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大国主になった厨二 古事記世界でチート無双  作者: かぐけん&亜美会長
第七章 海人族とイト国の女王編
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焼きイカはヤカミの仕事

ブックマークや評価ポイントありがとうございます。

 ミホの岬を出て西へ舵を切る。


「ツシマまで直行されるのですか?」


「ああ、そのつもりだ」


 この時代のワ国の版図は限定的で曖昧だ。

 スサノオ大王が国を連合に組み込んでいるが、そもそもそれらの国がまだ草創期なのだ。

 山奥や離島などの辺境の集落は、独自に狩猟採集で生きているようだし、地図の上に国の形を描くのがとてもむずかしい状況なのだ。


 陸地に上陸すれば現地人との交流に時間を取られるだろうし、もしも敵対する勢力がいたならば戦闘になってしまうだろう。

 だからツシマまで直行することにしたのだ。


 今回の遠征の目的は、海路の把握と海人族の首長に会うことだ。

 陸路や交通機関を発展させるには、かなり時間がかかるだろうし、輸送の主役はしばらくの間は船になるだろう。


 その土地にあった食料を生産し、海路の交易によってワ国内に行き渡らせるのだ。

 ひとつの国で農産物や家畜などのすべてをまかなうのは、気候や地形、地質によって不可能だからだ。


 また、イズモやホウキの鉄を使った道具の流通も必要になってくる。

 海上交易を掌握することは、大王としてとても重要なことなのだ。


 だから俺はツシマに行く。

 冬になる前に、なるべく早く行かなければならないと判断したのだ。


 天気はよく海は凪いでいる。

 航海はとても順調だ。


 全長18メートルの新造船は、俺の知識と叡智(えいち)の祝福による思考加速、並列演算などをフルに使って設計し、魔法を使って造船した最新鋭の船だ。

 この世界ではオーバーテクノロジーだと思うし、俺とミナと魔法が原動力ということで現代の船にも通用すると思う。

 むしろある部分では(しの)いでいるだろうな。


「この船はとても速いのですね。それに揺れません」


「ああ、俺とミナが動力だから速いよ。それと、この船室の部分は船体から離れていて、揺れや衝撃を吸収する仕組みになっているんだ。魔法で造った特殊な油に浮いている状態なんだよね」


「すごいのですね」


 スセリが頬を赤くしている。

 フフ、がんばって造った甲斐があったぜ!


「しばらく平凡な航海が続くから、疲れたら船室のベッドで横になっておいてくれ」


「はい、大丈夫です」


 スセリもヤカミも船が珍しいのだろう。

 オキへ行くときもそうだったが、目をキラキラさせてはしゃいでいる。


「ミナ、疲れたら変わるからな。長い航海になるから無理するなよ」


「あい」


 最後尾でペダルを漕いでいるミナだが、武道のための足腰を鍛えられると言ったら、ものすごく張り切ってしまい、真剣に取り組んでいる。

 筋肉に乳酸を溜めない程度の負荷をかけながら、一定速度で漕ぐように指導したのだが、あっという間にコツを掴んでしまった。

 身体操作においては、ミナは天才だと言えるだろう。


 航海は退屈なくらい順調だ。


 現代の高速船並みの速度を出しているが、揺れも無く快適だ。

 知識と科学と魔法のハイブリッドなのだから、我ながら感動しているくらいなのだ。


◇◇◇◇◇


 6時間が経過した。


 あと2時間くらいでツシマに着くと思う。

 日暮れには間に合う計算だ。


 一週間前には海人族に訪問を伝えてあるから、あちらでは今来るかとまちかまえていることだろう。


 沿岸を進んでいたのだが、ツシマに向けて外海に舵を切る。

 陸地があっという間に離れていって、小さくなっていく。


 ツシマは九州と韓国の間の対馬海峡に浮かぶ島で、博多まで132キロ、韓国まで50キロという現代では国境の島になっている。

 南北に長い島で、周辺にあるたくさんの小島も含めてツシマという。


 島の90%が山であり、複雑なリアス式海岸に囲まれている。

 平野が少なくて農耕ができず、朝鮮半島も含めた海上交易の拠点として発展してきた国だ。

 スサノオ大王も、ここを真っ先に支配したらしいが、詳しいことはよくわからない。

 だから、こうして確かめに行くのだ。


「あと一時間くらいかな」


「もうすぐですね」


 ヤカミがほっとした声をあげた。

 揺れの少ない新造船とはいえ、長時間の慣れない航海は体力も気力も消耗する。

 気が張っているから気づかないのだろうが、実はかなり疲れているのではないだろうか。

 ツシマに着いたら、ゆっくり休ませてもらおう。


「船!」


 ミナがつぶやいた。


「ん? 船団か? 2隻? 微妙な数だな」


 この時代の船は集団で航海をするはずだ。

 船舶も原始的だし、神頼みの祭祀で運行するような航海なのだから、20隻くらいの船団で航海するはずなのだ。


 大海原に2隻って、ちょっとおかしいんじゃないだろうか。


「あっ!」


 そう思っていたら、1隻が沈んだ。

 よく見ると船がいるあたりに、船の残骸のようなものがたくさん浮いている。

 速度を上げようとしたら、船の残骸に捕まって漂っている海人族を見つけた。


 ロープを出して引き上げてやった。


「どうした? なにがあった?」


「海神だ! たたりに触れた」


「海神? とにかく助ける。そこに捕まっていろ」


 男に俺の席に捕まっているように促した。


「ミナ、そこのレバーを引いてくれ。高速モードだ!」


「あい!」


 ミナがレバーを引くと、船底の左右から巨大な翼が海中にせりだした。

 スクリューが上がり船底に格納される。


「みんな、振り落とされるなよ!」


 舵の部分から魔力をそそぐと、船尾から大量の水が噴出した。


「ガッ」


 ガツンという衝撃とともに加速して船が浮き上がった。

 船底の水中翼の先端が海面を切って走り出す。


「うぃーーひゃっほぅ!」


 ククク、厨二全快な超高速船、それがこのレインボーなのだ!

 俺の膨大な魔力による水魔法の噴射を推進力として、海面を飛ぶように走る船。

 現代の高速船の2倍、80ノット、つまり時速160キロは出ているはずだ。


「こえええええ、わははははは!」


 いやあ、恐怖で笑いが止まらないw

 スセリやヤカミも顔がひきつっている。

 写真に撮って後で見せてやりたいな。

 ああ、カメラがねえや。


 さあ、テンションが上がってきたぞ!


「あれは!?」


 海神に襲われているという船に近づくと、海中に巨大な黒い影が見えた。

 なんだこれでかすぎるだろ?

 クジラか?


「イカアアアアア!?」


 海面を割って波を跳ね上げて現れたのは巨大なイカだった。

 よくいうクラーケンってやつ?


 でかい吸盤のついた触手が、8人ほど乗っている木造船に向かっている。


「ミナ!」


「あい」


 さらに加速して船とイカの間に割り込んでいく。

 ミナが船首に移動して、この速度と揺れの中で大剣を手に立ち上がった。

 いや、どんなバランス感覚と胆力なんだよ!?


「あい」


 ミナが飛び上がって巨大な触手を両断した。

 宙返りをして船尾に着地する。

 同じこと俺にできるかな?

 いや、あんま自信ないな。

 師弟逆転の恐怖が頭をよぎった。


「ヤカミ、火魔法だ!」


焦土炎地獄(エグソダス)


 ヤカミの杖の先から激しい炎が噴射された。

 イカの頭が吹き飛んで、熱で周囲が焼け焦げている。


「ブフォオオオオオ」


 イカの目が赤く怒りに染まり、真っ黒な墨を吐いてきた。


「おまかせください」


 スセリが結界と浄化魔法で無効化する。


「そらぁ」


 直角より鋭利な角度で船を切り返す。

 もはやUターンに近い。


 水中翼の角度を変えて、水魔法による水流の噴射を制御することで、この船はその場で回転することすらできるのだ。


「なんだこの船は!?」


 必死で捕まっている海人族の男が叫んだ。

 フフフ、どうだ俺の新造船レインボーはすごいだろう?


 そしてヤカミが火魔法で追撃しようとすると、イカは海中深く逃げていくところだった。


「大丈夫ですか?」


 ゆっくりと木造船に近づく。


「あなたたちは神か? 海から来て我らを救ってくれた」


「俺はワ国イズモの大波武一(おおなみむいち)、スセリ姫とヤカミ姫、そしてタケミナカタだ」


「タケミナカタ様!? やはり神ではないか?」


「あい」


 海人族たちが全員、ミナを見ている。

 そしてここに、ミナに全力で嫉妬している俺がいた。

 船を造ったのは俺なのに、俺だってがんばったのに・・・。


「大丈夫ですよ」


 スセリが憐れみの目で俺の肩に手を置いた。


「しかし、でかいイカだったよな」


「海神だ」


 木造船の男達が言った。


「いや、でかいイカだってば。てか、この船すごいでしょ?」


 海人族なら俺の船のすごさがわかるはず、すると、男達の顔が驚愕に染まった。


「海神だ!」


「いや、それほどでもないって、いやあるかな」


 フフフ、海神と讃えられるのも悪くは無い。

 むしろ、これからそっち方面目指しちゃおうかな。


「海神!」


「いや、だからそんなでもないって、もっと褒めて」


 しかし、みんな驚きすぎだろ。

 この船のすごさがそんなに理解できたのだろうか?


「オオナムチさん」


「ん?」


 スセリが俺の肩を叩いて、俺の後ろを指差した。


 振り向いた俺は固まった。


「え? 海神じゃん」


 振り向くとそこには、巨大な龍が俺たちを見下ろしていた。


 そう、あきらかに海神がいたのだ。

いつも読んでいただいて感謝しています。

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