第九話 装備も騒動も揃いました
宿屋のあるエリアは、そんなに人通りが多くはない。
全力で追いかけるとすぐに集団に追いついた。
そのまま走って人相のよくない男たちを追い越す。
「待て!」
振り返って追ってくる男たちを威圧すると、男たちは俺を囲むようにして足を止めた。
6人か・・・多いな。
顔つきは凶悪なのだが、身なりもちゃんとしてるし、それなりに訓練されているようだ。
一人でかいのがいるが、あとは俺と同じか小さいくらい。
まあ、武器も持っていないし脅威は感じない。
追いかけられていた幼女は走り去っていった。
足すげー速いな。
よし、まずは追われている幼女を逃がすというミッションはクリアだ。
すると、リーダー格っぽい男が前に出てきた。
「何者だ?」
「名乗るほどの者じゃない」
いや、実際のところ肩書きも所属もないし、世話になりはじめた村は隠れ里だし、名乗れる名前がないんだよね。
それに、悪党に名乗るって、どう考えてもデメリットしかなさそうだしね。
「邪魔をするな!」
後ろの男が焦った顔で叫ぶ。
「白昼堂々と人さらいとは感心しないな」
軽くドヤ顔。
こういうシーンでこういう台詞って、なんだかヒーローっぽくない?
「はぁ?」
男達が唖然とした顔をしている。
「ミナ様は我らが仕える姫だぞ?」
「えっ!?」
リーダー格の男に話を聞くと、追われていた幼女はミナ様という姫らしい。
男達はその配下の者だということだ。
つまり、ミナ姫様と家臣団ね。
三日ほど前に交易船で町にやってきて、今日帰る予定だったのだが、ミナ姫が帰りたくないと駄々をこねて脱走したのだという。
それを追いかけていたところ、俺が人さらいと勘違いしてしまったようだ。
いや、だって、この人達って人相悪すぎるし・・・。
「すいません」
俺はショボーンな感じで謝った。
「いや、勘違いされても仕方のないこと。たしかに傍目から見れば、我らは人さらいに見えるでしょう」
リーダー格の人は笑った。
なんかこの人達って、見た目と違っていい人っぽいな。
「追わなくていいんですか?」
止めた俺が言うなって感じだけど聞いてみた。
「今さら追っても無駄です。今日の船はもうあきらめました。次は一週間後ですからね」
「でも、女の子一人じゃ危ないこともあるのでは?」
「ああ、それについては大丈夫です」
男達は顔を見合わせて笑っている。
「姫を見かけたら連絡をください」
俺は連絡先を聞いて男達と別れた。
くそう失敗したなあ。次からはもう少し気をつけよう。
「あれ、オオナムチ?」
宿屋に戻る途中で、歩いているキクムさんたちと出会った。
「どこに行ってたんだ?」
「あ、えっと、散歩です」
「そうか。夕食までには帰れよ」
「はい」
宿屋で夕食が出るらしい。
俺はせっかく出かけたので、気になっていた広場に向かった。
◇◇◇◇◇
広場に着くと、あいかわらずたくさんの人だ。
露店からおいしそうな匂いがしているが、晩飯前なので我慢する。
「兄さん、見ていかないか?」
いろんなところから声をかけられるが俺には目的がある。
まずは武器屋だ。
武器屋に入ると、当たり前だがたくさんの武器が並べられていた。
奥から顔に傷のあるごついおじさんが出てきたが、店主だろうか?
「坊主、はじめてか?」
「ええ、武器を買おうと思って」
客商売とは思えない物腰だが、間違いなく店主のようだ。
にわか成金の中学生である俺は、買い物とか慣れていない。
なめられないように、こなれた雰囲気を出さなきゃな。
「どういったものを探してる?」
「槍と刀、いや剣かな? それとナイフを」
武器の扱いについては、ジジイにひととおり叩き込まれていてプロフェッショナルだという自負がある。
おじさんはしばらく俺をじっと見て、胸と肩のあたりをさわってきた。
「ほお、かなり鍛えてるな」
「まあ、一応14年ほど修行してます」
14歳で14年修行っておかしいと思った人もいるだろうけど、ジジイは俺が生まれたときから常軌を逸した修行を課していたらしい。
恩着せがましく何度も言ってきたが、0歳から武道の修行って頭がおかしいとしか思えない。
まあ、もちろんその時のことは覚えてないんだけどね。
くそう、ジジイのどや顔を思い出したら腹が立ってきた。
「予算は?」
「全部で100万くらいで」
「お、結構持ってるな」
厨二にとって武器はロマンだ。
そして、成金は成金らしく、さくっと無計画に使うのだ。
しかし100万は残すところが小物臭がするが、俺は成金なので実際のところ小物だ。
おじさんは店の奥に引っ込むと、しばらくして槍を出してきた。
「槍ならこれなんかどうだ?」
シンプルな鉄の槍だ。
長さは2メートルほどで、柄の部分は黒ずんだ木でできている。
装飾はなくシンプルなデザインだが、実戦向きで性能は高そうだ。
手に持ってみたが、しっかりとした造りで握りも馴染む感じだ。
「いくらですか?」
「40万だ」
「もらいます」
高いかなとも思ったが、あの巨大カニがいるような世界なのだから、ある程度しっかりした武器じゃないと不安だ。
「刀というのは異民族の武器か?ちょっと俺にはわからんな」
「いえ、なんというか、あ、剣をお願いします」
「これはどうだ?」
両刃の鉄の剣。
見たところ鋳造かな。
刃はそれほど鋭くないし、斬るというより叩くタイプだ。
「もう少し細いものがあれば」
「これならどうだ?」
刃わたり60センチほどの細身の剣。
鉄製で結構重い。
これは鍛造っぽいな。
遠い間合いは槍があるから、剣はこのくらいの長さでいい。
「これはいくらでしょうか?」
「50万だ」
「もらいます。ちなみにこの剣は、どのくらいのレベルのものですか?」
「一般的な生産品としては上級品だな。警備兵が使う剣で20万円程度だから、これ以上のものはそうはないぞ」
うん、たしかにこれはいい剣だ。
「残り10万円でナイフならこれくらいかな」
刃渡り25センチほどの鉄のナイフだ。
片刃で柄には革が巻いてある。
「じゃあそれで」
「100万円だ」
貝のお金で払うと、武器を渡してくれた。
「俺はガイムだ。坊主は上客だから覚えておいてやる。次来た時はオマケしてやるよ」
なぜか上から目線だが、いやな感じはしない。
「ありがとうございます」
ぶっきらぼうだけど気持ちのいい人だ。
目利きもいいし、また買いに来ようと思った。
次に防具屋に行って皮の胴と脛当てを買い、服屋で下着や服を買った。
ゆったりした麻の着物とズボンで、防具は服の下に装着できる。
鉄の鎧なんかもあったが、動きが鈍くなるのでやめた。
それからあれこれ買い物をして、宿屋に帰る頃には薄暗くなっていた。
ちょうど夕食の時間らしく、食堂に案内された。
「オオナムチ、こっちだ」
キクムさんがいた。
「あれ?」
テーブルにはジレともう一人・・・。
ミナ姫様がいた。
ヒロインって重要ですよね。
そして、もうちょっとテンポよくしたほうがいいのかな?
くどくならないように気をつけます。




