古き神とかでかすぎるって
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「海神じゃん」
振り向いた俺はあっけにとられた。
海面から20メートルはあるだろう龍が、静かに俺を見下ろしていた。
もう少し小さかったら反射的に攻撃したのだが、あまりにでかくて予想外で、つい驚いて固まってしまった。
「神龍かよ」
ワニのような巨大な口、大きな目玉には知性が宿り、頭頂部には二本の角が天に伸びている。
蛇のような胴の途中にある腕は、身体に対しては小さいが鋭い爪が光っている。
青空と青い海、でかい龍。
なんだよこのシチュエーション、まるで意味がわからない。
まあ、突然に攻撃してこないだけマシな状況か、いやでもこれどうしよう?
「あの、こういうの海にはよくいるわけ?」
海人族に聞いてみると、首をぶんぶんと横に振っている。
「遠い国の伝説として聞いたことはあるが、見たのははじめてだ」
「スセリやヤカミは知ってる?」
「いえ、わかりません」
龍はただこちらをじっと観察しているようだ。
「じゃあ、みなさん帰りましょうか」
そっと帰ったら見逃してくれないだろうか?
わずかな期待で行動に移す。
そう、つまり逃げるのだ!
すると、龍の口が微かに動いた。
「小さき者よ!」
「うぁお! しゃべった!」
龍がしゃべった。
腹の底まで響く重低音、落ち着いた声だが威圧感はすごい。
「わかるのですか?」
スセリが聞いてきた。
どうも、俺しか言葉がわからないらしい。
翻訳の祝福の効果で、この龍の言葉がわかるようだ。
「我が名は神龍、おまえはどこで龍言語を覚えた?」
ほんとに神龍かよ。
そのまんまじゃねーか。
敵意は感じないが、逃げられそうにはなくなった。
会話か、俺ってコミュ障なんだけどな・・・。
海面から20メートルの高さに直立する蛇のような身体、硬そうなこげ茶色の鱗に覆われた蛇体は、直径6メートルはありそうだ。
その蛇体の上には、神社の彫り物にある龍のような頭がついている。
ワニのような口は、一軒家を丸ごと飲み込めるほど巨大なものだ。
こんなの日本にいたのかよ?
いや、学校でも習ってないし、ありえないだろ。
龍って伝説上の生き物じゃないの?
想像上の生き物、幻獣ってやつだよな。
龍言語?
いや、そんなの全然知らんし。
「わかんないっす」
俺は青ざめながら答えた。
蛇の洞窟の大物主もでかかったが、これはその倍はでかい。
角とか生えてるし、マジ怖いんですけど。
「むう?」
神龍が顔を寄せてきた。
思わず少し下がる。
スセリとヤカミが俺の腕を掴む力が強くなった。
ミナだけが動じていない。
俺のすぐ前に大型トラックのようなサイズの顔がある。
鋭い牙は俺の胴より太い。
この新造船レインボーごと食べられたとしても、とくに驚かないほどの大きさだ。
「おまえたちはミコトか? それにそこの娘、スサノオの子か?」
「スセリはスサノオ大王の娘だ」
「わたしのことを聞かれているのですか?」
スセリが小声で尋ねてきたので、そうだと小さく返した。
「スサノオ大王を知っているのか?」
俺は精一杯の虚勢を張っている。
なめられないようにだ。
まあ、その考え自体が小さいとも言えるが、みんなを安心させるためにも強い態度で臨もう。
「やつは海の王に据えられた忌々しい男。海を与えられながら海を統べず、天に昇って地に堕とされた。数多に別れ消えゆく者だが、そうか、おまえがスサノオの後継か」
神龍の目がギョロリと動いた。
「ああ、いずれ大王となり豊かな国を造るつもりだ」
「ハハハ、まったく敵わんな。我ら古き神の時代も終ぞ仕舞いというわけか。二柱の神より別れ出でて、三貴子により栄えるか。まあ、仕方あるまい。流れには逆らえぬ」
「流れとは?」
「その流れを担うミコトたちよ。ヒトが世をどう固めるのか、導いてみせるがよいわ。わしの力も弱くなり眷属も智慧を失くしていく。もはやヒトとは交わらぬ」
「ヒトが世を固める?」
「そうだ。我らは個ではヒトを凌ぐが、ヒトは数で我らを凌ぐ。ヒトの増える力には敵わぬ。そしてヒトの想念の力が世の理を固めるのだ」
うむ、わかるようなわからないような、どういうことだ。
ヒトが増えて、想念の力で世の理を固める?
イメージと魔力で魔法を実現するように、想いの力が世界を作っていくということか?
なんか哲学や物理学でそういう研究があった気がするな。
叡智の祝福の並列思考で、考えさせておこう。
もちろんメインの思考からは切り離しておこう。
頭の中がむずかしいことでいっぱいなのはいやだし。
「我が眷属を撃退するのは何者ぞと出てみたが、ミコトが揃っておるとは驚いた。盟約により我はミコトには手が出せぬ。国造り楽しみに見ておるぞ」
神龍はそう言うと、大きな渦を作りながら海中に消えていった。
俺は気が抜けて座り込んだ。
「マジびびったわ」
「どういう話だったのでしょうか?」
スセリが聞いてきた。
俺が簡単に説明すると、スセリは考え込むような仕草を見せた。
「ツシマに向かっているのか?」
助けた海人族の男が声をかけてきた。
「ああ、ワ国イズモの大波武一だ。ツシマ国王に会うための先触れも出している」
「わかった。先導しよう」
予定外の神龍との遭遇に驚いたが、俺たちは当初の予定どおりツシマに向かうことにした。
いつも読んでいただいて、とても感謝しています。