PANDRA
昔のネタにリハビリを兼ねて書いてみました。
一応禁断ものです
幼少のころ生まれが卑しいからと、私は本邸ではなく別邸ですごした。
そこは本邸と変わらず、蔑んだ瞳のささる場所で幼いころの私はおびえながら長い一日を過ごしていた。
それが変わったのはあの人が別邸で暮らすことになった日。
暑い日が続いたその年にあの人は身体を崩し、本邸よりも過ごしやすい気候の別邸に療養にやってきたのだ。
この家の異物であった私にとって、あの人は至高の存在だった。
『おや?そんなところで何をしているんだい。怖がらないで、出てきなさい。おいしいおやつもあるから一緒に食べよう』
人に見つからないように隠れていた机の下で偶然あの人がペンを落として見つかった。
最初は驚いたように目を見開いたあの人は次には笑って私に手を差し出してきた。
私は誰にも向けられることのない笑顔を向けてくれたあの人に焦がれ手を伸ばした。
それからの日々は私は幸せだった。
私にとって至高の存在のあの人は他の人にとってもそうだったのだ。
あの人が是とすればすべてが覆る。
私はいつもあの人のそばにいても誰も文句は言わないし、あの人も笑ってそれを受け入れてくれた。
なんて幸せなんだろう。
あの人は身体が治ってもここにとどまってくれたのだ。
『僕がいれば何も怖いことはないよ。ほら、幸せにおなり』
そう笑って頭を撫でてくれる感触はいつまでたっても忘れられないこと。
ああ、神様。私は幸せです。
とても幸せで幸せでとても苦しいのです。
私はあの人を、誰よりも愛してしまったのです。
罪深くも、私のお兄様を…
昔は信じていた。
いい子にしていればお兄さまのお嫁様になれるって…馬鹿みたいに信じていた。
そんなこと叶うわけないのに
お兄様に甘えきっていた私は抱きついて毎日のようにお願いしていたのだ。
「お嫁様にしてください」って
『僕のお嫁様に?ありがとう、うれしいな』
そういってお兄さまが笑うから白い布きれをまとって鏡に立つのが日課になっていた。
本当に馬鹿みたい…
私とお兄さまがお嫁様になれること、一緒にいられる永遠なんてどこにもない。
それは私の知らない人が得る幸せなのだ。
だから今はこの箱庭で恋をさせて。
女学校を卒業すれば例え妾腹である私も結婚という言葉が近づいてくる。
「結婚なんて、私にはまだ早いです。お兄様もまだご結婚されていないというのに!」
お兄さまのことをあげて結婚を拒もうとしても、ほとんどあったことのないお父様はお許しになってくださらなかった。
お父様が本邸にお帰りになって私は自室で泣き続きた。
未来に選択肢があるというのなら私はお兄さまといる未来を選び取りたいのだ。
お仕事から帰られたお兄様がこもる私を心配してお部屋に来てくれた。
『どうしたんだい?そんなに結婚したくないのかい?僕は君の花嫁姿を楽しみにしているというのに』
ああ、こんなに近くにいるというのにお兄様は遠い。
「私は、私は結婚なんてしたくないのです。いつまでもここでお兄様と一緒にいたいのです」
どうかこの時間が失われませんように
『ずっと一緒にいたい?しょうがないな、まだまだお子様なのだから。いいよ、一緒にいよう』
僕もかわいい妹と離れるのは寂しいからねとお兄さまからお父様に言って破談にしていただけた。
『これでずっと一緒だ』
そういって笑うお兄さまは残酷なまでに私に甘い夢を見せる。
恐れていた日がやってきた。私が結婚しなくてもお兄様がしないわけがないのだ。
「お兄様、ご結婚されてしまうのですね」
これで私の恋は叶うことなくくすぶり続けるのか
「お兄様のうそつき、私をお嫁様にしてくれると言ったのに」
最後のわがままにそういってみれば思いもしない答えが返ってきた。
お兄様は少し驚いたようで私はすぐに話を変えてしまおうとした。
けどお兄様に遮られてしまった。
『いいよ、結婚しよう』
今度固まったのは私の方だった。
聞き間違いなのかお兄様を見つめればいつもと変わらない微笑みを浮かべて笑っている。
『大丈夫、僕に逆らえるものなんていないんだよ。可愛い妹の望みをかなえてあげるのが兄としての当然だろ』
そういってお兄さまを私の腕を引き寄せて抱きしめた。
お兄様は笑っている。
なんてことないよに、私がお菓子をねだったような簡単なことのように
『いつ式にしようか、可愛い妹は何人子供が欲しいかな、それとも蜜月は二人だけで過ごそうか』
「…お兄様?御冗談でしょう?」
信じられなくて顔をあげてお兄さまの顔を見つめるが笑ったままだ。
はじめてお兄様が怖くなった。
そこに嘘も何も浮かんでいない。心底に私の願いを叶えようとしているのだ、兄として
私には甘いお兄さまだった。
私が望むことは必ず叶えてくれるお兄さまだった。
だけど、どこまで叶えてくれるというの?
お兄様は私を妹として愛してくださっていることは知っている…
そして、お兄様にとって私のこの願いも取るに足らないことなのだ。
『可愛い妹が喜ぶ姿ほど嬉しいことはないからね』
私はお兄さまにとって妹という名の愛玩物。
美しく至高の私のお兄様、たとえ貴方にとって取るに足らない存在の私であっても、その瞳に一瞬でも映れるのであればそれはとても幸せなことなのです。