驚きっぱなしのガイムさん
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翌朝、俺たちは海岸を調べていた。
「とくになにもないな」
フィッシュマンたちが襲来したとされる海岸だが、とくに変わったものもない。
船も無いし、やつらは泳いできたとでもいうのだろうか?
調べてもわからないので、一旦、村に戻ることにした。
「ムイチ、いや、次期大王様、本当に感謝している。ありがとう」
族長のキクムさんが礼を言ってきた。
「いやほんと、なんてことないんで。気にしないでください」
あまりに感謝されると、なんだか恐縮してしまうな。
「またいつでも寄ってくれ」
「はい、それとお願いがあるんです」
「なんだ?」
「村の若者を二人、本土で教育したいと思います」
俺の提案にキクムさんは一瞬とまどったが、すぐに聞き返してきた。
「教育とは?」
「稲作をおしえます。一年はかかると思いますので、人選をしてアマ王城に送ってください。そこから本土に送るように手配しておきます」
俺は来年度、ノキで本格的な米作りをはじめる。
そして、そこに村々から若者を集めて、米作りなどをおしえるのだ。
その若者たちが技術を習得したら、村に帰って村の農耕を指導する。
こうして、この国を豊かにしていこうと思っている。
この村には、とくに思い入れがあるし、豊かになってもらいたい。
「差し出せるものはないぞ?」
キクムさんが申し訳なさそうに言った。
ワ国に所属してまだ日が浅いこの村は、はっきり言ってとても貧しい。
狩猟採集で清貧に生きてきたのが、この隠れ里なのだ。
「もちろんなにもいりませんよ。豊かになってから税で返してください」
「わかった。甘えさせてもらう」
俺とキクムさんはがっちりと握手をした。
「ムイチよ。豊かさを履き違えるでないぞ」
婆さんがやってきて言った。
「ええ、むずかしいけどがんばりますよ」
「人は貧しければ助け合うが、富の蓄積は争いを生む。年寄りの言葉じゃが大切にしておくれ」
「そうですね。よく考えてみます」
たしかに物質的な豊かさというのは、よいことばかりではない。
豊かになって富を蓄積できるようになると、富を持つ者と持たない者の貧富の差が生まれる。
そして貧富の差は争いを生むし、多くの戦争は富の奪い合いなのだ。
ただ、この世界はすでに富を知ってしまったし、地域差はあるが戦乱も生まれている。
俺はまずは飢えを無くし、人口を増やそうと思っている。
豊かさを求めながら足るを知るような社会の実現、それはとてもむずかしいと思うが、2000年先の知識を持つ俺だ。
叡智の祝福もあるし、失敗はするだろうけど、そこから多くを学び取って前進できると思う。
「キクムさん、婆さん、また来ます。みなさんによろしく伝えてください」
ミナの命令で、家臣団もこの村に残ることになった。
俺たちは村を出てアマ王城に向かった。
☆☆☆☆☆
アマ王城では、駐屯しているワ国軍の将に会った。
「村に魔物の襲撃があった。殲滅したが、ワ国軍兵士を20名ほど駐屯させてほしい。費用はすべて国庫から出す」
「わかりました」
「それと、オキの村のすべてから若者を2名ずつ集めて本土のノキ町に送ってくれ。そこで一年間の研修で稲作をおしえる。この費用もすべて国庫から出す」
「わかりました」
ものわかりのいい将兵で助かった。
新しく併合した島だからなのか、とても優秀な人材が送り込まれているようだ。
アマ国王に挨拶をして、アマの町の武器屋ガイムさんのところに寄った。
島を出る前に寄る約束をしていたからだ。
「来たか大王」
「まだ大王じゃないですから」
「ほら、これは姫さんたちにだ」
「うお?」
スセリには水色の宝石がついた杖、魔力を高める効果があるそうだ。
「ありがとうございます」
スセリがにこにこと笑っている。
ヤカミには赤い宝石がついた杖で、これはとくに火魔法が強くなるらしい。
「ヤカミって火魔法が得意なの?」
「そうですよ。イナバ国では一番でした」
「はっは、嫁のことを知らないのか?」
ガイムさんが豪快に笑っている。
「ガイムさん、少し稽古をつけてもらえませんか?」
「あん? 俺は膝がいかれてるし稽古になるかわからんぞ?」
「俺の強さもたしかめてほしいんです。自分では判断できないので」
「そういうことか。まあ、それくらいならやってやろう」
ガイムさんは店を閉めて、中庭に案内してくれた。
「ほらよ。木剣でいいか? まあ木剣でも打ち所が悪ければ死ぬがな」
ガイムさんは笑っているが内容はダークだ。
「よし、来い」
合図とともに踏み込んで、まずは頭を狙ってまっすぐに打ち込む。
ガイムさんが怖い貌になった。
「探るな! 俺は膝壊してて長時間は持たないんだから、最初から全力で来い」
「はい」
フェイントを織り交ぜながら連撃を叩き込むが、すべて簡単にいなされる。
さすが元イナバ国最強の武人だけあって、すさまじい技量だ。
膝をかばいながらのこの動き、目も勘もまだ錆付いていないようだ。
無呼吸の連撃の終わり、一呼吸ついたところで、俺の喉元にガイムさんの木剣の剣先があった。
「終わりだ」
「あっ」
やられた。
さすがに老獪だ。
「ふぅ、もうおまえとは二度とやらないぞ。勝ち逃げさせてもらう」
「そんな、また稽古をつけてくださいよ」
「おまえは俺のケガを労わって全力じゃなかっただろう? それに次やったら俺では相手にならないからな。さっきのが最初で最後の俺の勝ちの目だったのさ」
「くう」
「おまえは甘いな。その甘さがおまえを死地に追いやるかもしれんが、その甘さがおまえのよさかもしれん。まあ、おまえは強いぞ。今のイナバ国一よりも強いだろうな」
観光主体のイナバ国では、あまり武は重視されていないのかもしれない。
まあ、強いと認められたことは素直に喜んでおこう。
「そうだ。剣を見せてみろ。どんな獲物を使ってるんだ?」
「はい、これです」
俺は生太刀を渡した。
「なんだこれは!?」
ガイムさんの顔色が変わった。
「生太刀です。スサノオ大王にもらいました」
「生太刀だと!? 神話級武器じゃねぇか? 存在してたのかよ?」
ガイムさんは食い入るように剣を見つめている。
「それとこんなのもあります」
生弓を渡す。
「そんなばかな!? なんで?」
ガイムさんの目がまん丸だ。
「あとこれ」
天地理矛を渡す。
「こ、これは?」
「天地理矛です。カワイキュンに造ってもらいました」
「カワイキュンだと? 神の匠じゃねーか!?」
武器屋のガイムさんには、俺の持っている武具の価値がわかるのだろう。
この驚きっぷりは並大抵のものではない。
「カワイキュンはもう武具は造っていないと聞いたが? てか生きてるのか? 神代の時代の神だぞ?」
「え? 普通にカフェやってましたけど?」
「カフェぇ!?」
ガイムさんは頭を抱えている。
「わかったムイチ。いやよくわからんが、意味がわからないってことはよくわかった。おまえの武器は最強のものだ。それらに並ぶものは十種の神宝の宝剣などごくわずかだろう」
「はあ」
「おまえの技量にその神級武具たち、その組み合わせでは敗北はあるまい。いや、本当にいいものを見せてもらった」
ガイムさんは満足そうないい表情になっていた。
「おまえがいつかヒボコを倒せ。俺の仇をとってくれ」
「がんばってみます」
強いやつはいやだが、空気を読んで答えてみた。
「それじゃあ、また寄りますね」
「ああ、いつでも来い」
俺たちは店を出て、アマの港に向かった。
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