにが起こるかわからないので、船室ではなくデッキで昼食にすることにした。
万宝袋から弁当とお茶を出して、みんなに配った。
「イト国って知ってる?」
スセリもヤカミも知らないようだ。
ミナは話を聞いていない。
弁当をパクパクと食べている。
「オオナムチさんは知っておられるのですか?」
スセリが聞いてきた。
「場所だけはなんとなくわかるけど、どんな国なのかはわからないな」
「ツシマ国王は、イト国の話をしているときにおかしな感じでしたね」
「そうだな。ツシマ国とイト国はあまり仲良くないのかもしれないな」
ツシマ国とイト国は、何代も前から国交を断絶している。
イト国からの通信使はツシマ国に来るが、ツシマ国からイト国へは行かないので、イト国のことはよくわからないらしい。
不確定な情報ながら、イト国のある九州北部は戦乱も多いようだ。
「海岸から上陸して、徒歩でイト国に入るか」
「港から正式に入国されないのですか?」
「ああ、実情がわからないからな。港の海人族は気が荒らそうだし」
現代でも港の船乗りたちは気が荒い。
おそらく古代でも変わらないだろう。
実際、アマやツシマで見た海人族たちは、色黒で刺青をしていて気が荒かった。
荒々しい海で生きるには、荒々しくなる必要があるのだろう。
「船に出会いませんね」
「ああ、海流を無視して東に進んでるからな。この船だからできる芸当だ。この航路なら海人の船には出会わないと思う」
イト国から九州に向かう場合、海流に乗って九州北部の西側を目指すのが普通だ。
現代でいう博多とかあのへんだ。
しかし、この高速船レインボーはスクリューによって航行するので、海流や風に依存しないルートでの渡海が可能なのだ。
いざとなったら水中翼を伸ばして、魔法を推進力とした超高速航法も可能となっている。
航海は順調で、崖に囲まれた小さな砂浜が見えてきた。
推進が浅くなってきたので、上陸用の小船に乗り換えて、高速船レインボーを万宝袋に収納した。
「さあ、上陸だ」
砂浜に上陸した。
九州に来るのは、現代も含めてはじめてだ。
「俺が先に登ってロープを下ろす」
「はい」
ジジイに仕込まれていたので、俺は崖登りが得意だ。
岩のでっぱりやへこみに手足をかけて、10メートルほどの崖をあっという間に登ってみせた。
崖の上からは平地になっていて、しばらく行くと森になっている。
危険は無さそうだ。
万宝袋からロープを出して、崖下に向けて垂らした。
「全員つかまったら引っ張りあげる」
スセリたちがロープにつかまったのを確認して、ゆっくりと引き上げる。
無事に全員が崖の上に立った。
「荒野と森だな。イト国の港までは30キロくらいあると思う」
オートマッピングのマップ表示で、イト国の港の位置はわかる。
今はマップの表示が黒くなっているが、訪れたところは明るくなって情報が補完される仕組みだ。
「来られたことがあるのですか?」
「いやはじめてだ。まあ、なんとなくわかるんだよ」
スセリは不思議そうな顔をしている。
たしかに、なんとなくわかるでは、納得できないのが普通だよな。
「森を進もう」
森は危険だが、俺たちには問題ない。
知らない土地で勝手がわからないこともあって、平地を避けて森の中を進むことにした。
「ヤカミ、火魔法は目立つから使わないようにしてくれ」
「はい、わかりました」
俺が先頭を歩き、スセリとヤカミが並ぶ。
最後にミナが後方を警戒しながら続く、いつもの隊列だ。
「透明穏形」
スセリが、気配を消して透明化し、発見されにくくなる魔法を唱えてくれた。
俺たちよりレベルが低いやつらからは、姿が認識されなくなる魔法だ。
ちょっと警戒しすぎかとも思ったが、まあトラブルは避けるに越したことはない。
すると、森の奥から騒がしい音が聞こえてきた。
「なんでしょう?」
「狩りだな。獲物を犬で追い立ててるみたいだ」
耳を澄ますと、大型の獣が複数、多くの犬と人に追い立てられているようだ。
透明化しているせいで、俺たちに気づかずにこっちに来る。
「近づいてきますね」
「そうだな。まあ、透明化しているしやりすごそう」
そうこうしているうちに、大きなイノシシが三頭、俺たちの目の前に飛び出てきた。
「あい」
ミナの大剣が横一文字に振りぬかれ、三頭のイノシシは頭を割られて地に倒れた。
「えっ!?」
やりすごそうと言ってるのに、ミナはコントロールできないw
攻撃したことでミナの透明穏形は解けている。
そこに追いかけてきた犬たちが、ミナを遠巻きに取り囲んで、低いうなり声をあげている。
本能で強者がわかるのか、けしてミナに近づこうとはしない。
まあ、逃げないのは立派だ。
「なんだおまえは!?」
犬に遅れて、男達が3人やってきた。
色黒で全身に刺青をしている。
海人族っぽいが、刺青の感じが違うような気もする。
先頭の話しかけてきた男は、赤いハチマキをしている。
主人が来て気が大きくなったからか、犬が激しく吠えたが、ミナが剣を振り上げると小さく鳴いて飛び下がった。
「旅人だ」
俺は、あきらめて透明穏形を解いて、男達に答えた。
このままだと犬も男達もミナが斬りかねないからだ。
「言葉がわかるのですか?」
「ああ、わかる」
スセリやヤカミは、男たちの言葉がわからないようだ。
俺は翻訳の祝福のおかげで理解できているらしい。
「どこから来た?」
「海だ」
遅れて二人の男がやってきて、男たちは5人になった。
なにやら相談をしている。
「俺たちの獲物だ」
「ああ、目の前に出てきたから斬っただけだ。俺たちはいらない」
獲物のイノシシを俺たちに取られるのではないかと警戒していたようだ。
イノシシはいらないと答えると、男たちに安堵の雰囲気が広がった。
「近くに村があるのか?」
「なぜ村のことを聞く?」
「今夜の宿を借りたい」
俺は土魔法で簡単な家を作れるし、宿泊に問題は無いのだが、情報収集もかねて村に行きたいと思ったのだ。
やっぱ知らない土地に行ったら、まずは村人の話を聞くのがセオリーでしょ?
「もてなしはできんぞ?」
「食料なんかは持っている。寝るところさえあればいい」
男たちは相談の結果、イノシシを運ぶのを手伝うことを条件に、村に入れてくれることになった。
巨大なイノシシ3頭を5人で運ぶことができないからだ。
「血抜きもしようか?」
「川は遠いぞ?」
イノシシなどの獣は、死んでから血が体内をまわると臭くなる。
普通は内臓を取り出してから、川の流れにさらして血抜きをするのだ。
俺は隠れ里で野うさぎの血抜きをマスターした男だ。
イノシシの腹を割いて内臓を取り出すと、スセリに水魔法と浄化で血を洗い流してもらった。
「不思議なやり方だな」
赤ハチマキの男が感心している。
「ついでに村まで運ぶよ」
俺がイノシシを万宝袋に収納すると、男たちはイノシシを奪われたのかと勘違いしたようだ。
何度か万宝袋から出したり入れたりして説明すると、やっと納得してくれた。
男たちの案内で、俺たちは村に向かった。
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